田舎教師ときどき都会教師

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坂口恭平 著『苦しい時は電話して』より。Follow your bliss. 死にたくなるのは、懸命に生きているから。

 僕は建築家を志してきましたが、結局、地面に定着している建築物はひとつも設計しませんでした。
 でも、僕は自分なりの空間をつくったつもりです。
 それは声だけの空間です。人間の声が行き交うことで発生する公共施設。
 死にたい人がいつでも助けを求められる公共施設こそ、一番必要なのではないでしょうか。
 だからこそ僕は「いのっちの電話」をやっています。
(坂口恭平『苦しい時は電話して』講談社現代新書、2020)

 

 こんにちは。昨日、教員免許更新講習の最後に、講師のひとりだった中野民夫先生(東京工業大学教授、著書に『ワークショップ』など)が、神話学者であるジョーゼフ・キャンベルの言葉を引いて「Follow your bliss.」(自分の至福を追求しなさい)と話していました。続けて「教育は伝染。自動詞の連鎖によるやさしい革命を」と。他動詞ではなく、自動詞。例を挙げれば「変わる」は自動詞、「変える」は他動詞。他動詞は暴力性を含んでおり、教室でいえば「子どもを変える」は傲慢。教員のみなさんは「自分の至福を追求して」くださいというわけです。それが社会をよくする。定額働かせ放題のもと、奴隷のように働いている場合ではない。つまり、

 

 坂口恭平さんのように生きろ。

 

 ラディカルに要約すると、そういうことかなと思いました。坂口さんはまさに「Follow your bliss.」の人ですから。やりたくないことはやらなくていい。やりたくないことを我慢してがんばったところで社会はよくならないし革命なんてもちろん起きない。社会を持続的によくしていくようなやさしい革命は、呼吸を整え、体調を整え、食べ物を整え、中空の竹となって身体の中によい風を通して、好きに歌い、好きに描き、好きに生きる坂口さんのような大人が増え、そんな大人の姿に子どもが感染することによってしか実現し得ない。だから自分の至福を追求しなさい。そうしないと、この他動詞にあふれる世界では、苦しくなるから。そして、死にたくなるから。 

 

 

 坂口恭平さんの新刊『苦しい時は電話して』を読みました。ノーベル平和賞の受賞者を決めているという、ノルウェー国会ノーベル委員会のメンバーにも是非手にとって読んでほしい本です。イチオシです。

 

 090ー8106-4666

 

 みなさんは坂口さんの電話番号を登録しているでしょうか。わたしは以前から登録していましたが、この本を読んで更に感銘を受け、高1の長女にも登録を勧めておきました。本と一緒に、お守り代わりに。

 

本家本元「いのちの電話」がほとんどつながらないという現状を知り、2012年に一人で勝手にはじめました。1日に7人ほどかけてきますので、1年だと2000人を超えます。もう10年近くやっています。

 

 一人で勝手にはじめたというところがまさに自動詞で、これぞやさしい革命のはじまりです。本家本元は他動詞故にNG。日課としているブログに一人で勝手に感想を綴っているわたしは「連鎖」に当たるでしょうか。

 

正直なところ、政府が自殺対策を真剣にやっているようには思えません。国からは多額の税金が自殺対策に投入されていますが、どのようにお金が使われているのかよくわかりません。

 

 国も都道府県も市町村も頼りにならない。寺や神社も頼りにならない。政府のやっている「いのちの電話」は数%しかつながらないとのこと。必ずつながる110番と119番と比較すれば、確かに真剣ではありません。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 いのちの電話なんだから、110番や119番と同じくらいつながらないとまずいですよね。緩和ケア医の西智弘さんが書いている『だから、もう眠らせてほしい』に、飛び降り自殺をする人はその直前まで携帯電話を握りしめているという話が出ています。電話がつながることで救える命があるということです。さらにいえば、坂口さんが定義するところの「自殺=脳の誤作動=症状だから誰にでも起こる」に対処できるかもしれないうことです。

 

つまり、僕みたいな人が366人いれば、日本で死にたいと思って、電話をかけてきた人すべてに対応できるようになります。

 

 ちなみに坂口さんの計算によると、自殺対策に使われているホットライン関係の補助金(2019年は290億円)の15分の1ほどの金額で、その366人に平均的な給料を支払い、電話をかけてきたすべての人に対応することができるとのこと。だから坂口さんは《僕に自殺の問題について指揮をとらせてほしい》と書いています。坂口さんに一票!

 

 死にたくなるのは、懸命に生きているから。

 

 いのっちの電話にかけてくる人たちのことを、坂口さんは自身の「死にたくなった」経験(坂口さんは双極性障害Ⅱ型と呼ばれる躁鬱病)をもとに、「懸命に生きている人」や「24時間悩み続けることができる人」とリフレーミングしています。それはちょうど認知症のことをマイナスの意味での「病気」ではなく、プラスの意味での「新しい世界の入り口」であると捉えたり、発達障害のことをマイナスの意味での「発達してない障害」ではなく、プラスの意味での「発達し過ぎ障害」であると捉えたりしていた『徘徊タクシー』を彷彿とさせます。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 僕の毎日の過ごし方。

 

 苦しくならないように、死にたくならないように、僕の場合はこうやっていますよって、そんな具体例も書かれています。とにかく早く起きるであったり、小学生の時間割のように日課をつくる(前著『自分の薬をつくる』もオススメ)であったり、避難所となるような友人をもつことであったり。死にたくなった経験をたくさんもっていて、そしてその衝動と何とか折り合いを付けて生き延びてきた知恵ももっていて、さらには《死にたいと思うことからはまだ完全には離れられていません》という現在進行形の当事者意識ももっていて、だからこそ説得力にあふれます。曰く《死にたくなるけど、死なない》云々。

 

 9月1日問題。

 

 夏休み明けに子どもの自殺が多くなるという、メディアが名付けた「問題」です。本年度は9月1日ではなく、すでに2学期が始まっている学校を含め、コロナ禍のために始業式の日もバラバラですが、これまでにそういった傾向があったということは確かです。全国の小中高生に、そしてその保護者に、坂口さんの存在を知ってほしい。そして子どもたちには坂口さんのように自動詞で生きられる人になってほしい。そうすれば、いのっちの電話がその役目を終えられる日がやってくるかもしれませんから。

 

 Follow your bliss and the universe will open doors for you where there were only walls.(自分の至福を追求しなさい。そうすれば、宇宙はあなたのために、壁しかない場所に扉を開くだろう。)


 090ー8106-4666

 

 お守りです。

 

 

自分の薬をつくる

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