しかし、部下育成の重要性はわかっていても、その原理については知らないという人も多いようです。中には、自分が若い頃に出会った上司のやり方をそのまま再生産し、部下を厳しく追い詰めるなどして、チームに悪影響を与えてしまっているマネジャーも見受けられます。逆に部下に対して思い切ったことが言えず、あらゆる仕事を自分ひとりで抱えて疲弊してしまうマネジャーもいます。
4章で再度詳述しますが、部下育成の原理とは、リスクをとって部下に仕事を任せ、適切なタイミングでフィードバックをすることです。この場合のリスクは、部下にその能力より少し高めの仕事を割り振ることで生じます。
(中原淳『駆け出しマネジャーの成長論』中公新書ラクレ、2014)
こんばんは。夏のショート・バケーションが文字通りあっという間に終わってしまいました。《「明日から、もう俺の人生、残り全部、バケーションみたいなものだし。バカンスだ」》って、伊坂幸太郎さんの小説『残り全部バケーション』に登場する「俺」みたいに言ってみたいものですが、実際のところは「明日から、もう2学期」が正解です。冬休みも短縮されることから、令和2年については「残り全部、2学期みたいなものだし」。
なんてことは、まるでない!
って、伊坂幸太郎さんの小説『砂漠』に登場する「北村」の決めゼリフでも言いたいところですが、なんてことが、まるであるんです。令和2年は、コロナ禍によって生じた学習の遅れ(?)を取り戻すべく、冬休みの短縮+土曜授業の追加で、残り全部、2学期みたいなもの。
教員になってから十数年。未だかつて経験したことのない、ネバー・エンディングな2学期が始まります。時間どろぼうにやられないように、あらゆる仕事を自分ひとりで抱えて疲弊してしまわないように、駆け出しではないものの、ひとりのマネジャーとして「7つの挑戦課題」を確認した上で明日からの毎日に備えようと思います。
7つの挑戦課題を「科学」する。
中原淳さんの書いた『駆け出しマネジャーの成長論』の副題です。何といっても科学ですからね、科学。サイエンスです。講談社のブルーバックスもびっくり。『7つの習慣』で知られるスティーブン・R・コヴィーもびっくり。成功に原則があるように、成長にも原則があった!
中原淳さんの『駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する』を再読しました。小学校の学級担任って、会社でいうところの「マネジャー」みたいなものですよね。冒頭に引用した文章なんて、部下を児童と読み替えれば、駆け出し学級担任の成長論としてそのまま使えます。リスク云々というところに出てくる《部下にその能力より少し高めの仕事を割り振ることで生じます》なんて、教育学者である佐藤学さんの「背伸びとジャンプのある学び」にそっくりです。
駆け出し学級担任の成長論。
そっくりだからこそ、この『駆け出しマネジャーの成長論』に書かれていることは、学級担任にとって非常に役立ちます。ちなみに「7つの成長課題を『科学』する」というこの言い回しは、「大人の学びを『科学』する」という中原さんの「十八番」とでもいうべきキャッチフレーズの変形バージョンで、これ以外にも、例えば中原さんが監修した『教師の学びを科学する』なんていう本のタイトルにも援用されています。教師の学びも、駆け出しマネジャーも、人材開発の大御所である中原さんの手にかかればすっかり「科学」されちゃうというわけです。
さて、本題の「7つの挑戦課題」とは?
- 部下育成
- 目標咀嚼
- 政治交渉
- 多様な人材活用
- 意思決定
- マインド維持
- プレマネバランス
部下育成はもちろん児童育成として読み替えることができるし、目標咀嚼は学級目標をはじめとして生活目標やら保健目標やら「目標だらけ」の学校にはぴったりだし、政治交渉と多様な人材活用は管理職や他のクラスの担任との交渉、それから地域人材の活用などにつながるしって、要するにやっぱり学級担任はマネジャーとしての側面が濃い。しかもプレイヤーでもある。それから「学級経営」という言葉からすると経営者としての側面もある。その上、国語算数理科社会、英語に体育に音楽に道徳にプログラミングに児童指導に給食指導に会計処理に職員会議の資料づくりに安全パトロールに捜索に、そしてオンライン教育にって、まさに「混沌」で、病んだり辞めたり、マインドが維持できなくなるのも当然です。どこかのロックシンガーのように「混沌こそが我が墓碑銘」なんて口にできるほどタフな先生たちばかりではないんです。
そんなわけで、2学期が始まる前から折れそうな私としては、6番目の「マインド維持」が気になります。頁を開いてみると、こんなことが書かれています。
いかにその仕事が「矛盾」や「混沌」に満ちていようとも、心を平静に保たなくてはいけません。マインド維持とは、ひと言でいえば「折れないように自分を維持すること」です。
折れないように自分を維持すること。大事です。製造業におつとめのマネジャーさんが口にしたという「不真面目にスルーせざるをえないこと」や、金融系企業におつとめのマネジャーさんが口にしたという「あきらめなければならないこと」など、そういった困難にでくわしたときに、立ち向かってはいけません。スルーです。高校生の長女と中学生の次女、すなわち思春期女子の扱いと同じです。触らぬ思春期に祟りなし。
スルーする。
とはいえ、スルーするだけでは心を平静に保つことはできません。中原さんは、マインドを維持するにあたって、最も助けになるもののひとつとして《「自分の仕事に耳を傾けてくれるサポ-ティブな他者」をいかに探すか、という点》を挙げています。言い換えると、「孤独なマネジャー」になってはいけないということ。う~ん、なっちゃいそうだなぁ。
サポーティブな他者。
急募。