リスク・マネージメントの途中においても、くり返し「目的」を明確にします。なんのために感染対策を行っているのか。その目的に今の行動は合致しているのか、を確認します。
ともすると日本人の場合、「がんばること」そのものを目標にしがちです。徹夜でがんばること、家に帰らないことが目標になってしまいます。そういう「自虐的な喜び」に抗わなければなりません。できるだけ体力を温存し、冷静で緻密な判断力を失わないよう、役割分担をクールに行い、仕事が終わったら帰宅するのが大事です。ここでも「幼稚園児のサッカー」をしてはいけまん。
(岩田健太郎『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』光文社新書、2014)
こんばんは。臨時休校になってからというもの、残業と持ち帰り仕事がほとんどなくなり、睡眠時間をしっかりととれるようになりました。時間でいえば「1日の4分の1から1日の3分の1へ」と表現できるでしょうか。西野精治さんの『スタンフォード式 最高の睡眠』の「プロローグ」に《夜な夜な訪れる人生の3分の1の時間が、残りの3分の2も決める》とありますが、ようやくその「前提」にたどりついたというわけです。そして睡眠の他にも、次のような時間がとれるようになりました。睡眠と覚醒は表裏一体とはよくいったものです。
家族と話す時間。
家事をする時間。
読書をする時間。
運動をする時間。
映画を観る時間。
友人に会う時間。
勤務中の休憩時間。
ボーッとする時間。
そして、授業を欲する時間。
人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだとか、人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わったとか、ちょっとシリーズっぽくなっている本のタイトルがありますが、それに倣えば「人生に必要かつ大切なことはすべてコロナが教えてくれた」となります。持ち帰り仕事を含む残業およそ100時間(しかも残業代なし)と「幼稚園児のサッカー」の代わりに得た幸福はあまりにも大きい。
今日は家族で川沿いの桜を見ながら散歩を楽しみました。桜を愛でる時間も臨時休校によって生まれた時間です。
桜を愛でたり、本を読んだり、人と会ったりしてプライベートを充実させ、その充実を教室に還元できたら、ワークもライフも最高かよ(!)。そう思って選んだ職業でしたが、残念なことに、学校現場には「自虐的な喜び」=「残業」という巨大なリスクが潜んでいました。リスク・コミュニケーションでいうところのリスクの見積もりに失敗したというわけです。
あれから十数年、自虐性はウイルスのごとく感染拡大し、教員の労働は「やりがい 生きがい 時間外」なんて揶揄される始末に。2018年には、WHOのパンデミック宣言さながら「課題は教員の長時間労働」とOECDに指摘されています。そんな状態なので、プライベートの充実は当然「夢のまた夢」に。だからこう思います。
「残業パニック」を防げ!
岩田健太郎さんの『「感染症パニック」を防げ!』を読みました。ちょっと無理のあるつなげ方ですが、中原淳さんの『残業学』によれば《残業は「感染」する》そうなので、あながち「無理」ともいえません。残業は感染するんです。命を奪うこともあるんです。
残業も感染症のひとつ。
残業は新型コロナウイルス以上にプライベートを制限しています。だから感染症のプロである岩田健太郎さんからリスク・コミュニケーションを学んで、残業の感染拡大を防ぐ必要があります。そのための方法を、本に書かれていることと、著者である岩田健太郎さんの振る舞いを照らし合わせながら、2つ紹介します。
1つめ目は発信です。
リスク下において、情報が伝達されず、情報発信者が沈黙してしまうと、その空間を素人が埋めるようになります。その多くは、デマや非科学的なトンデモ理論、勘違いだったりします。
だから情報は提供され続けなければなりません。積極的でくり返される情報提供は、デマ、流言に対する効果的な対策になるのです。
岩田健太郎さんが Twitter や Facebook を通して新型コロナウイルス関連の情報を積極的に提供し続けているのは、リスク・コミュニケーションに則った振る舞いだということがよくわかります。有言実行です。カッコいいとはこういうことです。コロナの脅威が続く限り、岩田健太郎さんの発信は(きっと)続きます。
五輪に国や都やあれこれがここまで投資して中止したら追加の出費がこうでといろいろ教えていただいていますが災害大国日本で五輪が開けなくなるような未曾有の事態が起きた時のプランBがなかった、という事実に愕然としてます。普通リスクヘッジするでしょ。
— 岩田健太郎 Kentaro Iwata (@georgebest1969) March 21, 2020
リスク・コミュニケーターの面目躍如ってところでしょうか。リスクヘッジという言葉の使い方がドンピシャすぎて震えます。プランBがないという事実にも震えます。それこそが未曾有の事態といえるかもしれません。
2つ目は行動です。
リスク・コミュニケーターには高い倫理観が必要です。倫理に悖るリスク・コミュニケーターというのは形容矛盾です。
そしてその倫理観は行動で示されるような形での倫理観でなければいけません。単に「倫理的にやりましょう」とか「人権に配慮して」といった空疎な言葉を口にしたり文章にするだけでは「倫理的である」とはいえません。倫理的である、とは倫理的に行動している、ということなのです。
これまた有言実行です。もちろん過日のダイヤモンド・プリンセス号への乗船のことです。災害派遣医療チームの一員としてダイヤモド・プリンセス号に乗り込み、感染対策について勇気ある告発を行った岩田健太郎さん。倫理的であるとはどういうことか、小学生にも伝わるレベルで、本当によくわかった一件でした。
発信と、行動と。
残業の脅威が続いている教育界でも、岩田健太郎さんのように発信と行動を続けている人がいます。現職教員の「斉藤ひでみ」こと「西村祐二」さんです。Twitter や 書籍を通しての発信、そして署名活動や国会での意見陳述など、 次年度も頻発するであろう「残業パニック」を防ぐためにリスク・コミュニケーターとして八面六臂の活躍を見せています。
しかも「いい人」です。
なんと。
— 斉藤ひでみ/現職教員 (@kimamanigo0815) March 10, 2020
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昨日の萩生田文部科学大臣の発言によれば、臨時休校はもうすぐ「解除」という運びになりそうです。コロナの脅威も、残業の脅威も去っていませんが、4月からまた、トラブル対応や保護者対応など、リスクたっぷりの怒濤の日々がはじまります。
リスクと喜びは表裏一体。
岩田健太郎さんの『「感染症パニック」を防げ!』には、リスク・コミュニケーションにおける「休むこと」や「眠ること」の大切さが繰り返し説かれています。できるだけ体力を温存し、冷静で緻密な判断力を失わないようにすること。リスクとうまく付き合うことで、喜びにつなげること。そして、発信と行動をかたちにすること。岩田健太郎さんが教えてくれたことも、コロナが教えてくれたことも忘れることなく4月を迎えたいと思います。
おやすみなさい。