田舎教師ときどき都会教師

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藤原正彦 著『心は孤独な数学者』より。孤独の中で好きなことに没頭する。ピンチをチャンスに!

 ウールズソープ村に帰省していたこの時期に、二十代前半の青年ニュートンは、何と微積分法、光と色に関する理論、万有引力の法則という、三つの大理論の端緒を発見したのである。ペストによる大学閉鎖が、若き天才を雑務から解放し、孤独の中で研究に没頭するという絶好の機会を絶好の時期に与えたのである。
(藤原正彦『心は孤独な数学者』新潮文庫、1997)

 

 おはようございます。昨日、お昼に近所のパン屋さんに行ったところ、長蛇の列とまではいかないものの、店の外に並んでいるお客さんが何人もいて、えっ(!)となりました。新型コロナウイルスの感染予防のための入場制限です。店内は4人までOK。外で並んで待つときには2メートルの間隔をあけましょう、とのこと。いわゆるソーシャルディスタンシングってやつです。

 

 ソーシャルディスタンス = 社会的距離

 

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ソーシャルディスタンスを意識した場づくり(3月)

 

 先月、高濱正伸さんの「高濱ナイト」(ゲストは為末大さん)に参加したときの写真です。すでにソーシャルディスタンスを意識した場づくりが行われていました。それでも2メートルぎりぎりといったところでしょうか。学校の教室では難しいなぁと思います。

 

 1メートル → 2メートル

 

 再開予定だったときには1メートルという指示でしたが、それだって無理です。無理というか、磁石で考えればわかるように、中途半端な距離だと余計に子どもたちは「ピタッ」っとなります。いっそのこと5メートルとでもいわれた方がまだやりようがあるかもしれません。

 いずれにせよ「飛沫感染を防ぐためには最低でも2メートルは必要ですよ」ということが常識になれば、学校再開のハードルはさらに上がるでしょう。ニュートンやハミルトンやラマヌジャンといった過去の数学者でも、この難問ばかりは、苦戦を強いられるかもしれません。

 

心は孤独な数学者 (新潮文庫)

心は孤独な数学者 (新潮文庫)

 

 

 藤原正彦さんの『心は孤独な数学者』を再読しました。藤原さんといえば、ベストセラーとなった『国家の品格』が有名ですが、わたしの一番のお気に入りはデビュー作のエッセイ『若き数学者のアメリカ』です。若き数学者とは著者である藤原正彦さんのこと。数学や留学に興味をもってほしいと思って、長女(15)や次女(12)にもすすめた一冊です。

 

 すすめるのは簡単。
 読ませるのは至難。

 

 そして2番目のお気に入りが、冒頭に引用した『心は孤独な数学者』です。3人の天才数学者の足跡を辿った、同業者による評伝紀行。その3人とは、万有引力のニュートン、ニュートンの『プリンピキア』を12歳で読破したハミルトン、そして世界に見出されるまではインドの片田舎で独学をしつつ、事務員をしつつ、糊口を凌いでいたラマヌジャンです。

 

 ラマヌジャン(1887-1920)の話が、よい。
 

 ざっくりいえば、貧しい国で生まれた少年が独学で勉強し、やがてチャンスをとらえて豊かな国へと旅立ち、功成り名遂げて帰郷するという話です。田舎の弱小チームが甲子園に出て優勝するようなもので、おもしろくないわけがありません。以前にこのブログで紹介した『風をつかまえた少年』と同じです。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 1887年、南インドのタミル・ナードゥ州で生まれたラマヌジャンは、小中高とほとんど独力で数学を学び、高校を出た後は働きながら数学の研究を続けます。直感的な閃きに優れ、寝ている間にナーマギリ女神が教えてくれた(!)などと言ってはおびただしい数の定理や公式をノートに書き留めていたとのこと。そのノートの一部を宗主国イギリスの数学者たちに送った際、幸運にもそれがケンブリッジ大学のハーディ教授の目に留まり、そのことがラマヌジャンの人生を好転させます。風をつかまえたラマヌジャンは、その後イギリスに渡り、ハーディをして《私の数学界への最大貢献はラマヌジャン発見である》と言わしめるような活躍を見せることになります。

 

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タミル・ナードゥ州にある世界遺産・海岸寺院(98年)

 

 ラマヌジャンの「閃き」を表す、こんなエピソードが書かれています。

 

顔を合わせるなりハーディが、「天気がひどいうえ、タクシーの番号も1729というつまらぬものだった」と冗談のつもりで言った。とラマヌジャンが間髪を入れずに言った。「とても面白い数字ですよ。三乗の和として二通りに書き表せる数のうち、最少のものです」。

 

 1729=1✕1✕1+12✕12✕12
 1729=9✕9✕9+10✕10✕10

 

 確かに二通り書けます。このようなもののうち、最も小さいのが1729である。そう閃いたというわけです。いったいどうやったらそのようなことがパッと閃くようになるのでしょうか。藤原さんは《クンバコナムで少年時代に、せっせと石板で計算した結果を、ちゃんと覚えていたのである》と書いています。石板というのは小黒板みたいなもので、紙を買うことのできなかったラマヌジャンは《白い石筆で数式を書いては肘で消す》ということを何度も繰り返していたとのこと。少年時代の「没頭」が閃きにつながっているというわけです。

 

 孤独と没頭と。

 

 ニュートンに関する冒頭の引用は、ペストのところをコロナに変えると《コロナによる大学閉鎖が、若き天才を雑務から解放し、孤独の中で研究に没頭するという絶好の機会を絶好の時期に与えたのである》となります。すなわち、新型コロナウイルスの感染拡大によって「孤独の中で好きなことに没頭する」という絶好の機会が生まれている。そう読むことができます。

 

 風を巧くつかまえて。

 

 ピンチをチャンスに。

 

 

若き数学者のアメリカ (新潮文庫)

若き数学者のアメリカ (新潮文庫)

 
国家の品格 (新潮新書)

国家の品格 (新潮新書)

  • 作者:藤原 正彦
  • 発売日: 2005/11/20
  • メディア: 新書