田舎教師ときどき都会教師

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宮台真司、岡崎勝、尹雄大 著『子育て指南書 ウンコのおじさん』より。損得よりも正しさ。カネよりも愛。

 政治に必要な「損得よりも正しさ」や、恋愛に必要な「カネよりも愛」が、枯渇して、損得に拘泥する浅ましい生き方が蔓延し、いまや政治が支える国と、恋愛に始まる家族の、持続すら怪しくなった。
 欠けるのは知識ではない。バランスを超えた過剰への、〈交換〉を超えた〈贈与〉への、動機づけ。因みに、それに必要な「畏怖する力」を神なき時代に養うことが、大学のリベラルアーツの目的だった。
 なのに、知識の専門性を高めれば危機に対処できると勘違いした愚昧な制度改革が、知識を何に使うかの「動機づけ」を不確かにし、知識に向けた「動機づけ」を競争動機のようなものに縮めた。
(宮台真司、岡崎勝、尹雄大『子育て指南書  ウンコのおじさん』ジャパンマシニスト社、2017)

 

 おはようございます。経験からいって「正しさよりも損得」に反応する子が多くなると、クラスはいや~な匂いで覆われていく傾向にあります。だから担任はあの手この手で「損得よりも正しさ」に反応する子を育てようとします。それでもいや~な匂いがしてきたときには即座に手を打ちます。子育て指南書のクラス編があったら、おそらくはイロハの「イ」として書かれることでしょう。

 ウンコのおじさんこと社会学者の宮台真司さんと、ジャーナリストの神保哲生さんによるインターネットのニュース番組「第1013回  マル激トーク・オン・ディマンド」(2020年9月5日)の中で、そのいや~な匂いが取り上げられていました。9月3日に行われた国会での記者会見のときに、東京新聞の望月衣塑子記者が内閣官房長官の菅義偉さんに質問をするも、言質をとれなかったという場面です。他の記者たちから笑いが漏れたんですよね。いや~な匂いのする笑い。教室でいうと先生に対して真面目な質問をしているクラスメイトを他の子どもたちが笑うという構図です。神保さんは「重要」&「気になる」と話し、宮台さんも「いじめの構造と同じ」と話していました。職業病でしょうか、そして国民のひとりだからでしょうか、わたしも大いに気になります。

  

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 損得よりも正しさ、カネよりも愛に反応する子どもを育てるには、父親たるものどのように振る舞えばいいのか。宮台さんは「ウンコのおじさんになればいい」といいます。ポケットに蝋石を忍ばせて、近所の子どもたちがいたら路上にウンコの絵を描く。その価値がわかりますか?

 

 

 宮台真司さんと小学校教員(!)の岡崎勝さん、そしてライターの尹雄大さんによる『子育て指南書  ウンコのおじさん』を再読しました。 この本のもととなったのは宮台さんの子育て連続講座「男親〈父・祖父・近所のおじさん〉の社会学」で、その講座に何度か参加したときのメモが残っていたので紹介します。読むだけで目から鱗が落ちる、自画自賛の宝のメモです。

 
2017年6月17日

  • 正しさに反応できず、損得に反応してしまう若者がどんどん増えている。親もそう。だから「就職がしやすくなったから」みたいな理由で安倍を支持する若者が多い。経済指標がよくても社会指標はボロボロなのに。ヨーロッパは経済指標よりも社会指標を見て判断する。社会のための経済。
  • 両親が愛し合っていると答えている子どもにはステディな関係の人がいる割合が高い。一方で、両親は愛し合っていないと答えた子どもには性体験は多いが、ステディな関係の人がいる割合は低い。つまり親の性愛が子の性愛の能力に影響を与えているということ。
  • 家族をないがしろにするような政策をとるな、というのが欧米の基本路線。だから欧米では家族や地域がしあわせになるかどうかで政策を決めている。ドイツは10年で父親の育休取得率が3%から35%に。仲間と家族が大事ということ。
  • 家族が楽しいという記憶を日本の親が与えていない、だから子どもが家族をつくらない。
  • 男は収入が少ないと結婚できず、女は収入が多いと結婚できない。愛がない証拠。

 

 あれから3年経って、国民一人当たりのGDPといった経済指標すらもボロボロになってしまった日本。日本の子どもの精神的幸福度は最低水準(ユニセフ)なんていうニュースも先日流れていました。つまり社会指標も相変わらずボロボロのまま。教員の家族をないがしろにするような、定額働かせ放題(給特法)なんてものが維持されているわけですから、それも当然です。家族を大切にできない教員が家族の楽しさを説くなんて、ウンコです。


2017年8月19日(土)

