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本庶佑 著『幸福感に関する生物学的随想』より。幸福感を高め、免疫力を高め、コロナクルナ。

 幸福感も相対的な感覚に基礎を置いていることを考えるならば、安定した状態の中での差を認識することが永続的な幸福を保証するものではないかと思われる。つまり、不快感のない安らかな心の状態に達した上で、時折の軽い不快感によってそのありがたみを確認し、時折の快感刺激によって人生の楽しみを実感することができれば最高の幸福だというのが、きわめて平凡な私の結論である。
(本庶佑『幸福感に関する生物学的随想』祥伝社新書、2020)

 

 おはようございます。月曜日から早速の早朝出勤です。新型コロナウイルスへの対応が先週の金曜日に変わり、そして土日にも変わり、挙句の果てに「今日は7時30分までに来てください」とのこと。もはや何が何だかわからない状態となっています。午前中に入学式が予定されていますが、本当にできるのでしょうか。朝に令して暮れに改む。中央教育審議会答申(平成28年12月)で話題となっていた「将来の変化を予測することが困難な時代」が思っていたよりも早くやって来たのかもしれません。ひょうたんから駒が出るような、そんな時代です。

 

 

 ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑さんの『幸福感に関する生物学的随想』を読みました。これまでの講演や随想などを集めたもので、以下の6編(日本語4編、英語2編)から構成されています。

 

 ・幸福感に関する生物学的随想
 ・ひょうたんから駒を生んだ、私の幸せな人生(日本語、英語)
 ・獲得免疫の思いがけない幸運(日本語、英語)
 ・免疫の力でがんを治せる時代

 

 ノーベル賞受賞記念講演の「ひょうたんから駒を生んだ、私の幸せな人生」(おもしろいです。子育てのヒントに、ぜひ読んでみてください!)に加えて、表題作の「幸福感に関する生物学的随想」が印象に残りました。人間が幸福を感じる仕組みを生物学的に考えるとどのような結論が得られるのか。冒頭の引用が本庶佑さんの「今のところ」の答えです。科学者の答えは常に暫定的なもの。この答えをパラフレーズすると①と②になります。

 

 ① 不快情報処理能力を高める
 ② 性・食・競争はほどほどに

 

 ①の「不快情報処理能力を高める」について。

 不快情報処理能力というのは、要するにイヤなことがあっても耐えられる力のことです。新型コロナウイルスへの対応が二転三転したとしても、動じない力。本庶佑さんは《不快情報の制御によって不快中枢への入力を下げるか閾値を上げればよい》と書きます。そのためには子ども時代に「かわいい子には旅をさせよ」「苦労は買って出ろ」といった体験学習が必要とのこと。本庶佑さんの理系チックな文章を読みながら、リケジョの高橋祥子さん(株式会社ジーンクエスト)が、同じく生物学的見地から《でも、いきなりつらいことを経験するとポキンと折れちゃう場合もあると思うので、気づいたらいつの間にかできるようになっているという感じで、筋トレと同じように、少しずつ負荷を上げていくのがいいんじゃないかと思っています》と同様のことを言っていたことを思い出しました。イヤなことやちょっとしたトラブル、時折の軽い不快感が子どものしあわせにつながるということです。それらを取り除いたらダメですよね。それこそ写真家の幡野広志さんいうところの「とても優しい虐待」になってしまいます。保護者にも伝えましょう。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 ②の「性・食・競争はほどほどに」について。

 性欲を満たすこと、食欲を満たすこと、競争に勝つこと。これらは本の中で「低次元の幸福感」と形容されています。快感といった方がわかりやすいでしょうか。そしてこの快感は、突き詰めると飽和してしまうと説明されています。快感を追い求めると、やがて飽きてしまって逆に不幸をもたらす危険性があるということです。

 この「快感の飽和」とうまく付き合っていた先人の例として、本庶佑さんはジャン=ジャック・ルソーを登場させています。ルソーは《当時最も貴重な嗜好物であった砂糖を長く楽しむために、薄い濃度の砂糖水から始めしだいに濃度を上げ、やがてこれ以上上げられなくなったところで一度砂糖断ちをして、しばらくして再び濃度を低くし、また少しずつ濃度を上げていく》ことによって快楽の飽和をコントロールしていたとのこと。すなわち冒頭の引用でいうところの《時折の快楽刺激》をうまく使って自身の幸福感に結び付けていたというわけです。臨時休校によって授業断ちをしていることが、もしかしたらこの《時折の快楽刺激》と同じ役割を果たしてくれるかもしれません。

 

 (前略)もうひとつ重要なのは患者自身の免疫力が強いかどうかですが、ヒトの免疫力は千差万別です。たとえば、同じインフルエンザウイルスに感染したとしてもくしゃみや鼻水ですむ人と、40度近い高熱で場合によっては死に至る人がいます。

 

 新型コロナウイルスに負けないために、学校の先生にできることは免疫力を高めることと手洗いうがいを欠かさないことだけです。免疫力は幸福感とつながっています。ウイルスを避けるためにも、本庶佑さんの『幸福感に関する生物学的随筆』を参考にして、少しでも「しあわせな感じ」を醸し出すことができればいいなと思います。

 

 コロナクルナ。

 

 行ってきます。

 

 

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  • 発売日: 2020/03/19
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