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奥澤高広 著『町田独立宣言』より。小学校の統合ってどう? 本当にそれでいいのでしょうか?

 町田市では、少子化と深刻な学校施設の老朽化という問題に対応するために、2040年度までに、市立小学校を42校から26校、市立中学校を20校から15校に統合する計画が発表されています。統合時に校舎を建て替えることで、老朽化の進んだ教育環境を新たな教育環境に刷新する目標を掲げていますが、本当にそれでいいのでしょうか。
(奥澤高広『町田独立宣言』中央公論事業出版、2022)

 

 おはようございます。上記の話、町田市には旧い友人がいて、彼もまた「本当にそれでいいのでしょうか」と疑問を呈していました。

 

 当然、よくない。

 

 現場が求めているのは統合・拡大ではなく分割・縮小だからです。教育先進国と呼ばれているオランダやフィンランドの小学校の規模を知っていれば言わずもがなでしょう。文部科学省いうところの「個別最適な学び」や「協働的な学び」を本気で実現しようと思ったら、或いは働き方改革を本気で進めようと思ったら、統合・拡大という選択肢は、

 

 あり得ない。

 

町田の武相庵にて with 友人

 

 あり得ない計画が発表されたのだから、おそらくは教育について真剣に考えている議員は皆無なのだろうな。市民も理解していないのだろうな。そもそも関心がないのだろうな。旧友がそう愚痴るのも無理はありません。町田市の小学校で働く教員だからです。もしも市立小学校を42校から68校に分割・縮小する計画が発表されていたとしたら。移住希望者が増えて、ここ武相庵にもお客さんが殺到するかもしれないのに。教員不足も解消するかもしれないのに。町田まるごとスクール構想で、町田を50万都市にすることだって夢じゃなくなるかもしれないのに。それなのに、

 

 なぜ、統合・拡大なんだ?

 

 あり得ない。

 

 

 奥澤高広さんの『町田独立宣言』を読みました。独立を叫んでしまうくらい、著者の町田愛があふれる一冊です。町田市民以外は絶対に手にしないであろうこの本を読んだのは、旧友が推してきたから。さらに「帰りの電車で読むといいよ」って、プレゼントしてくれたから。読んで感想を伝えないわけにはいきません。

 ちなみに著者の奥澤さんは、町田市選出の前・都議会議員です。今年の2月に行われた町田市長選挙に惜敗し、現在は合同会社 Cross Point の代表社員として政治関係の仕事をしているとのこと。おそらく将来的には国政への進出をねらっているのでしょう。あるいは再び町田市長選挙に出るのかもしれません。いずれにせよ、冒頭に引用した《本当にそれでいいのでしょうか》という問いをもち続けてほしい。そう思います。東京の小学校が統合・拡大路線に走ると、地方も追随してしまうからです。東京の影響は、でっかい。神奈川県と揶揄される町田であっても、でっかい。

 

 目次は以下。

 

 はじめに
 第一章 町田独立宣言
 第二章 経済の未来
 第三章 教育の未来
 第四章 福祉の未来
 第五章 政治・行政の未来
 おわりに

 

 当然、気になるのは第三章の「教育の未来」です。別のところに書かれている《1893年(明治26年)まで町田を含む多摩地域が神奈川県に属していましたが、自由民権運動が盛んだった町田に手を焼いた神奈川県が町田を手放したと言われています》や《GHQをして「従順ならざる唯一の日本人」と言わしめた白洲次郎は、町田市鶴川で晩年を過ごしました》なども興味深くて、ちょっとというか、かなり町田のイメージが変わって気になりましたが、ブログの趣旨からすると、言及すべきはやはり「教育の未来」、特に統合に関することでしょう。こんなことが書かれています。

 

なお、私は1クラス35人ですら児童・生徒の数が多すぎると考えています。熟練した個別指導塾の先生に聞いても、10~15人の児童生徒に1人の先生がつく状況が理想的とのことです。東京都には、エンカレッジスクールという都立高校があります。小学校・中学校において、なんらかの理由で学習に後れをとってしまった生徒に対して、さかのぼって丁寧に個別指導を行う高校です。エンカレッジスクールを視察した際に、「なぜ高校に入るまでこの子たちを放置してしまったのでしょうか。もっと早い段階で指導できていれば、人生が変わったのに」と先生がもらした言葉が忘れられません。

 

 後半の「なぜ」に対する答えは、前半に書かれている通りです。ズバリ、早い段階に相当する小学校の1クラスの人数が多すぎるから。だからこそ冒頭の引用にあるように「統合」は《本当にそれでいいのでしょうか》なんです。分割であれば10~15人の児童生徒に1人の先生がつく状況だって生まれるかもしれないのに。奥澤さんは「個別最適化な学び」と「協働的な学び」が実現している例として、オランダのイエナプラン教育を紹介しています。さらに今年の4月からそのイエナプラン教育を取り入れた広島県福山市にも言及しています。人口46万人の福山市にできるのであれば、人口43万人の町田市だってできるかもしれない。そう考えたとしてもおかしくはありません。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 このような現実を前にして、学校に必要なことは「ひき算」の発想だと思います。子どもの成長、学びに必要なことをなんでもかんでも学校に押し込むのではなく、学校、塾、習い事、地域と子どもを取り巻くあらゆる主体が協力して学びを支え、学校の負担を減らしていく、という発想の転換です。

 

 このような現実というのは、教育格差のことです。言い換えると、学校にはいろいろな子がいるということ。奥澤さんが政治家を目指したのは、そのいろいろな子との出会いがきっかけだったそうです。正確には《ある少女との出会い》がきっかけだったとのこと。しんどい状況に置かれていたその子を救えなかったんですよね。詳しくは書きませんが、曰く《一命をとりとめたものの、私は自分の無力さに涙が止まりませんでした》とあります。政治家としての原点が教育にあるのであれば、なおのこと《本当にそれでいいのでしょうか》を忘れないでほしい。

 大阪府と大阪市を統合したら財政的な面でメリットがあるといわれているように、市立小学校を42校から26校にしたら財政的な面でメリットがあるのでしょう。2つの学校が1つになれば、例えば養護教諭は1人雇えばOKになりますから。要は、教育の問題ではなく、お金の問題というわけです。お金の話なのに「統合=まちだまるごとスクール構想」のような教育の話に置き換わっている時点で、

 

 きれいは汚い、汚いはきれい。

 

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 お金のむこうに人がいます。特に教育に関しては、奥澤さんの人生を変えるくらいに影響力のある《ある少女》がたくさんいます。統合したら、ある少女やある少年を支援するチャンスは間違いなく減ります。だからこそ、旧友に代わってしつこく書きますが、市立小学校を42校から26校って、

 

 本当にそれでいいのでしょうか。

 

 第3章の「教育の未来」では、統合に疑問を呈しつつ、スタディクーポンを活用した学校と民間の連携とか、チャータースクールとか、幅広く教育の未来が語られています。町田のことは町田で決める。〇〇のことは〇〇で決める。経済や福祉などの他の章も含め、汎用性のある一冊なので、町田市民ではなかったとしても、機会があったらぜひ一読を。

 

 今日はこれから土曜授業です。

 

 行ってきます。