田舎教師ときどき都会教師

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浅生鴨、幡野広志、田中泰延、他『雨は五分後にやんで』より。コロナがやんだら、蒼を取り戻そう。

 苦しいときにおもい浮かべる息子の笑顔は創造ではなく、いつも再生だ。日常の生活のなかで笑っていた息子の記憶が、いまの出来事と関係なく再生される。いま一緒にいる時間で息子のかなしい顔を減らすことができれば、穏やかな死の間際にかなしい顔をした息子をおもい浮かべずにすむのではないだろうか。
 病気はちいさい子どもがいる親の気持ちに配慮も自粛もしてくれない。きっと死ぬときの五分前に、ぼくは息子のことをおもい浮かべる。きっと苦しい死の間際の五分と、穏やかな死の間際の五分とではみえる景色は違うのだとおもうけど、ぼくはできれば走馬灯をコントロールしたい。
(浅生鴨、幡野広志、田中泰延、他『雨は五分後にやんで』ネコノス、2020)

 

 こんばんは。今日の通勤電車のお供は、昨日届いたばかりの『雨は五分後にやんで』でした。昨年の11月に発売された『異人と同人』の続編です。前回の作品は、Withコロナの時代に入る直前の2月に、渋谷のパルコで開かれていた「幡野広志のことばと写真展」で見つけ、購入しました。

 

 五分後にはやむだろう。

 

 今でこそ大変なことになっていますが、あの頃はそんなふうに軽く考えていた気がします。コロナの話です。五分どころか6月になっても未だやまず。シトシトと降り続くコロナの雨。幡野広志さんいうところの走馬灯と同じように、アンダー・コントロールを願いたいものです。

 

 

 浅生鴨さんをはじめとする19人の著者によって編まれた『雨は五分後にやんで』を読みました。

 電車に乗り、最初に目を通したのは、冒頭に引用した幡野広志さんの「走馬灯をコントロールしたい」です。余命宣告を受けている幡野さん。タイトルからして読ませ、そして泣かせます。走馬灯をコントロールしたいというのは、武士道に通じるでしょうか。武士道とは死ぬことと見つけたり。幡野さんは《日々のなかで息子の笑顔をふやすことで、ぼくは死の間際に後悔のようなものをすこしでも抑えられるような気がする》と書きます。

 

 創造ではなく、いつも再生だ。

 

 この部分、とてもよくわかります。ただしわたしの場合は、思春期の長女と次女が「荒ぶる季節の乙女どもよ」みたいになっているときに「再生」が始まります。昔はあんなに素直でかわいかったのに。どうなっているんだ、いったい。まぁ、今でもかわいいのですが。ちなみにこの「再生」には、カメラやスマホが身近になったことが寄与していると感じます。写真や動画を見れば、すぐに昔に戻れるし、その都度記憶が強化されますからね。そういった意味では、幡野さんの写真=走馬灯ではないでしょうか。

 

 次は『読みたいことを、書けばいい。』の田中泰延さんだ。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 忙しかったのか、或いは何かとんでもないことがあったのか。前回の『異人と同人』では、ちょっと変わった作品を載せていた田中さん。さすがに今回は『読みたいことを、書けばいい。』の著者の名に相応しい「読みもの」を載せているに違いないと思って、幡野さんの「走馬灯をコントロールしたい」に続き、わくわくしながら田中さんの「かえってきた  うちゅうじん  さぶろうさん」を開きました。そしてすぐに閉じました。満員電車だったので、ちょっと周りを気にしつつ、そしてまさかとは思いつつ、もう一度そのページを開きました。ドゴバァン。

 

 満員電車では読めません。

 

 

 ツイートに引用した文章は、浅生鴨さんの「あの僕の蒼を」からとったものです。『雨は五分後にやんで』の最初に掲載されていて、田中泰延さんの「かえってきた  うちゅうじん  さぶろうさん」はもちろんのこと、19人の著者それぞれの「蒼」を徹底的に肯定する内容になっています。小学校の学級担任にも強く響くのではないでしょうか。知らず知らずのうちに同調圧力をかけてしまいがちですから。

 

 朱に交われば赤くなるというけれども、どれほど朱い海の中を泳ごうとも、最後まで染まり切らずわずかに残る蒼こそが個人というものなのに、なぜか今僕たちは、みんなで寄ってたかってその残された蒼を朱く塗ろうとしている。それも悪意ではなく親切心で。個人を消し去ることが大切だと言わんばかりに、個人なんかでいては苦労するばかりなのだからというお節介な助言とともに。

 

 昨日のブログで紹介した本田由紀さんいうところの水平的画一化ってやつです。わたしたちの社会には、教育を含め、《みんなで寄ってたかってその残された蒼を朱く塗ろうとする》風潮が、確かにある。

 

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 五分後に、雨がやんだら何をしようか。
 五年後に、禍が去ったら何をしようか。
 

 走馬灯をコントロールすべく、

 

 蒼を取り戻そう。

 

 

異人と同人