それが僕の子供時代の、猫にまつわるもうひとつの印象的な思い出だ。そしてそれはまだ幼い僕にひとつの生々しい教訓を残してくれた。「降りることは、上がることよりずっとむずかしい」ということだ。より一般化するなら、こういうことになる――結果は起因を…
もしかしたら、「みる」に対する言葉は「みられる」なのかもしれない。しかし、私には「みる」の対語は「する」であるような気がする。そして、その「みる」という動詞を人と結びつけるとするなら、「みる者」と「みられる者」ではなく、「みる者」と「する…
私自身が「本読み競争」に参加したのは高校三年の三月からです。それまで書店で本を買ったこともなく、本好きの姉にバカにされていました。「本を読まない男に価値はない」と宣告されたときは、「多感な年頃のかわいい弟に、こんな言葉を投げつけるとは」と…
彼らは、身近な自然や社会にはたらきかけ、そこに興味を見出し、それを書いていくことに慣れていない。彼らはつねに、彼らの内からではなく外から課題を与えられてきた。したがって、彼らに課題を与えてきた教科書やドリル帳やプリントを取り除かれると、よ…
父が松原団地の病院に入院して、私が初めてひとりで看病することになった夜だった。 私は仰向けになって眠っている父の横顔を眺めながらぼんやりと考えていた。父と二人だけの行動というのがどれくらいあったか。父と二人で旅したことは……ない。父と二人で凧…
私が他者とは違う。それは当然のことだ。当然のことが当然のこととして了解される。個人の中でそれが了解され、仲間のあいだでそれが了解される。 社会全体の中で「違い」が認識され、了解され、許容されるとき、現在も続く、昭和の時代からの「いじめの構造…
なぜ神は、自分の信者が行う蛮行にまで、沈黙なさっていたのか。被害だけでなく、信者が加害者になることまで沈黙するとは、どういうことなのでしょうか。 フランスのヴェトナム植民地支配。元々は、キリスト教圏のヨーロッパ諸国による、大航海時代に遡りま…
「私は毎日書かなければならない。それは成果をあげるためではなく、習慣を失わないためだ」。これはロシアの文豪トルストイが1860年代の半ばに書いた数少ない日記のなかの一文で、『戦争と平和』の執筆に没頭していたころのものだ。トルストイはその日…
「ゲストハウスの人間関係が好きなんです。長くいる人もいるけど、基本的に旅行者でしょ。あるとき、宿で一緒になって、いろんな話をして、そしてそれぞれの目的地に旅立っていく。そういう関係っていうのかな。近づきすぎず、遠すぎずっていうような関係、…
職場もだいたい、人員的にギリギリな状態ですよね。本来は、いざというときのために余裕を持たせておくべきなんですよ。11人だけのサッカーチームなんてないでしょう? 誰かが怪我したり病気になったときのために、常にサブのメンバーを用意して、30人ぐ…
子どもが多くて、みんなが貧乏でヒマだった。 その地域全体で子育てをする感覚があった。よその家の子どもをみんなが知っているので、友達の家でごはんを食べたり、泊まり合ったりした。 いまでいうシェアハウスの原型のような「支え合い」がすでにあった。 …
結核はひとつの武器です。 ぼくはもう決して健康にならないでしょう。 ぼくが生きている間、どうしても必要な武器だからです。 そして両者が生き続けることはできません。カフカ『絶望名人カフカの人生論』頭木弘樹 編訳、新潮文庫、2014) おはようございま…
ウールズソープ村に帰省していたこの時期に、二十代前半の青年ニュートンは、何と微積分法、光と色に関する理論、万有引力の法則という、三つの大理論の端緒を発見したのである。ペストによる大学閉鎖が、若き天才を雑務から解放し、孤独の中で研究に没頭す…
まずは「自分の自由な時間」を作らない限り、他にはない自分だけの価値なんてものをつくり出すことはできないだろうと思います。何より、好きなことがあるのなら、それをする時間が長いほうが生きていて楽しいですよね。 ブラック企業に勤めていて、そんなこ…
アメリカの方は、日本に勝った後にどうやって占領するかの計画を早々と立案していた。日本人のものの考え方とか組織の作り方とかを戦時中に学者に委託して研究しています。卓越した日本人論として今も読み継がれている『菊と刀』はルーズベルトが設置した戦…