田舎教師ときどき都会教師

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岡崎勝、宮台真司 著『こども性教育』より。人間関係は酒と同じ。「いい恋愛」をするには、どうしたらいいの?

 さて、ここまでのお話でみなさんがいま、どういう社会で生きているのかということがよくわかったと思います。
 人間関係が空洞化して「孤独」になってきた。「孤独」ゆえに、心を病んだり、警戒的・攻撃的になったりする。だから人と仲よくなれない。そうした現象が起こります。
 当然、「恋愛」も「友愛」も成立しづらくなります。すると人間関係の空洞化がさらに進み、ますます「孤独」になります。これは悪循環です。
(岡崎勝、宮台真司『こども性教育』ジャパンマシニスト社、2022)

 

 おはようございます。昨夜、仕事帰りに映画館に寄って、バズ・プーンピヤ監督の新作『プアン/友だちと呼ばせて』を観てきました。タイトルからわかるように「友愛」をテーマにした作品です。

 

 舞台はタイのバンコク。

 

 余命宣告を受けた青年が親友に運転してもらって元カノを巡る旅に出るんですよね。だから「友愛」に加えて「恋愛」もテーマになっています。社会学者の宮台真司さんいうところの日本では成立しづらくなっている「恋愛」と「友愛」です。

 

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 人間関係は酒と同じだ。気を付けないと、呑まれる。

 

 途中、そんな台詞が出てきます。もちろんこれは「気を付けろ!」という文字通りのメッセージではありません。呑まれた経験の数だけお酒に強くなるように、傷付いた人間関係の数だけ「友愛」も「恋愛」も成立しやすくなるというアイロニーです。だって映画に出てくる主要な登場人物たち、全員傷付きまくっていますから。

 

 故に全員、魅力的。

 

 

 岡崎勝さんと宮台真司さんの『こども性教育』を読みました。2022年5月4日に「和光大学鶴川ポプリホール」で行われた実際の講座をもとに編まれた一冊で、前著『大人のための「性教育」』に続く「小学校の先生」と「社会学者」のコラボ作品です。講座に参加したのは小学校4年生から18歳まで17名とその保護者とのこと。長女と次女を連れて行けばよかったと後悔しきりです。

 

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 目次は以下。

 

 1時間目 どうして一人ぼっちは寂しいの?
 2時間目  「恋愛・セックス・結婚」はどう変わったの?
 3時間目  「いい恋愛」をするには、どうしたらいいの?
 特別授業  「大人」になるみんなへ

 1時間目~3時間目を宮台さんが担当し、特別授業を岡崎さんが担当しています。最初から最後まで、そのままクラスの子どもたちに読み聞かせしたくなるような内容です。さすが宮台さん&岡崎さん。数年前に和光大学鶴川ポプリホールで受講した「ウンコのおじさん」の講座のおもしろさを思い出しました。

 

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1時間目  どうして一人ぼっちは寂しいの?

 いつでもつながれるのに「孤独」な時代、というのがサブタイトルです。「なぜ」一人ぼっちは寂しいのかに対する「なぜならば」を生物学的に説明すると以下のようになります。

 

「孤独」になると、そのストレスから免疫力が低くなり早死にしやすくなります。メンタルの病気にもなりやすくなります。
 どうして「孤独」がこんなにおそろしいのかというと、私たち人間はゲノム(遺伝情報)に「孤独」をおそれるようにインプットされているからです。

 

 さらに問いを重ねると、当然「なぜ」そんなものがインプットされているのかとなります。「なぜならば」その方が仲間をつくりやすいから。

 

 孤独を恐れる → 仲間をつくる
 孤独を恐れない → 仲間をつくらない

 

 私たちホモ・サピエンンスと同じ時代を生きていたネアンデルタール人が、脳も体も私たちよりも大きいのに絶滅してしまったのは、ネアンデルタール人が私たちよりも「孤独」を恐れなかったから。宮台さんはそう説明します。だからネアンデルタール人は社会性を獲得することができず、生き延びることができなかったというわけです。

 問題は、1980年代以降の社会変化によって、孤独を恐れなくても生き延びることができるようになってきたこと。言い換えるとオフラインの仲間をつくらなくても生き延びることができるようになってきたこと。社会変化というのは「地元商店」→「コンビニ」に代表されるもので、社会が便利になったことで「人を頼る必要」がなくなったというところに「闇」があります。

 

 便利になったら仲間をつくる力が失われた。

 

 結果、冒頭に引用したような悪循環が生まれることになります。学校で「わからなかったら周りの友達に聞けばいいんだよ」「周りの友達が困っていたら声をかけるんだよ」「周りの友達が何かに困っていることに気付く力ってメチャクチャ大切だよ」みたいなことを口を酸っぱくして言わなければいけなくなったのもそういった悪循環に対する悪あがきといえるでしょう。

 

2時間目  「恋愛・セックス・結婚」はどう変わったの? 

 2時間目の講義のサブタイトルは「統計に見る日本人の意識と現実」です。1時間目に学習した「悪循環」によって、統計的に「恋愛・セックス・結婚」はどう変わったのかという話です。簡単にいえば、まともな恋愛、まともなセックスが減り、結果として2050年の結婚未経験率(生涯未婚率)は、男女ともに半数に近づくだろうというのが統計的な答えです。

 

 昔は、一緒にいるうちに「なんか理由はわからないけど、好きになっちゃった」というふうに「恋愛」が始まったと話しました。
 この「理由がわからない」ことが大事なのです。言葉で言えるような条件にはかかわらない、つまり、入れ替え可能な存在ではない、ということだからです。

 

 映画『プアン/友だちと呼ばせて』には、この「なんか理由はわからないけど、好きになっちゃった」がナチュラルに描かれています。映画は恋愛をどう描いてきたか。恋愛のこともカルトのこともその他もろもろのことも映画を観て学べって、社会学者であると同時に映画の批評家でもある宮台さんがそう言うのも頷けます。

 

 

3時間目  「いい恋愛」をするには、どうしたらいいの?

 これからを生きる「希望」を見いだすために、というのがサブタイトルです。1時間目と2時間目に現在の「絶望」を理解したからには、未来に向けての「希望」すなわち「処方箋」が必要というわけです。

 

 絶望から出発しよう。

 

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 いい恋愛をするには、どうしたらいいのか?

 

 3時間目の授業は「もやもや」を残すかたちで終わっています。友愛と恋愛の違いや愛の規範など、ヒントはたくさん出したから、後は自分で考えましょう(!)という、学校現場で理想とされる授業です。ヒントのヒントは「人間関係は酒と同じだ。気を付けないと、呑まれる」でしょうか。ぜひ手にとって読んでみてください。

 

特別授業  「大人」になるみんなへ

 サブタイトルは「男の子と女の子、そして家族のこと」。現職教員の岡崎さんによる小学生向けの講座です。4年生の保健の授業の台本にぴったり。道徳の授業の台本にしてもいいかも。そういった内容です。

 

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 宮台先生がいまの若い人には「友だちがいない」と話していたけど、本当に気持ちが通じあえる友だちって少ないよね。

 

 映画『プアン/友だちと呼ばせて』でいうと、邦題の後半にある「友だちと呼ばせて」と関係のある内容です。本当に気持ちが通じあえる友だちをつくるには、つまりは仲間をつくるにはどうすればいいか。岡崎さんの答えはこうです。子どもたちよ、失敗をこわがらず学びたまえ。そして、

 

 自分をしっかりとみがいてください!

 

 大人たちも!