田舎教師ときどき都会教師

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猪瀬直樹 著『続・日本国の研究』より。活字離れの国民はイメージを消費する。

 世界最高水準の技術を追求しなければならない高速増殖炉で起きた事故は、あまりにも単純であった。配管に差し込まれた温度検知器が金属疲労で折れてナトリウムが漏れた。急流に逆らって真っ直ぐに棒を立てればいずれ倒れることぐらい小学生でも理解できる。東海再処理工場の事故もアスファルトが燃える単純なものだった。下請け任せにしていた部分をチェックしないのである。その後の事故隠しを含めなぜ無責任体制ができたのかと考えてみると、高速道路の話に似てくるのだ。
(猪瀬直樹『続・日本国の研究』文春文庫、2002)

 

 こんばんは。新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。主流になっているデルタ株はインフルエンザよりも感染力が強いとのこと。もしもクラスの誰かがデルタ株に感染して、無症状のまま教室に居続けたとしたら、ゾッとします。インフルエンザでさえ、誰かひとりがかかっただけであっという間に連絡帳が積み重なっていくというのに。この状況下で学校をリスタートさせたらどうなるのか、小学生でも理解できます。せめて緊急事態宣言が解除されるまで、2学期の開始を遅らせるなり分散登校にするなりはできないのでしょうか。学校クラスターが発生したら、担任は自責の念に駆られるに違いありません。

 

 またしても、担任任せ。
 

 冒頭の引用にある《なぜ無責任体制ができたのかと考えてみると、高速道路の話に似てくるのだ》は、高速道路だけでなく、戦争にも原発にも五輪にもコロナにも当てはまります。続・日本国の研究が必要とされる所以です。

 

 

 猪瀬直樹さんの『続・日本国の研究』を再読しました。週刊文春に連載していた「ニュースの考古学」の中から、前著『日本国の研究』のその後をフォローアップするに相応しいものを精選した一冊です。東京都知事も続けてほしかったな、そして世界一カネのかからない五輪を実現してほしかったなって、改めて思う一冊でもあります。

 

 だって、緻密だもん。

 

 草の根の情報と独自の構成力に裏付けされた母国の研究。すなわちファクトとロジックからなる活字の探求。キャスターはイメージにプライオリティーを置き、作家は活字にプライオリティーを置きます。

 

活字離れの国民はイメージを消費するのだ。

 

 残念です。理科離れと同様に、活字離れも公教育の失敗に因るものでしょうか。ちなみにこの《イメージを消費する》問題は、ルッキズムの問題にもつながっていて、日本に台湾のオードリー・タン(IT担当大臣、プログラマー、トランスジェンダー)のような理系思考の政治家が出てこないのはおそらくそのためだと考えられます。私がそう考えたのではなく、ゲンロンの東浩紀さんがそう語っていたので、ファンとして「なるほど」と強く思います。

 ファクトとロジックを武器にするオードリー・タンは、猪瀬さん言うところの《論理は事実を引き寄せ、事実がまた論理を構築する》ことを知っているのでしょう。だから、コロナの問題に取り組むことはセクシーです(!)なんて言わない。台湾の人たちは中国の脅威を常に感じているから、イメージで政治家を選んだりしない。LGBTだろうがセクシーじゃなかろうがうっかり大金を借りてしまおうが、力のある政治家に一票を投じることで命を守っている。台湾は、猪瀬さんが「ディズニーランド国家」と揶揄する日本とは違う。

 

 街頭インタビューで田中真紀子首相待望論が出たりする。はっきり言って、その程度の国民も一票を持っている。

 

 歴史は繰り返す。

 

 田中真紀子が予言し、小池百合子が固めた。猪瀬さんはそう思っているかもしれません。願わくば、小池百合子さんにイメージだけでなくファクトとロジックの力があらんことを。

 

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 で、何の話でしたっけ。そうそう、猪瀬さんの『続・日本国の研究』を読み直したんです。そしてやっぱり緻密だな、これなら世界一カネのかからない五輪も実現可能だったのになって、改めて思ったんです。例えば1996年に起きた豊浜トンネル崩落事故について書いた以下のくだり。

 

 さて、問題はここから先だ。北海道開発協会(以下、開発協会)というヌエ的な財団法人の存在を示さなければならない。不可解な活動をしている天下りの中核部隊である。
 開発協会の職員数二百人。理事長は元北海道開発局長で、十九人の役員全員が開発局からの天下り。開発局からの受注は百三十億円、申告利益は六億七千万円にものぼる。
 開発局から随意契約で受注した仕事を下請けに丸投げして、その差額を稼ぐのだ。丸投げ先は、開発協会の九割出資の子会社で、北協サービス、北協連絡車管理、北協施設サービス。さらに八割出資の子会社に北海道公共補償研究センター、その子会社、つまり開発協会の孫会社で北開補償技研、これら五社の役員二十二人全員が開発局の天下りである。

 

 豊浜トンネル崩落事故が起きる → 開発局が子会社に岩盤調査を依頼する → 子会社が差益を確保して民間会社に丸投げする。子会社、要らなくない(?)という話です。そういった「要らなくない?」という事例だけでなく、反行革トライアングル(霞ヶ関、永田町、虎ノ門)の抱える「見えない部分」が、これでもかとばかりに「活字」になり、見える化して語られる、

 

 続・日本国の研究。

 

 20年以上も前に書かれたものなのに、未だ古びれないのは、今回の東京五輪でも「電通やパソナが法外な中抜き」なんていうニュースが流れているからでしょう。コロナの感染と同様に、税の無駄遣いの仕組みや無責任体制も拡大しているのでしょうか。猪瀬さんには『続・続・日本国の研究』を期待したくなります。それにしても、パソナグループ取締役会長の竹中平蔵さんが『日本国の研究』の解説に《そこで、猪瀬氏に注文がある。それは、財投に象徴されるような、政府の見えない部分の解明に、今後とも果敢に取り組んでほしいという点だ》と書いていて、ブラックジョークだな、と。東京の敵もびっくりだな、と。

 

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 少なくない数の教員が、授業で使うものを自腹を切って購入しています。少なくない数の教員が、会計処理に追われ、時間外の無賃労働を強いられています。億単位でのカネの無駄遣い、やめてくれないかなぁ。人とカネを教育に回してくれないかなぁ。イメージではなく、ファクトとロジックに重きを置いた政治家の登場を期待します。

 

 今日、ご近所さんが救急車で運ばれました。

 

 明日は我が身です。