宮台 今回とても重要だと思ったのは、「有能さ」のあり方です。検事の有能さと医者の有能さは似ていると思いました。患者一人ひとりに向き合っていたら処理できない。簡単に言えば、流れ作業のような対処をしないと仕事が終わらない。介護の仕事をやっている人も同じかもしれません。有能な介護職の人なら、一人ひとりに対してはいかにも思いやりがありそうな仕草で、しかし全体としては仕事を流れ作業のように進める。流れ作業の中で、ルーティン化が進み、そのために、本来はチェックすべき部分が見逃されがちになります。たぶん今、多くの現場でこのルーティン化を避ける仕組みが必要になっているんですよね。
神保 逆側からの見方ですね。
宮台 そうです。検察官のリアリティを変えるための仕組みを新たに作らなければ、問題は解決しないということになります。
(神保哲生、宮台真司『暴走する検察 歪んだ正義と日本の劣化』光文社、2020)
こんばんは。教育の世界に「定額働かせ放題」という問題があるように、司法の世界には「人質司法」という問題があります(あるようです)。定額働かせ放題の「放置」によって教員は奴隷のように扱われ、人質司法の「放置」によって被疑者は奴隷のように扱われる。記憶に新しいカルロス・ゴーンの逃亡劇は、日本の「人質司法」の問題を世界だけでなく日本人にも知らしめたという意味で、よかった。社会学者の宮台真司さんはそう指摘しています。
日本の司法制度は国連の拷問禁止委員会から再三にわたって改善勧告を受けているって、知っていますか(?)。拷問ですよ、拷問。石川五ェ門もびっくり。いつの時代ですか(?)。中世です。この拷問禁止委員会から日本の教員の労働環境が「中世」のようだ、ではなく日本の刑事司法制度が「中世」のようだと批判を受けたことに対して、当時日本の人権人道担当大使だった外務省の偉い人が日本を擁護しようとして失笑されるという場面がネットに残っています。2013年のこれです。
この逆ギレしている偉い人が悪いとかちょっと可哀想とかお子さんもいるだろうにとかそんなことを口にしてしまうくらい普段の仕事がハードで疲れているんだなとか、そういった話ではなく、日本ってトップエリートがど真ん中だと思って主張したことが「失笑」されてしまうくらいにズレているんだなって、その「悲しすぎる現実」に唖然とします。そしてそれは司法だけでなく、おそらくはメディアも然り、そして教育も然りです。
神保 マル激の過去のテーマを振り返ってみると、「司法」と「メディア」と「教育」の三つの分野が、日本でずっと問題があると言われながらなかなか改善されないでいることがわかります。どうやらこの三つが、日本が現在の閉塞から抜け出せない大きな原因になっているようにも見えます。
上記のような動画、主要メディアでは流されませんからね。ジャーナリストの神保哲生さんがいうように、メディアには間違いなく問題がある。だから人生に必要な知恵はすべて日本初のニュース専門インターネット放送局で学んだ。この動画の存在も、拷問禁止委員会からの改善勧告といった話も、神保さんと宮台さんによって毎週1回配信されるニュース討論番組「マル激トーク・オン・ディマンド」に教えてもらいました。レイチェル・カーソンがいうように「知ることは感じることの半分も重要ではない」けれど、感じたからには知ることが大切です。そして知ったからには発信する。定額働かせ放題って、確かに働いてみたら、特に共働きの子育て夫婦にとってはほとんど罰ゲームみたいな感じで、もしかしたらこれって拷問なんじゃないの(?)。もしかしたら世界から改善勧告が出ているんじゃないの(?)。宮台さんは次のように語っています。
宮台 ルクセンブルグやグラシムに言わせれば、マスメディアが鍵を握ります。「恐ろしいのは犯罪者ではなく、犯罪をせざるを得ない人々を放置する脱法的な特権階級こそが恐ろしい」と人々に毎日のように伝える。そうすれば人々は改革の動機付けを持つだろうと。僕自身がずっと公言してきたように、人々の社会解釈において「ひどいことが起こっている」という認識が加速されるべきだと思っています。
一昨日、Twitter で「先生死ぬかも」というハッシュタグがトレンド入りしていました。病むか死ぬか辞めるかを選択せざるを得ない教員を放置するシステムって、恐ろしいですよね。旧くて、固いシステムがあり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ。でももしも本当にその壁を壊そうと意図するのであれば、壊れる卵のことをもっともっと知らしめた方がいい。宮台さんが公言しているのはそういうことです。
