田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

上田信行、中原淳 著『プレイフル・ラーニング』より。あなたが書くことができれば世界を変えられる。

上田  「学ぶこと」は、「変わること」であり、「変えること」です。「読むことは、あなたの世界を広げる。でももし、あなたが書くことができれば世界を変えられる」というような意味のことを言ったパウロ・フレイレ(Paulo Freire 1921-1997)は、すごいと思います。アウトプットしてはじめて世界が変わる。インプットでは世界は変わらない。
(上田信行、中原淳『プレイフル・ラーニング ワークショップの源流と学びの未来』三省堂、2013)

 

 おはようございます。一昨日と昨日は朝から夕方過ぎまでオンラインで教員免許更新講習を受けていました。今日も続きます。

 ただでさえ短い夏休みが3日間も削られるし自腹2万2000円だし試験に落ちたら免許失効の可能性につながるしで全方位的に踏んだり蹴ったりですが、内容は Very good の Very good 。講師が記念碑的にキラキラなんです。あの『ワークショップ』の中野民夫さんや、その『ワークショップ』にも登場している、環境教育やKP法で知られる川嶋直さんなど、いわゆる「参加型の学習」にかけては彼らの右に出るものはいないという講師が揃っているんです。

 

 

 

 講師陣の「キラキラ」ゆえでしょうか、教員免許の更新を目的としていない参加者もいるし、教員ではない受講者も多。オンライン(Zoom)ということもあり、北は北海道から南は沖縄まで、参加者の名前の後ろについている「@都道府県」も多で、ジョイフルというかワンダフルというかプレイフルというか、まぁ、いいや。ちなみにプレイフルといえば、教育建築家の上田信行さんの名前が浮かびます。今回の講師ではありませんが、上田さんもまた「参加型の学習」にかけては彼の右に出るものはいないであろう、トップランナーのひとりです。なんといってもプレイフル・ラーニングの生みの親ですからね。アクティブ・ラーニングという言葉が人口に膾炙したのも、このプレイフル・ラーニングという言葉が「地ならし」的な役割を果たしていたからかもしれません。

 

 

 上田信行さんと中原淳さんの『プレイフル・ラーニング』を再読しました。プレイフル・ラーニング ≒ 楽しさの中にある学び。書斎の本棚に面陳している、大好きな本のひとつです。

 中原さんは上田さんのことを次のように述べています。

 

 僕は、上田信行さんは「この50年で最も社会に影響を与えた学習の実践的研究者の1人」であると思っています。実際、今となっては「ワークショップ」という言葉は、誰もが使う言葉となっていますが、わずか20年前には、その言葉は「作業場」以上の意味はありませんでした。上田さんが、プレイフル・ラーニングの実践を積み重ね、ワークショップという言葉の輪郭をつくりあげていったのです。

 

 これまでとは違ったタイプの学びの場をつくろう。学校教育ではない、オルタナティブな学びの場を社会に増やしていこう。そういった一連の試みを「ワークショップ」と呼ぼう。 そしてそのワークショップの中で《人々が集い、ともに楽しさを感じることのできるような活動やコミュニケーション(共愉的活動・共愉的コミュニケーション)を通じて、学び、気づき、変化する》ようなことが起きていたとしたら、それを「プレイフル・ラーニング」と名付け、概念化しよう。

 

 そう考えたのが上田さんです。

 

 ちなみに上田さん以外に「この50年で最も社会に影響を与えた学習の実践的研究者」をもう一人挙げるとすれば、それは間違いなく『ワークショップ』の著者である中野民夫さんでしょう。つまりワークショップとは、

 

 上田が予言し、中野が固めた。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 村上春樹さんの『1973年のピンボール』に《それが僕の一九七〇年代におけるライフ・スタイルであった。ドストエフスキーが予言し、僕が固めた》という刺さる言い回しが出てきます。ワークショップという、1990年代に日本で流行し始めたオルタナティブな学びのスタイルにその言い回しを援用するとすれば「それが一九九〇年代における学びのスタイルであった。上田が予言し、中野が固めた」となるでしょうか。まぁ、わたしの勝手な想像なので、年齢からすると「中野が予言し、上田が固めた」のほうが正しいのかもしれません。或いは、

 

 中野と上田が予言し、中原が固め、そして広めた。

 

 中原さんは上田さんとともに『プレイフル・ラーニング』を編んだ目的を《上田信行さんの実践の歴史、彼が影響を受けてきた理論や思想の歴史を紹介することで、クオリティの高い、革新的な「オルタナティブな学びの場」をつくりだすために必要なことを紹介すること》としています。先人の肩に乗った上で、敬意を込め、その肩の高さを乗り越えようというわけです。


 1970年代  教えることのデザイン
 1980年代  学びに没頭する環境のデザイン
 1990年代  他者とのつながりと空間のデザイン 

 

 目次に書かれている上田さんの「学びのデザイン」の探究履歴です。70年代については「セサミストリート」が、80年代については「ピアジェの構成主義」が、90年代は「ヴィゴツキーによる発達の最近節領域」がデザインを理解するためのキーとして登場しています。先見の明というか、過去なのに未来というか。いずれにせよワークショップもプレイフル・ラーニングも、それからアクティブ・ラーニングも、そういった流れの中から出てきたオルタナティブな学びのスタイルというわけです。

 

 特徴は、参加型の学習であるということ。

 

 つまりそれまでは(学校教育は)、アウトプットを大事にする参加型の学習ではなかったということです。インプットばかり。だからこそ上田さんや中野さんや中原さんが「書くこと」を通して与えた影響は大きい。冒頭の引用にある《でももし、あなたが書くことができれば世界を変えられる》をまさに実践しているというわけです。もしもみなさんのまわりに《教えるより楽しく学び合える場を創ろう》(By 中野民夫さん)といった参加型の学習が増えているのであれば、それはきっと3人が書いてアウトプットしてくれたおかげです。

 今日の午前中は中野民夫先生の講義&実習です。中野さんと上田さんの言葉を合わせると、

 

 教えるよりプレイフルに学び合える場を創ろう!

 

 そして講習はつづく

 

 

ファシリテーション革命 (岩波アクティブ新書)

ファシリテーション革命 (岩波アクティブ新書)

  • 作者:中野 民夫
  • 発売日: 2003/04/05
  • メディア: 単行本