田舎教師ときどき都会教師

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カフカ 著『絶望名人カフカの人生論』(頭木弘樹 編訳)より。絶望しているときには、絶望の言葉が必要である。

 結核はひとつの武器です。
 ぼくはもう決して健康にならないでしょう。
 ぼくが生きている間、どうしても必要な武器だからです。
 そして両者が生き続けることはできません。
カフカ『絶望名人カフカの人生論』頭木弘樹 編訳、新潮文庫、2014)

 

 おはようございます。新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。5月に予定されていた Official髭男dism のライブも延期になりそうです。せっかくチケットをとったのに、とてもとても悲しい。髭ダンのポジティブなライブで「コロナ禍」によるネガティブなムードを一掃したいところでしたが、そうもいかないようです。絶望名人のカフカだったら、この状況をどのように受けとめるでしょうか。ちなみに悲しいときに悲しい音楽を聴いて心を癒す方法を「アリストテレスの同質効果」と言い、悲しいときに明るい音楽を聴いて心を癒す方法を「ピュタゴラスの逆療法」と呼ぶそうです。カフカの紹介者として知られる頭木弘樹さんが『絶望名人カフカの人生論』にそう書いていました。

 

 アリストテレス「同質の原理」
 ピュタゴラス「異質への転換」

 

 180度異なるアプローチですが、どちらもその効果が認められているとのこと。大切なのは同質を先にして異質を後にするという「順序」であり、悲しいときには最初に悲しい音楽にひたり、充分にひたりきった後に楽しい音楽を聴くのがベストだそうです。

 繰り返します。悲しいときはネガティブが先でポジティブが後。順番を守れば、髭ダンを失った悲しみからもスムーズに立ち直ることができるかもしれません。そんなわけで、フランツ・カフカの『絶望名人カフカの人生論』(頭木弘樹 編訳)を再読しました。コロナ禍による悲しみに対処するには、まず、絶望名人カフカの言葉に耳を傾けることが順番として正しいと思ったからです。

 

絶望名人カフカの人生論 (新潮文庫)

絶望名人カフカの人生論 (新潮文庫)

 

 

 フランツ・カフカといえば『変身』ですね。アルベール・カミュの『ペスト』と肩を並べる不条理文学の二大巨頭です。小学校の国語でいうと、4年生で学習する新美南吉の『ごんぎつね』がその入口といえるでしょうか。ごんを撃った後に兵十がつぶやく「ごん、お前だったのか」というあの有名な台詞は、カフカの『変身』にヒントを得て生まれたものだといわれています。目の前にいる巨大な害虫が息子だとわかったとき、きっと、父や母はこう思ったはずですよね。

 

 グレゴール、お前だったのか。

 

 冗談です。それはさておき、コロナの影響でカミュの『ペスト』に再び光があたっていることを考えると、そろそろカフカの作品にも光が当たるかもしれません。『ペスト』から『変身』へと、すなわち集団から個人へと、不条理の矛先が徐々にシフトしていくと予想されるからです。では、個人が不条理に襲われたらどのように受けとめればよいのか。絶望名人カフカの言葉が参考になります。

 

 将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。
 将来にむかってつまづくこと、これはできます。
 いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。

 

 めちゃくちゃネガティブですよね。倒れたままの状態から起き上がったらそれこそ邪悪なものに変身してしまいそうなネガティブさです。海辺のカフカくん、大丈夫かい(?)。ツイートの3行目で知られるブロガーのインクさんの言葉を借りれば、カフカは肯定の人ではなく、明らかに否定の人。しかもカフカのこの文章、恋人に宛てたラブレターの一節なんです。母性本能をくすぐるための作戦であればまだ理解できます。でも、そうではなくて、200%「まじ」で書いています。ひねくれた人間が前を向いても、徹底的に後ろを向き続けても、おもしろい。

 

 

taishiowawa.hatenablog.com

 

 頭木弘樹さんによれば、カフカがプライベートで書いていた手紙や日記には、日常の愚痴や自虐的な文章でいっぱいとのこと。サラリーマンなんてやってられない、結婚したかったけどできない、父親との折り合いが悪くてたまらない、体も弱い、おまけに不眠症。カフカが絶望名人と形容される所以です。

 

 いつだったか足を骨折したことがある。
 生涯でもっとも美しい体験であった。



 生涯でもっとも美しい体験に「骨折」を挙げる人はまずいないでしょう。さすが絶望名人です。ベースに「絶望」があると、骨折が生涯でもっとも美しい体験となったり、結核が生きていく上でのひとつの武器になったりするようです。マゾとかそういう話ではありません。カフカにとっては病気や怪我はラッキーなんです。骨折すれば仕事に行かなくていいし、結核に罹れば周りから大切にしてもらえる。そうすれば大好きな「書くこと」に集中できる。そういうわけです。いわゆる疾病利得。カフカは《もうすっかりぼくのなじみになっている肺結核は、悪いことよりは良いことのほうをよけいにもたらしてくれました》と書いています。

 

 コロナはひとつの武器である。

 

 カフカが生きていたら、そう言うかもしれません。そして、疾病利得を具体的に考え始めるかもしれません。最大のそれは公教育の構造転換でしょうか。コロナ以前とコロナ以降で、公教育が大きく変わる可能性があります。例えば、先生がいないと飛ぶことのできない「グライダー人間」を量産する学校から、自立した学習者を意味する「飛行機人間」を量産する学校への転換。そんな可能性を感じます。半年後、1年後、公教育はどうなっているのか。最後はカフカの言葉で締めます。

 

 ぼくは終末である。

 

 それとも始まりであろうか。
 

 

www.countryteacher.tokyo

 

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