過労死で亡くなる先生が後をたちません。#先生死ぬかも ではなく、実際にはもう先生死んじゃっているなのです。先生は、過労死が多い職業だと過労死白書にも書かれています。小学校の3割、中学校の6割の先生が過労死ラインを超えて働いています。何が問題か簡潔に説明しますhttps://t.co/oRV0oEMrTh pic.twitter.com/pyDJuo1nDM
— たかまつなな/時事YouTuber (@nanatakamatsu) August 15, 2020
NHKを辞めたたかまつななさんがこうやって声を上げてくれるのは、本当にありがたいことです。マスメデイアが鍵を握る。たしかに。でもやっぱり、辞めないと声を上げることって難しいのだろうなぁ。『暴走する検察』に登場する、元検察官の郷原信郎さんや市川寛さんも同様です。
神保哲生さんと宮台真司さんの『暴走する検察 歪んだ正義と日本の劣化』を読みました。マル激を書籍化したシリーズものの12冊目にあたる本です。検察の暴走がテーマですが、例えば「暴走する給特法 歪んだ正義と教育の劣化」という視点で読んでも得るところ多です。給特法というのは、教員の「定額働かせ放題」を時限爆弾のようにして実現させちゃった法律です。詳しくは下のブログに。
『暴走する検察』に登場するゲストは以下の顔ぶれです。
郷原信郎さん(弁護士・元検察官)
市川寛さん(弁護士・元検察官)
安田好弘さん(弁護士)
周防正行さん(映画監督)
足立昌勝さん(法学者)
今村核さん(弁護士)
元検察官の郷原さんと市川さんの話が印象に残りました。このシステムはおかしい、と思って職を辞し、システムの外へ飛び出して声を上げている二人です。郷原さん曰く《検察の経験を持っていて、今はその外にいるから、客観化できるだけです。中にいたらわからないですよ》云々。郷原さんは、この書籍の刊行のタイミングに合わせて(?)マル激にゲストとして登場しています。この回(第1008回/2020年8月1日)はしばらく(3ヶ月くらい)無料で視聴することができるので、是非。宮台さんの映画の話もいつもながら勉強になります。
市川寛さんは、良心の呵責に耐えられず、冤罪をでっちあげたこと(自らの非)を法廷でカミングアウトしたことで知られるようになった人です。
世界から拷問と揶揄されている日本の人質司法は、《警察が逮捕してから検察が起訴するかどうかを決めるまで23日間の拘留が可能》という制度であり、《この23日間ならいつ被疑者が自白しても、裁判で自白が有効とみなされる》というところに問題があるとされています。弁護士の立ち会いもなく、可視化もなく、あの手この手で被疑者精神的に追い込んで「推定無罪」もクソもなく無理矢理自白を強要させるというヤベー仕組みです。ちなみにアメリカの起訴前勾留期間は1日~2日、英国は原則1日、フランスは4日、ドイツは原則48時間以内です。それ以上は、拷問。
曰く《当時の私は、次席検事のやり方が気に入らないし、逆らえない自分も気に入らない。とにかく怒りで煮えたぎる毎日を過ごしていました》という心理状態にあったと振り返る市川さんは、有能であるが故に「ぶっ殺すぞ」などという言葉を使って被疑者(70代)を不当に締め上げ、ルーティーンを貫徹すべく嘘の自白を強要したとのこと。そして別の「有能さ」ゆえにそのことをカミングアウトしたというわけです。
宮台 道徳教師よろしく人を責めても意味はなく、組織風土に問題がある。組織風土という問題の解決は、部分だけでなく、全体を変えないと難しい。その一方で、神保さんが言った通り、大きなことだけを言っていても改革が進まない。
神保 どこかに取っかかりを見つけないとまずいですね。
宮台 そのためにも、全体と細部を同時に変える必要性を論じなくてはならない、ということです。そうしないと表面的な改革だけになってしまうでしょう。
定額働かせ放題というシステムのもと、ルーティーンをこなすだけでいっぱいいっぱいな毎日。学校の組織風土を含め、マル激でも問題とされる日本の教育を変えるべく、教師には、どのような「有能さ」が求められるのでしょうか。
「有能さ」のあり方。
中にいるからか、わからず。