田舎教師ときどき都会教師

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浅田和伸 著『教育は現場が命だ』より。ドン・キホーテを校長に。

 また、長く教育行政に携わる中で、自分たちが寝食を削ってやっている仕事が本当に学校現場のためになっているのか、学校や教育委員会、文科相を含む広い意味での教育の世界が、その他の世界とうまくつながっていないのではないか、という問題意識も強く持っていた。
(浅田和伸『教育は現場が命だ  文科省出身の中学校長日誌』悠光堂、2019)

 

 こんばんは。今日、校長が「新型コロナウイルスのことで、臨時休校等、さまざまな情報が流れていますが、国(文部科学省)が何を言おうと、市立学校は市の方針に従うのが筋です」と話していました。学校は市の方針に、市は県の方針に、県は国の方針にと考えると、A=B、B=C、C=D、すなわちA=Dとなって学校は国の方針に従うことになるような気がするのですが、世の中そんなに単純ではなく、そうはならないようです。A≠D。笛吹けど踊らず。文部科学省いうところの「学校における働き方改革」が絵に描いた餅になっているのも頷けます。4月から始まるはずの残業上限45時間なんて、職場の誰も知りませんから。全てがA=Dになったらそれはそれで危ないとはいえ、そんな不連続な世界にあって、教育行政に携わる官僚の中から《うまくつながっていないのではないか》という問題意識をもつ個人が出てくるのは当然です。それは教育現場で働く教員の中から「この働き方はおかしいのではないか」という問題意識をもつ個人が出てくるのと同じことです。

 

 問題意識を持った官僚曰く「教育現場に近いところで仕事をしたい」。

 

 それが『教育は現場が命だ』の著者である浅田和伸さんです。

  

教育は現場が命だ 文科省出身の中学校長日誌

教育は現場が命だ 文科省出身の中学校長日誌

  • 作者:浅田 和伸
  • 出版社/メーカー: 悠光堂
  • 発売日: 2019/05/01
  • メディア: 単行本
 

 

 この本は国立教育政策研究所の千々布敏弥先生が Facebook で勧めているのを見てポチッとしました。千々布先生は『日本の教師再生戦略 ― 全国の教師100万人を勇気づける』などの著書で知られる「偉い人」です。以前勤めていた小学校に何度か来てくださり、授業もチラッと観ていただきました。今でもよく覚えているのは、教室に入るなり掃除ロッカー(掃除用具入れ)の扉を開けて「教室は掃除ロッカーが命だ」と言わんばかりの様子でその中をチェックしていた姿です。神は細部に宿る。そういうことでしょうか。

 

 神は現場に宿る。

 

 現場に降りてきた行政官僚(プロローグを書いている千々布先生曰く「ドン・キホーテ」)は何を感じたのか。浅田和伸さんの学校現場での「日誌」をまとめた『教育は現場が命』を読むとそのことがよくわかります。学校の大変さ、教職員のがんばり、そして教育という仕事の奥深さ。見えないところで学校がどれほどのエネルギーを使っているか、或いは使わねばならないかなども含めて、現場で働く教員が「文部科学省の官僚に知ってほしい」と思っていることを解像度高く感じとってくれています。さすがは転身するにあたって《当然、妻は激怒し、その後、長らく家の中に暴風が吹き荒れた》という修羅場をくぐり抜けているだけのことはあります。「文科省は現場の仕事を増やすより  学校のマンパワー増に力を」というタイトルが付けられた日の日誌には《皆、文科省に遠慮して言わないだけだ。代わりに私が言っておく》とあります。われわれ教員の代弁者です。ヒーローです。ヒューヒュー。

 

 私の経験の狭さからくる誤解かもしれないが、教員の世界には、教員の人事は本人の希望通りにするべきものだという考えが根強く残っているのではないか。

 

 一方で、世の中の常識とはかけ離れているというニュアンスで、教員のもっている「人事に対する感覚」のズレを指摘したり、学校が変わるには「外の風」が必要ということをダイレクトに述べたりもしています。外からやってきたドン・キホーテとして、いいものはいい、ダメのものはダメと忖度なく書いているというわけです。だから教員相手に大変なこともたくさんあっただろうなぁと想像します。もちろん子どもとのしあわせなかかわりも、その数十倍くらいいっぱいあったと思いますが。

 

何人もの人から「この経験を国で生かしてほしい」と言われた。

 

 それはそうですねよ。もともとは片道切符で臨んだ「官僚から校長への転身」だったそうですが、浅田和伸さんは3年間の校長職の後、文部科学省に戻っています。そして《教育行政の役目は教育現場を元気にすることだ》という持論を胸に、これからも与えられた役割の中でそれを実践していきたいと書いています。

 

 特に校長には、自分が実現したい学校像があるはずで、摩擦を恐れず、堂々と実現してほしい。そうでなければ校長の値打ちはない。

 

 最初の話題に戻れば、正しいと思ったときに「A=D」を自分の学校だけでも実現できるような校長が一人でも多く誕生することが、現場の命を輝かせるためには必要なのだろうなぁと感じます。浅田さん曰く《企業や役所の管理職に比べ、校長は孤独な仕事》だそうなので、大変だろうとは思いますが。

 

 ドン・キホーテを校長に。

 

 おやすみなさい。

 

 

 

日本の教師再生戦略―全国の教師一〇〇万人を勇気づける

日本の教師再生戦略―全国の教師一〇〇万人を勇気づける

  • 作者:千々布 敏弥
  • 出版社/メーカー: 教育出版
  • 発売日: 2005/06/01
  • メディア: 単行本