田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

川村元気、近藤麻理恵 著『おしゃべりな部屋』より。片づけの目的は、自分がときめくものを見つけることにある。学校がときめくスクラップの魔法。

 さまざまな家の本棚を見るたびに、わたしは思う。本というのは、持ち主の願望そのものだと。「食べてはいけない」「買ってはいけない」「信じてはいけない」そんな恐怖が並ぶ本棚もあれば、「こういう自分になりたい」「こんなことをやってみたい」という願いが積み上げられているときもある。
 言うなればこの書斎は、緑川さんの ”願望の森” だった。
 だからこそ、捨てることが難しいのだろう。
(川村元気、近藤麻理恵『おしゃべりな部屋』中央公論新社、2022)

 

 こんばんは。10日間の自宅療養期間中に500冊ほど本を捨てました。前々から捨てよう捨てようと思ってはいたものの、なかなか時間がとれなかったので、コロナの効用かもしれません。

 

 えっ、本を捨てる?

 

 本を捨てるなんてとんでもない(!)って、以前はそう思っていましたが、ユングいうところの「人生の正午」を迎えてからというもの、このまま増え続けるなんてとんでもない(!)と思うようになりました。いわゆる午前と午後の価値・理想の転倒です。

 

 量から質へ。

 

 学校に応用すれば「ビルドからスクラップへ」となるでしょうか。仕事を減らせば学校はもっと「ときめく」だろうに。教室ももっと「ときめく」だろうに。おしゃべりな学校に近藤麻理恵さんを招いて「教室がときめくスクラップの魔法」をかけてもらいたい。そしてそれを川村元気さんに物語にしてもらいたい。先日、そんな気持ちになる本を読みました。

 

 

 川村元気さんと近藤麻理恵さんの『おしゃべりな部屋』を読みました。本の帯には《近藤麻理恵が片づけてきた1000以上の部屋にまつわる実話を基に、川村元気が紡ぐ7つの部屋の物語》とあります。日本が世界に誇る「物語のプロ」と「片づけのプロ」のコラボレーション。あの川村さんと、あの近藤さんが一緒に本をつくるなんて。それだけでもう「買い」です。こうやってまた本が増えていく、というヤレヤレ感はさておき、プロローグとエピローグに挟まれた目次は以下。

 

 ROOM1 ささやくクローゼット
 ROOM2 歌う書斎
 ROOM3 喧嘩するキッチン
 ROOM4 無口な子供部屋
 ROOM5 おしゃべりな小箱
 ROOM6 騒がしいゴミ屋敷
 ROOM7 物語るアルバム

 

 これってユングいうところの「人生の正午」の話に似ているな、片づけを梃子にして価値・理想の転倒が起きているな、というのが7つの部屋の劇的ビフォーアフターを読んでの感想です。

 服を手放せない主婦も、本を捨てられない新聞記者も、それからなんでも溜め込んでしまう夫婦も、実年齢はわかりませんが、ステージとしては「人生の正午」にいるように思えます。ユングは人生の正午を、転換期であると同時に危機の時期であると見なしました。各 ROOM の主人公たちがミコ(=近藤さん)を呼んだのは、転換期かつ危機の時期に自分がいることを「何となく」感じとっていたからでしょう。ミコはその「何となく」に応えるべく、片づけを手伝うという仕事を通して、彼ら彼女らを「人生の午後」へと誘います。楽しく豊かな「人生の午後」です。

 

 変わるためには、手放すしかない。

 

 経営コンサルタントの大前研一さんが人生を変えるには人間関係を変えるか住む場所を変えるか時間配分を変えるしかないと何かに書いていましたが、それら3つに共通するのも手放すことです。

 

 つまりは片づけ。

 

 ミコは言います。片づけとは、自分の気持ちに向き合うことであるって。片づけの目的は、自分がときめくものを見つけることにあるって。そして本当に大切なのは、自分の人生を楽しく豊かにしてくれる「ときめくモノ」を見つけるセンスだって。

 

 三時間かけて緑川さんは、床に積み上げられた本を、ときめくものとそうでないものに仕分けしていった。
 片付けをしているうちに、本当に彼が求めているものの輪郭がはっきりしていく。願望の海に紛れていた本当に欲しいもの、やりたいこと、なりたい自分の姿を、緑川さんは時間をかけてひとつひとつ見つけ出していった。
 結果残ったのは、当初の半分ほどの本だった。混沌としていた歌声は、今は穏やかなハーモニーとなっていた。

 

 冒頭の引用にも登場する緑川さんというのは、もちろん ROOM2の「歌う書斎」の住人のことです。ブッキッシュな人間にとってはもっとも親近感を抱くであろう人物。緑川さん、最初に「このままではまるで・・・・・・本の墓場ですから」って言われてしまうんですよね、ミコに。人生の正午を迎えて以降、歌う書斎が歌わない書斎になっていたというわけです。

 

 だから、捨てる。

 

 現在、コロナの自宅療養者が全国に100万人以上いるそうです。もしも症状が軽かったら、そして部屋にモノがあふれていたら、こんまりメソッドにもとづく徹底的な片づけをお勧めします。捨てることによって、療養明けの生活が輝き出しますから。学校でも仕事をスクラップすることによって、

 

 夏休み明けの毎日を輝かせたい。 

 

 本当に。