田舎教師ときどき都会教師

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池谷裕二 著『受験脳の作り方 -脳科学で考える効率的学習法-』より。脳科学で考える効率的「授業法」のヒント。

 したがって、この本ではこれから「どうしたら上手に反復訓練をすることができるのか」ということについて焦点を絞ってゆきます。
 一口に「脳をダマす」と言っても、ちょっとしたコツがあるのです。そのコツこそが効果的な勉強法の秘訣です。そのコツを習得し、海馬を上手にダマすことのできる「詐欺師」は、世間では「頭がよい人」と呼ばれるのです。
(池谷裕二『受験脳の作り方  ー脳科学で考える効率的学習法ー』新潮文庫、2019)

 

 おはようございます。米ブラウン大の研究によると、コロナ禍になってから生まれた赤ちゃんの知能指数(IQ)はそれ以前に生まれた幼児より低いそうです。ステイホームによる刺激の減少によるものだろう、とのこと。1週間くらい前に目にしたニュースですが、本当でしょうか。脳科学者の池谷裕二さんに訊いてみたいところです。

 

 

 池谷裕二さんの『受験脳の作り方  ー脳科学で考える効率的学習法ー』を読みました。高校生の長女に勧めようと思っての購入です。文庫化される前のタイトルは『最新脳科学が教える  高校生の勉強法』(ナガセ、2002)なので「ぴったり」でしょう。ちなみに高校生という言葉がなくなったのは、その後の脳科学の進歩を踏まえて内容や表現を徹底的に見直したところ、高校生だけでなく、あなたにもわたしにも「ぴったり」な一冊になったからだそうです。

 それにしても、池谷さんは現役の科学者なのに、そして現役のパパなのに、よくこれだけの本が書けるなぁ。いま数えてみたところ、共著も含め、池谷さんの本を読むのはこれで17冊目です。Wikipedia を見るとその倍くらいの本が出ているのでびっくり。しかも粗製濫造ではなく研究者の間でも評価が高いというのだから二度びっくりです。いったい、どうやって時間を捻出しているのでしょうか。脳科学で考える効率的学習法、いやが上にも期待が高まります。

 

 目次は、以下。

 

 第1章 記憶の正体を見る
 第2章 脳のうまいダマし方
 第3章 海馬とLTP
 第4章 睡眠の不思議
 第5章 ファジーな脳
 第6章 天才を作る記憶のしくみ

 

 第1章~第6章に加えて、脳心理学のコラムと体験談がところどころに挟まれています。2学期が始まったら、6年生の子どもたちにこんなふうに伝えたいなぁ、ということを以下に書きます。

 

第1章 記憶の正体を見る
 脳は「生きていくために不可欠かどうか」という基準で記憶するかどうかを決定します。だから「ワクチンを打たないと危険である」という情報と、「池谷裕二さんが文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞したのは2008年である」という教科書的な知識だったら、当然、ワクチンの方を記憶します。ちなみに脳の中で記憶の仕分けを行っている場所(部位)のことを「海馬」といいます。 池谷さんという人はこの「海馬」の専門家です。みなさんは、この「海馬」をダマさなければいけません。つまり「池谷さんが文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞したのは2008年である」ということを何度も口にしたり書いたりして、これは生きていくために必要なんだということを海馬に勘違いさせなければいけないということです。

 

 古来「学習とは反復の訓練である」と言われてきたのは、脳科学の立場からもまったくその通りだと言えます。

 

 では、その反復訓練を効率的に行うためにはどうすればいいのでしょうか。反復といえば、そうです、「復習」がポイントになります。この夏休み、しっかりと復習してきましたか?


第2章 脳のうまいダマし方
 まずは予習と学習と復習の比率についておさえておきましょう。池谷さんは、予習と学習と復習の比率は「4分の1:1:4」程度が適度だと考えているそうです。脳をうまくダマすためには「復習」が欠かせないということです。ちなみに、なぜ「4」なのか。これは海馬の性質を考えると、全部で「4」回の復習を、少しずつ間隔をあけながら、全2ヶ月かけて行うとよいということを意味しています。ここで確認です。以前から話していることですが、復習のときにはできるかぎり多くの五感を使いましょう。目・耳・手などの五感の情報はすべて海馬を刺激するからです。それから、脳は入力よりも出力を重視するということも忘れないでください。詰め込み型の勉強法よりも、知識活用型の勉強法の方が効率的だといわれる所以です。

 

 身近な例に応用するのであれば、教科書や参考書を何度も見直すよりも、問題集を何度も解くような復習法のほうが、効果的に学習できるはずです。

 

第3章 海馬とLTP
 LTPというのは「長期増強(long-term potentiation)」の略で、海馬の神経細胞に生じる現象のことを言います。海馬を繰り返し刺激すると、このLTPが生じ、神経細胞同士の結び付きが強くなって、記憶力が高まります。みなさんが知りたいのは、刺激の回数を減らすための秘訣、つまり効率的に学習するための秘訣ですよね。2つ教えます。1つ目は「好奇心」をもつということ。興味をもって対象に向かうと、シータ波という脳波が流れることがわかっています。そしてこのシータ派が流れているときには、少ない回数の刺激でLTPが起こることもわかっています。 

