田舎教師ときどき都会教師

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為末大、中原淳 著『仕事人生のリセットボタン』より。踊り場での格闘、方向転換する覚悟、リセットボタンを押す勇気。

 私たちは「右肩上がりの単線エスカレータに乗って組織キャリアを全うできる時代」に生きているのではない。むしろ「右肩上がりの単線エスカレータ」は多くの人々にとって存在してはいない。
 途中で「踊り場」があったり、「方向転換」があったり、私たちは「立体的に交差するエスカレータ」にのって、日々、自分の仕事人生をどのように構築していくべきかを考えていかなければならないのです。
(為末大、中原淳『仕事人生のリセットボタン』ちくま新書、2017)

 

 こんばんは。このくたくた感はなんでしょうか。8月3日(月)から7日(金)まで、午前中は子どもを相手に授業、休職ではなく給食を挟んで午後は大人を相手に20分刻みで定時ギリギリまで面談と、最終週まで大ハードな1学期。できることなら、パトラッシュのそばに横たわりたい気分です。

 

 僕はもう疲れたよ。

 

 仕事人生のリセットボタンを押したくなります。

 

 

 元陸上選手の為末大さんと人材開発や組織開発の研究で知られる中原淳さんの『仕事人生のリセットボタン』を再読しました。以前に読んだときには、冒頭の引用にある「踊り場」という言葉に随分と救われた記憶があります。理科の専科だったんですよね、当時。好意的に解釈するところの「級外を経験して視野を広げろ」という校長の意向で担任を外されて。

 結局、よくあるパターンというか、もともと校長もそういった事態を見越していたのか、年度の途中で担任に戻ることになるのですが、それはさておき、担任という右肩上がりでも右肩下がりでもないただの単線エスカレータから降りただけでもくさくさした気持ちになってしまったことを考えると、そして「踊り場」という言葉にすがってしまったことを考えると、仕事人生のリセットボタンを押す勇気って、相当なものだなと思います。

 

  • 勝てない分野ではなく、勝てる分野を選ぶ
  • 経験を積むために、知らない世界に飛び込む
  • 山頂に到達するためでなく、山登りを続けるために頑張る

 

 立体的に交差するエスカレータに乗っている私たちのために、この本にはリセットボタンを押すためのヒントがいくつも書かれています。上記の3つは、第2章「勝てる傍流か、負ける主流か?」より。第2章には、陸上競技の花形である「100m」を諦め、リセットボタンを押して傍流の「400mハードル」に変えた為末さんの生き方が綴られています。

 

 結局、人。やっぱり、生き方。

 

 100mを10秒6で走り、中学生チャンピオンになった為末さんが方向転換を覚悟したのは高校時代。そのプロセスには《どんなに頑張っても結果が出ない、という長い「踊り場」が》あったそうです。種目を400mに変え、世界大会で4位に入賞するも1位の選手に相当な差をつけられ「ここでは勝てない」と悟った為末選手。それを転機に今度はハードルへ。

 

 勝てない分野ではなく、勝てる分野を選ぶ。

 

 学校現場でときどき耳にする「担任が務まらないから管理職になった」みたいな話です。違うか。いや、迷惑か。ちなみに主流の担任を降りて傍流の専科を経験したことは、先に挙げた「経験を積むために、知らない世界に飛び込む」に該当し、実際、専科のポジションで得られた視点は、将来の「仕事人生のリセットボタン」の伏線になるかもしれないなぁ、と思っています。

 

 担任という山もあれば、専科という山もある。

  

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2001年、黄山にて(中国)

 

 担任という山を登ったり、専科という山を登ったり、行政という山を登ったり。山頂に到達するためでなく、山登りを続けるために頑張る。そのために必要なリセット感覚は、引用でいうところの「立体的に交差するエスカレータ」の比喩と関係していてとても大切です。踊り場で、次はどのエスカレーターにのろうか考える。出産を機に仕事人生のリセットボタンを押したことのある女性は、自然とこの感覚を身に付けているのではないでしょうか。
 

 今年もまた、女性ばかり。

  

 例年のことですが、今年もまた面談に来たのはババも含めて全員女性でした。男性はジジも含めて一人も来ません。おそらくは男性が右肩上がりの単線エスカレータにしがみついているからでしょう。教員生活がスタートして以来、ずっと続いている日本社会のダメなところだと思います。踊り場で格闘するのも、方向転換する覚悟をもっているのも、そして過去にリセットボタンを押してきたのも、ほぼほぼ女性。国を挙げて女性活躍を謳っているだけのことはあります。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 面談では、子どもの話だけでなく、保護者(♀)の生き方についても可能な範囲で語ってもらいました。立体的に交差するエスカレータにのって、仕事人生をフレキシブルに構築している女性たちです。おもしくないわけがありません。踊り場での格闘然り、方向転換する覚悟やリセットボタンを押す勇気についても然り。大ハードだったとはいえ、夏休みに入ったというこの解放感をもってひいき目に振り返れば、充実した最後の1週間だったのかもしれない、そう思えます。とはいえ、パトラッシュ、

 

 僕はやはり疲れているよ。

 

 おやすみなさい。

 

 

フランダースの犬 (新潮文庫)

フランダースの犬 (新潮文庫)

  • 作者:ウィーダ
  • 発売日: 1954/04/19
  • メディア: 文庫