田舎教師ときどき都会教師

テーマは「小学校教員の働き方」&「読書、旅行、映画」

岩田健太郎さんと岩永直子さんの『新・養生訓』より。養生は権利ではなく、義務。

 もちろん日本語の情報も大切です。ですが、「日本の女性医師の状況はこうですよ」と説明するときに日本の情報しか見ておらず、「病院は忙しくて、力仕事も多いし、女医が入っていけるはずがないじゃないか」とネット上で指摘されていますが、OECDのデータを見れば女性医師のほうがプロポーションの多い国がたくさんあり、医療の世界で女性医師は無理というのは憶見にすぎないことがわかります。つまり「外国の状況がどうなっているのか」を見て、日本のデータを振り返ると、三角測量ができるのです。
(岩田健太郎、岩永直子『新・養生訓   健康本のテイスティング』丸善出版、2019)

 

 こんにちは。昨日、上記の本を手に出勤していたところ、駅を降りたところで同僚の若手の先生とばったり会い、読後の興奮そのままに「この岩田健太郎さんって人、知ってる?」と訊ねました。曰く「知りません」とのこと。しかしめげることなく、私の「岩田」愛を感染させるために、学校に到着するまでずっと「岩田健太郎さんがいかに知性的なのか」ということを力説し続けました。パワハラかもしれません。

 ちなみに何日か前に「内田樹さんって知っていますか?」とベテランと中堅の同僚2人に訊ねたところ、今朝と同様に「知らない」と返され、けっこう凹みました。これでは三角測量どころか二角(?)測量すらままなりません。学校の働き方改革が進まないのはそういったところにあるのだろうなと思います。管理職を含め、同僚の多くは「いい人」です。しかし「いい人」と「改革」の相性はあまりよくありません。日本の文脈でいうところの「いい人」の特徴は、同調圧力に弱いというところにあるからです。

 

ちなみに僕は同調圧力とか、大っ嫌いなんです。

 

 そういった意味では、岩田健太郎さんは「いい人」ではありません。もちろん「悪い人」でもありません。では、どんな人なのか。それは、BuzzFeed Japan(バズフィードジャパン)の記者&編集者である岩永直子さんとの丁々発止の対談本『新・養生訓 健康本のテイスティング』を読めば、なんとなく想像できます。

 

新・養生訓 健康本のテイスティング

新・養生訓 健康本のテイスティング

 

 

 貝原益軒の『養生訓』にネーミングのヒントを得たという『新・養生訓 健康本のテイスティング』は、ちまたにあふれる健康本(近藤誠 著『ワクチン副作用の恐怖』、デイヴ・アスプリー 著『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』、等々)の批判的な読み方を教えてくれる一冊です。教員が読むと、健康本の読み方と同時に、ちまたにあふれる教育本の批判的な読み方も学ぶことができる優れもので、健康を害することの多い教員にとっては一粒で二度美味しいお買い得の一冊といえます。

 

 みなさんは、ちゃんと養生していますか?

 

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NHKクローズアップ現代「大人のいじめ」より

 

 データ① 休憩時間は1分。

 

 春から先生になるという「ゆいりんご@teacher_2525」さんがツイートしていた画像です。文部科学省によると小学校の学級担任の一日の休憩時間は1分しかないとのこと。単純に、ひどいですよね。構造的な問題とはいえ、日本全国に何万といる管理職は「何とかしよう」と思わないのでしょうか。それにしてもひどいなぁ。ちなみに実感としては0分です。休憩なんてしていたら、定時に帰れませんから。

https://twitter.com/teacher_2525/status/1222507997378727937?s=20

 

 データ② 勤務時間・持ち帰り業務時間は11時間45分。

 

 文部科学省の「教員勤務実態調査(平成28年度)の 集計(速報値)について」によれば、教員の1日当たりの勤務時間(持ち帰り時間を含む)は、教諭だと11時間45分です。学級担任をしていない教諭も含まれているはずなので、学級担任に限ればもっと延びるでしょう。しかも途中休憩は1分です。蟹工船じゃあるまいし、小林多喜二もびっくりです。(https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/04/__icsFiles/afieldfile/2017/04/28/1385174_002.pdf

 

 データ③ 平均睡眠時間は5時間51分。

 

 さらに、ベネッセ総合研究所が出している資料「教員生活の実態と意識」によると、2010年のデータですが、教員の平均睡眠時間は5時間51分であり、これは日本人有職者の平均睡眠時間(6時間55分)よりも1時間04分短いとのこと。そもそも日本人は世界でいちばん睡眠時間が少ないと言われているのに、その日本社会の中でさらに1時間以上も睡眠時間が短いなんて、養生したくてもできません。https://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/shidou_kihon5/sc_hon/pdf/data_15.pdf

 

 まとめると、休憩時間はなく、平日約12時間ぶっ通しで働き、帰宅後は6時間睡眠もままならないというライフスタイルが見えてきます。土日も完全には休めません。だから子育て中の共働き夫婦がギブアップするのも、中堅やベテランの先生が内田樹さんを「知らない」というのも頷けます。冒頭の引用にあるように、OECDなどのデータを使って三角測量を試みれば、日本の教員のライフスタイルが「異常」であることがよくわかります。

TALIS(OECD国際教員指導環境調査):文部科学省

 

 だから働き方改革を進めなければいけない。

 

 長時間労働の是正は、日本の多くの企業と同じく、学校が取り組むべき一丁目一番地の課題です。岩田健太郎さんは《できると思わなきゃ、改革はできないのです》と述べ、次のように書いています。

 

改革というのは、これまでのスキームを変えるから改革です。

 

 教育書にある時短本や改革本は、テストの丸つけのスピードを上げる方法であったり、行事の準備を効率的に行うことによって時間を生み出す方法であったり、岩田健太郎さん言うところの「スキーム」とは関係のないレベルのものがほとんどです。それはそれでもちろん大切だし、私も大いに参考にしていますが、学校のストラクチャーを変えるような改革にはなりません。同著に《100メートルを15秒で走る人に10秒で走れという議論をしている》とありますが、その通りです。いっそのこと100メートルを走るのもテストも行事もやめてしまえばいい。「外国の状況がどうなっているのか」を見て、日本のデータを振り返れば、日本のようなテストや行事を実施していない国があることに気がつくでしょ(?)という話です。

 

「患者に尽くす医療はダメ。」
「そもそも全人的医療というコトバ、僕、大っ嫌いなんです。」
「すぐ帰りなさい。休養をとるのは権利でなくて、患者さんのための義務だから。」
 

 程度問題とはいえ、子どもに尽くす教育も、全人的教育というコトバもNGかもしれない。岩田健太郎さんの『新・養生訓 健康本のテイスティング』を読むと、そんなふうに考えるようになります。考えることや変わることを促してくれるこれらの言葉がどのような文脈、どのような意味で使われているのか、教員に限らず、ぜひ多くの人に読んでほしいものです。ちなみに3月上旬まで、紀伊國屋書店新宿医書センターで岩田健太郎さんの書籍を集めたフェアが開催されているそうです。関東にお住まいの方は、この機会に、ぜひ。『新・養生訓』で褒められている『スタンフォード式  最高の睡眠』も、ぜひ。

 

 養生は義務。

 

 昼寝します。 

 

 

スタンフォード式 最高の睡眠

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  • 作者:西野精治
  • 出版社/メーカー: サンマーク出版
  • 発売日: 2017/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
養生訓 (講談社学術文庫)

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  • 作者:貝原 益軒
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1982/10/06
  • メディア: 文庫