 

 つまり、勉強を「つまらない」と思いながらやると、結局は復習の回数が余分にかかるだけなのです。時間のムダです。

 

 2つ目のポイントは「扁桃体」です。これは池谷さんが世界にさきがけて発見した現象です。扁桃体という脳の神経細胞が活動するとLTPが起きやすくなるんです。扁桃体は海馬のすぐ隣にあって、喜怒哀楽などの感情を生み出す働きをしています。夜のピクニックなどの楽しかった行事が「思い出」として記憶に残りやすいのはそのためです。えっ、12月に予定されている修学旅行には行けるんですか(?)って、それはコロナの状況次第ですね。

 

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 扁桃体を活用した学習法の例は、以下。 

 

 たとえば、「1815年、ナポレオンはセント・ヘレナ島に流された」という教科書上の知識も、それを単に丸暗記するのではなく、そこに感情を交えて覚えてみたらいかがでしょうか。数々の作戦に失敗したナポレオンの無念さを実際に思い浮かべ、さらに島流しの刑を、自分自身が罰せられているかのように嘆かわしく思えば、脳はこの知識を自然に記憶しようとするでしょう。

   

第4章 睡眠の不思議
 ここで伝えたいことはシンプルです。眠ることも勉強のうちということ。みなさんが眠っているうちに、脳は情報を整理して、知らずしらずのうちに復習をしています。これまで話してきたように、効率的学習法にとって重要なのは「復習」です。だから「復習 ≒ 睡眠」と考えれば、睡眠の大切さが自ずと実感できるのではないでしょうか。睡眠時間を削らなくてもいいような学習プラン、大人で言えば「働き方改革」プランをしっかりと立てた上で、長い2学期に備えましょう。


第5章 ファジーな脳
 ファジーな脳を日本語に直すと、そうです、あいまいな脳です。ヒトの脳は、コンピュータと違って、あいまいなんです。デジタルではなく、アナログなんです。一回で覚え切ることより《あれはダメ、これも違うと、どんどん間違いを消していって、正解を残すという》消去法を得意とするんです。つまりは「失敗」や「試行錯誤」を要するということ。ヴォルテールが「ドジを踏むことは人間の仕事です」という言葉を遺しているのも、ユダヤの格言に「欠点があることは人間の長所である」とあるのも、ヒトの脳がファジーであることを経験的に理解してのことでしょう。この脳の性質を踏まえた上で効率的学習法を考えると、社会の歴史の授業を例にするとわかりやすいでしょうか、次のような感じになります。

 

 たとえば、日本史を習うときのことを考えてみましょう。ある特定の時代の細部をいきなり理解しようとしてはいけません。はじめて習うのに、いきなり細かいことが分かるはずがないからです。もし、この原則を破って、いきなり平安時代のある細部を勉強したとしても、そこで得た情報は所詮、理解の浅い知識です。全体から切り離された断片的な情報は、十分には役立ちません。無用な知識は脳の中からすぐに消えてなくなってしまうでしょう。
 これを避けるためには、まず石器時代から現代までの全体像を大局的にとらえて、大きな歴史の流れを把握することが肝心です。それから、各時代の内容を少しずつ深めていくべきなのです。

 

 つまり、あいまいだからこそ、全体像をつかんだ上での「スモール・ステップ法」が、脳科学的に理に適っているというわけです。スーパーマンが地球をグルッと一周した上で地上に降り立つのも、社会学者の古市憲寿さんが「展望台史観」を勧めるのも、そのためです。

 

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第6章 天才を作る記憶のしくみ
 言い換えると、池谷裕二を作る記憶のしくみとなります。小学生のときはあまり勉強ができなかったという池谷さん。なんと、九九すら覚えていなかったとのこと。

 

本当の話です。実際に、現在でも覚えているのは「ににんがし」「にさんがろく」「にしがはち」の三つくらいです。

 

 九九を三つしか覚えていないのに、東京大学薬学部へ首席で進学、東京大学大学院の入学試験にも首席で合格、卒業時も首席で卒業というのだから、まさに天才です。その秘訣はどこにあるのでしょうか。

 

 知りたいですか?

 

 そう、その「知りたい」っていう好奇心が大切です。今日、家に帰ったら、図書館に行って、或いは本屋さんに行って、この『受験脳の作り方』を見つけてください。そして第6章を読んでみてください。そうすれば、あなたも天才になれるかもしれません。合わせて、中村うさぎさんとの共著『脳はみんな病んでいる』もお勧めです。池谷さんが「なぜ天才なのか」が書かれています。


 児童にとっては、脳科学で考える効率的学習法。
 教員にとっては、脳科学で考える効率的授業法。

 

 受験脳の作り方。

 

 好奇心をもって、ぜひ。