考えることはエネルギーを消費するから、考えなくてもいい状況で考えるのは、生物的に不可能なんです。カオスな環境に行くとか、思い通りに行かない経験をすることで初めて考えられるし、いろいろなものが見えてくるのだと思います。
(高濱正伸『子ども時代探検家 高濱正伸のステキな大人の秘密 ~なぜか全員「農学部」編~』エッセンシャル出版社、2020)
おはようございます。昨日に続いて今日も首都圏は外出自粛です。3月に入ってからずっとカオスな環境ですね。学校では、毎年これだけの量の仕事(通知表や要録など)を授業と平行して行っていたのかとか、卒業式は来年もこれくらいシンプルでいいのではないかとか、いろいろなものが見えてきた1ヶ月でした。カオスな環境にならなければ、例年通り思考停止のまま4月に突入していたことでしょう。いやぁ、危ない危ない。思い通りに行かない経験って、ホント大事です。
昨日、高濱正伸さんの『ステキな大人の秘密』が届きました。株式会社ジーンクエスト代表取締役の高橋祥子さんの Twitter を見て注文した本です。子育て的にはリケジョの高橋さんに興味があり、本好き的には『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』の出雲充さんに興味がありました。ちなみに冒頭の引用は高橋さんの台詞です。
花まる学習会高濱先生@19590314 との対談本出版!
— 高橋祥子 (@Shokotan_takaha) March 25, 2020
全員農学部出身の
宮澤弦さん(ヤフー)
岡田光信さん(アストロスケール)
松山大耕さん(退蔵院)
辻庸介さん(マネーフォワード)
出雲さん(ユーグレナ)
皆さん個性的に活躍されてますがどう育つとこうなるのかが知れてとても面白いです。 pic.twitter.com/sIEXDjFjez
この本は、お茶の水ソラシティで定期的に開かれている「高濱ナイト」(高濱さんとゲストスピーカーとのトークセッション)の内容を基に構成されています。子ども時代探検家である高濱さんが、ゲストスピーカーの「子どもの頃」と「教育」について質問を重ねていくトークセッション。私も一度だけ参加したことがあります。そのときのゲストは元陸上選手の為末大さんでした。
ステキな大人の秘密を探ろう。
2年生の算数でいうところの「九九表の秘密を探ろう」みたいな話ですが、長年に渡って教育に携わってきた「子ども時代探検家」の高濱さんは、「しっかり遊び切ること」や「アイデアを出すのが好きなこと」、それから「これぞと思う出会いを逃さずつかみ取ること」などが「ステキな大人」に共通している子ども時代の体験だと書いています。
例えば高橋祥子さんの場合。
ゲノム解析の第一人者である高橋さんは、東大の大学院生だったときに加藤先生という《チャンスを与えて、どうなるかを笑顔で見守るという感じ》の先生に出会い、起業した後も共同研究者として縁を育んでいるとのこと。高橋さんのやりたいと言ったことに絶対にNGを出さない先生だったそうで、そういったことが「アイデアを出すのが好きなこと」につながるのだろうなと思います。また、高橋さんが加藤先生との縁を育むことができたのも、子ども時代から「これぞと思う出会い」を大切にしてきた結果だと想像します。
例えば出雲充さんの場合。
ザリガニ釣りの話が紹介されています。高濱さんいうところの「しっかりと遊び切ること」の好例です。漫画の『こち亀』に出てきたザリガニ合戦の話に感化され、弟と一緒にスルメを持って公園に行ったという出雲さん。しかしザリガニは、スルメにはピクリとも反応しません。両さん(こち亀の主人公である両津勘吉)はスルメで釣っていたのに、おかしい。それならばと思って出雲さんの好物であったいちご大福や雪見だいふくをエサにしたところ、それでもやはり釣れない。全く釣れない。なんだか5年生の国語の教科書に出てくる『大造じいさんとがん』みたいなかけひきですが、最後の手段は、我が家の次女の大好物でもある「さけるチーズ」。
「さけるチーズ」をエサにしたら、池じゅうのザリガニがザザザーって集まってきた。いやあ、恐かった(笑)。
高橋さんのステキにせよ出雲さんのステキにせよ、もちろんそれだけが「ステキの秘密」の答えではなくて、やはりそれぞれの育った「家庭がステキ」であることが「二人のステキ」につながっています。
思いっきりつながっています。
先週、男子刑務所(島根あさひ社会復帰促進センター)を舞台にした映画『プリズン・サークル』を観ました。その中に出てくる受刑者の親のひどいことひどいこと。『ステキな大人の秘密』に出てくる家庭とは比べものになりません。天と地の差の302倍です。
田舎教師ときどき都会教師 -- ハンナ・アレントの「経験を有意味なものにすることができるのは、ただ彼らが相互に語り合い、相互に意味づけているからにほかならないのである」に関連づけて、映画『プリズン・サークル』をユーモアたっぷりに、わかりやすく批評。https://t.co/G7tPJkCfmK
— 坂上香 (@KaoriSakagami) March 20, 2020
やっぱり、親。結局、育て方。
高橋さんはフランスからの帰国子女で、子どもの頃に家族でヨーロッパ一周旅行に行ったり、父親から「他人のことは気にせず、自分の世界を深く持て」とか「学歴は、自分のやりたいことが見つかったときに、その道を作ってくれることもある」なんていうステキな言葉をもらったりしています。家にいるときはバラエティ番組などは見せてもらえず、自然と本を読むことが多かったとのこと。おそらくはそれも「ステキの秘密」で、高濱さんも《それなりに結果を出している人の家庭では本をすごく大切にしています》と書いています。
また、出雲さんはごく普通の中流家庭出身と言いつつも自身は東大で弟は医者というサラブレッド育成家庭で育ち、《自分を暖かく見守ってくれた母親の存在が、自分の性格を形づくるのに大きな影響を与えたのは間違いない》と、処女作である『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』に書いています。ちなみにミドリムシというのは漫画『ドラゴンボール』でいうところの仙豆みたいなもので、今では食べ物としてだけではなく、飛行機の燃料としても期待されています。仙豆と聞いて気になった人はぜひ読んでみてください。ミドリムシはドラゴンボールに負けないくらいの名著です。
高橋さんが Twitter で「特に子育て世代の人は是非どうぞ~」と『ステキな大人の秘密』を勧めていました。ちなみにこの本に登場する「ステキな大人」は、副題にもあるように全員「農学部」出身です。それぞれが語る農学部の魅力があまりにもステキだったので、読み終えた後に、この4月から高校生になる長女に「農学部はどう?」って思わず聞いてしまいました。中学生になる次女にも勧めようかなぁ。
ステキな大人の秘密を探ろう。
やっぱり、親だな。