田舎教師ときどき都会教師

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外山滋比古 著『思考の整理学』より。飛行機人間を育てるためにも、コロナの感染拡大を防ぐためにも、学校は臨時休校にすべき。

 人間には、グライダー能力と飛行機能力がある。受動的に知識を得るのが前者、自分でものごとを発明、発見するのが後者である。両者はひとりの人間の中に同居している。グライダー能力をまったく欠いていては、基本的知識すら習得できない。何も知らないで、独力で飛ぼうとすれば、どんな事故になるかわからない。
 しかし現実には、グライダー能力が圧倒的で、飛行機能力はまるでなし、という“優秀”な人間がたくさんいるのも確かで、しかも、そういう人も“翔べる”という評価を受けているのである。
 学校ではグライダー人間をつくるには適しているが、飛行機人間を育てる努力はほんのすこししかしていない。
(外山滋比古『思考の整理学』ちくま文庫、1986)

 

 こんばんは。花粉のために体調が思わしくなく、今日は年休をとって少し早めに帰りました。コロナも気になるとはいえ、「目下の恋人」ならぬ「目下の仇人」は花粉です。ただ、花粉に負けて早く帰ってきたというのも芸がないので、「ただいま」に続けて「コロナマン、帰宅しました」って付け加えたらもうすぐ高校生になる長女に氷河時代みたいな顔をされました。「パパ、そんなくだらないことを言ってしまうくらい疲れてるんだね」とは、言ってもらえず。そんなくだらないことを言ってしまうくらい疲れてるんだな、オレ。

 

 余計なひとことは身を滅ぼします。

 

 余計なことをしないこと。すなわち「何もしないをする」力をつけること。ブロガーのインクさんの言葉を借りれば「教えたくなる気持ちをぐっとおさえる」力をつけること。外山滋比古さんのいう「飛行機人間」を育てるには、教員にそういった力が必要となります。

 

www.inkhornterm.com

 

 先週の水曜日に読んだインクさんの記事『「説明する」という行為を人は好む』と、翌日の木曜日に実施した河川敷での凧揚げの授業がスイング(共振)して、外山滋比古さんの『思考の整理学』を読み返したくなりました。グライダー人間と飛行機人間という考え、それからアメリカの女流作家、ウィラ・キャザーの言葉という《ひとりでは多すぎる。ひとりでは、すべてを奪ってしまう》という引用がお気に入りの一冊です。

 

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

  • 作者:外山 滋比古
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1986/04/24
  • メディア: 文庫
 

 

 本に挟んであった毎日新聞(2008年3月21日の夕刊)の切り抜きによれば、外山さんが『思考の整理学』を書いたのは《優秀な学生ほど卒業論文を書く段階になって途方に暮れ、日ごろ、それほど勉強しなかった学生が面白い論文を書いてくるという逆転現象が多かったこと》がきっかけだったとあります。

 日ごろ、それほど勉強しなかった学生というのは、要するに「教師の余計なひとこと」の届かないところでたくさんの時間を過ごしている学生のことです。深夜特急に乗ったり、独立国家をつくったり、バッタを倒したり。一方、この文脈でいうところの優秀な学生というのは、そういった時間にはあまり恵まれず、親や教師の声の届くところでその優秀さを発揮している学生といえます。

 優秀な学生とそうではないと思われていた学生が「卒業論文」(これまでの勉強と違って答えがない課題)と対峙したときに、優劣の逆転現象が起こるよというのが外山さんの経験知です。柔軟な思考力が求められる卒論を前に、優秀な学生、すなわちグライダー人間は途方に暮れてしまうというわけです。

 

 凧人間も同じです。

 

 郷土の伝統品である「凧」を作って江戸川の河川敷で飛ばしてみよう。先週、単元「郷土に伝わる凧を作ろう」のクライマックスにあたる授業がありました。総合的な学習の時間に取り組んだ「凧作り&凧揚げ」です。ちなみに江戸川というのは例えであって、相模川でも川内川でも黄河でも、凧と関係のある川であれば何でもOKです。ご想像にお任せします。

 

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江戸川の河川敷にて(2020.2.20)

 

 凧揚げの当日はもちろんのこと、講師を招いての凧作りの段階から保護者に入ってもらったのですが、やはりサポート役の保護者は教えちゃいますよね。教えたくなる気持ちをぐっとおさえて、本当に何もしなかったとしたら「じゃあ、何で呼んだんだ」って話になってしまいます。算数の授業などにTTの先生が入ってくると、あっという間に教えてしまうのと同じです。教えることこそ我がレーゾンデートルみたいな。確かにそうなんですが、飛行機人間を育てるという視点はそこにはありません。

 

 巣立ち。

 

 親が凧をもち、10mくらい離れたところに子どもが立って糸をもち、親子でタイミングを合わせて凧を揚げる。そんな姿を見ていたら、親元を離れて子ども(凧)が巣立っていくイメージがわいてきて、ちょっとウルッときました。ただ、やっぱり糸がついていたら駄目だろう、という気持ちもわきました。あやまって糸から手を離すと、凧は墜落するんですよね。川に落ちて原型を留めていない凧もありました。グライダー人間の末路かもしれません。

 

 凧は中国から。
 コロナも中国から。

 

 外山さんは『思考の整理学』に《学校教育が整備されてきたということは、ますますグライダー人間を増やす結果になった》と書いています。83年に書き下ろされた本だから、あれから40年近く経って、学校教育はさらに整備され、ますますどころかますますますますグライダー人間を増やす結果になっているような気がします。授業時数も宿題も学習塾通いも増え、子どもたちが「教師の余計なひとこと」の届かないところで過ごす時間はさらに減ってきているからです。

 

 飛行機人間を育てるために。

 

 外山さんの言葉を借りれば《思考の整理法としては、寝させるほど大切なことはない》とのこと。学年末です。まとめの時期です。これまで学習してきたことを「寝かして」整理するためにも、飛行機人間を育てるためにも、そして新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためにも、学校は臨時休校にすべきではないでしょうか。吉本隆明さんも「ひきこもれ」って言ってるし。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 以上、ただの花粉症ですけど、コロナマンはそう思います。

 

 おやすみなさい。

 

 

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