  • 労働時間について。国がきちんと把握しようとしていないからいろいろな説があるが、今の日本は1900時間くらい。これに通勤時間も加わる。西欧とは700時間くらい違う。もともと日本には重化学工業化 → 都市化の副産物として性別役割分担、という流れがある。労働時間の改善がないのに性別役割分担が変わるわけがない。
  • ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」は社会参加や家族と過ごす時間のこと。趣味の時間とかではない。
  • 親を尊敬している割合は、日本が7%、アメリカと中国は90%。日本の親が子育てを損得で行っていることが原因。
  • 愛で結びついていない両親に損得で育てられる → 家族といても楽しくない → ますます非婚化(家族なんてつくっても仕方がない。つくると時間がなくなるし。これも損得)
  • 男は下降婚、女は上昇婚。先進国では日本だけ。
  • 非婚化とそれに伴う少子化はとまらない。なぜならワーク・ライフ・バランスのライフを両親がないがしろにする限り、家庭をつくって家族生活を楽しもうという動機づけが子どもになされないから。そうすると企業経営者はますます家族に配慮しなくなる。
  • 女は正しいことには敏感ではないが、正しい男には敏感。
  • 家族と過ごす時間がないなんて耐えられない、という感情が大事。
  • マクロには日本は終了。だからここに来ているみなさんのようにミクロで工夫していくしかない。
  • 夏休みは子どもの非日常性が保障されるのに、それを短くするなんて。
  • 浦沢直樹の漫画『モンスター』を読むと「あまりにも善ゆえに悪に転ずる」ということがあるとわかる。善悪の判断ができるようになるためにはどれだけの体験が必要かと教えてくれる。
  • 男女関係の真実は当事者にしかわからない、ということがわかっていないクズばかり。そんなクズがギャーギャー言おうが気にしない。
  • 昔コンサルをしていたときに「そんなこと自分で言えばいい」と思ったことがあって、そのことを口にしたら「外から言うことに意味がある」と言われた。なるほど、内側の人間が言うと、またあいつが言っているという社内政治、或いはポジショニングの話になってしまう。つまり非定住民に役割があるということ。外からやってくる人が目覚めさせる。内容ではなく、誰が言っているかが大事。
  • 子どものフレームを壊すと尊敬される。普段はぐうたら親父でかまわない。

 

 諸悪の根源は長時間労働にあり、ということでしょう。家族の犠牲を前提にした仕事なんて、ウンコです。3年前の段階で「夏休みを短くするなんて」という話が出ているのもおもしろいところ。コロナ禍とはいえ、夏休みの短縮や土曜授業なんて、これまたウンコです。最後の「普段はぐうたら親父でかまわない」というところに救われつつ。


2017年10月7日(土)

  • 思春期の父親のかかわり。思春期前に関係がよくても悪くても、精神医学の結論としては、思春期に我が子からどう思われるかはわからない。
  • 我が子はいい幼稚園に通っている。どのようにいいかというと、喧嘩が起きたときに、園長が「成長のチャンスなので2ヶ月ぐらい様子を見ましょう」と言ってくれるところ。園児にはいじめなどはないので2ヶ月もすれば状況は変わっている。喧嘩をしても、うそをついてもいい、でもやり過ぎはダメということがわかればいい。トラブルを起こさせないような教育だと、やり過ぎかどうかを判断する力がつかない。だから大人になったときに殺しちゃう。それに園児のトラブルは親同士が仲良くなるチャンス。我が子の言い分だけを聞いていると相手の子どもが鬼畜に思えてくる。だから真に受けない、親同士が仲良くなるしかない。
  • 親になってから読み返したところ、フロイトもラカンも思春期までしか父親のことを書いていない。要するに精神医学的に父親はその頃には用済み。
  • 子育てをノイズとして受け取ってしまう人はアウト。子育ては苦しみと表裏一体の享楽である。イクメンが2年で保育園の送り迎えをやめてしまうのは、近所の評判がよくなるという損得で動いているから。快適な子育てなんてない。

 

 園児のけんかのところについては、クラスをもった最初の保護者会のときによく紹介しています。鬼畜に思えてくるってところが笑えます。笑えないのは精神医学的に父親は用済みってところで、長女も次女も思春期真っ只中なので、悲しい。ちなみに上記の3つの講座以外にも、宮台さんが子育てについて語っている「場」には可能な限り参加していて、例えば《愛と正義に則っていれば、成績なんかダメでもOKだぜ、ってなぜ伝えられないのか》や《学校の先生は損得勘定を超えているか、内なる光を子どもたちに受け渡しているか》、それから《この家族が、この地域が俺の全て、という人が一番しあわせ》等々の言葉が印象にもメモにも残っています。

 

 今週は土曜日まで授業があります。

 

 ウンコです。

 

 

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