ですが、こうした繊細さんは、決して人嫌いなわけではありません。心を許せる相手と深く話すのは好きだし、家族を大切にしていたりと、人そのものは好きなのです。
人と一緒に穏やかな時間を過ごしたい、もっと仲良くなりたいと思う一方で、長時間誰かと一緒の空間にいると疲れてしまい、みんなのいる場所から離れてひとりになりたいと思うのです。
(武田友紀『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる「繊細さん」の本』飛鳥新社、2018)
こんばんは。今朝、いつもとは違う時間に出勤したところ、乗り換えのときに女性専用車両に足を踏み入れてしまいました。ハニートラップです。敵は花粉やコロナだけではありません。普段は子どもたちが登校する1時間前には学校に着くようにしているため、朝が早く、女性専用車両なんていう罠はないんですよね。幸いドアが閉まる前に気づいたので事なきを得ましたが、九死に一生を得るとはあのことです。きっと非・繊細さんでもそう思うに違いありません。いわんや繊細さんをや。
ハニートラップを回避し、花粉のダメージを最小限に抑えつつ、コロナクルナと祈りながら約1時間15分かけて学校に到着しても、繊細さんの戦いは続きます。正直、職員室では仕事がやりにくいんです。作業的な仕事ならまだしも、通知表の作成なんて、とても無理です。女性専用車両で感じた視線ほどではありませんが、マスクをつけた先生たちの存在が気になります。みんないい人たちなのに、気が散って集中することができません。だから教室にひきこもることになります。
病気でしょうか、いいえ、5人に1人が。
武田友紀さんの『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる「繊細さん」の本』は、写真家の幡野広志さんのトークイベントを聞きに行ったときに、幡野さんが「私もそうかもしれない」というニュアンスで紹介していたのがきっかけで手に取りました。幡野さんは「敏感さんの本」と連呼していましたが、それはさておき、幡野さんの繊細な写真も、こころの機微をとらえた文章も、もしかしたら本当に「繊細さん」気質によるものなのかもしれません。そのことを裏付けるかのように、武田さんは《世界の美しさや優しさ、人の暖かさ。「いいもの」を受けとり深く味わうことは、繊細さんの得意技。絵、歌、音楽、カメラ、文章、俳句、ハンドメイド。手段はさまざまですが、書いたり描いたり歌ったりと、自分の内面を表現している繊細さんも数多くいます》と書いています。
繊細さんは、自分のままで生きることでどんどん元気になっていく。
繊細さんのもつ「繊細さ」をとことん生かして、幡野さんのように自分らしく生きていこう。幡野さんお勧めの『「繊細さん」の本』は、ざっくりいうと、そういった本です。
Highly Sensitive Person!
ここ数年、特別支援教育の文脈でHSPという言葉をよく聞くようになりました。アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が提唱した概念で、武田さんが親しみを込めて「繊細さん」と呼んでいる人たちのことです。アーロン博士によると、世の中には生まれつき繊細な人が5人に1人の割合で存在するとのこと。40人学級には8人の繊細さんがいるということです。それにしても、素敵なネーミングですよね。繊細さん。呼び方ひとつでイメージが変わります。
繊細さは、克服すべき課題ではない。
本のタイトルにもあるように、繊細さんは、非・繊細さんよりも「気がつきすぎて疲れやすい」という特徴をもっています。上司の機嫌や職場の人間関係、音や光などの環境の変化や自分自身の気持ちなど、疲れやすい原因は多岐にわたるとされます。ただし同じ繊細さんでも、感じる対象や感じる強度は人それぞれとのこと。まぁ、いずれにせよ、
繊細さんの特徴は「感じる力が強い」という一言に集約されます。
感じる力が強すぎるゆえに疲れてしまいがちな繊細さんの悩みの中で、もっとも多いといわれているのが、決して人が嫌いなわけではないけれど「人といると疲れる」というもの。1対1で話すのは好き。私だぁ。でも大勢で盛り上がるのは苦手。私だぁ。職場に機嫌が悪い人がいると気になる。私だぁ。場の雰囲気が気になる。私だぁ。クラスの中でいえば、たぶんあの子とあの子とあの子だぁ。
繊細さは武器になる。
繊細さんの感じる力は「いやなもの」にも発揮されるし、逆に「いいもの」にも発揮されます。ここにいるとつらい、あそこにいるとしあわせ。いうなれば高性能の「しあわせ」探知機みたいなものです。だからそのギフトを使って、自分に合う人間関係や職場環境を探し、そこに身を置けばいい。繊細さんが元気に生きていくためには、武田さんがいうように《「私はこれが好き」「こうしたい」という自分の本音をどれだけ大切できるかが勝負どころ》になってくるというわけです。
高円寺は合わなかった。先日、フラッと立ち寄ったお店のマスターさんが、そんな話をしてくれました。高円寺に店を構えたけれど、オープンしてからすぐに「合わない」と気づいて、3年ほど我慢した後に移転した。今は最高、とのこと。「こうしたい」を大切にした結果としての「最高」だと思います。真っ昼間から飲むモヒートも最高でした。
九州大学の工学部(しかも宇宙飛行士の若田光一さんと同じ機会航空工学科)を出ているのに、HSPの専門カウンセラーというジャンルの異なる仕事をしている武田さんも、きっと「私はこれが好き」「こうしたい」という自分の本音を大切にして生きているのだろうなぁと想像します。
繊細さんはこの世の中にたくさんいます。
応援してくれる人もまた、たくさんいるのです。
私も「繊細さん」かもしれないと思って妻に話したところ、応援ではなく、一笑に付されました。「繊細さんかもしれない」っていうと、「鈍感さんかもしれない」っていう。
こだまでしょうか、いいえ、ぜんぜん。