田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

山本つぼみ 著『あたらしい高校生』より。ふるい高校生(?)に伝えたいこと。こんな生き方もある!

 この本を書くにあたり、私を育てる上で何か教育方針はあったのか父に聞きました。
 すると、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんの父親がTEDトークで語った教育方針と、偶然にも自分の教育方針に通じるものがあったと父は言っていました。
(山本つぼみ『あたらしい高校生  海外のトップ大学に合格した、日本の普通の女子高生の話』IBCパブリッシング、2020)

 

 おはようございます。この4月から長女が普通の女子高生になります。普通の中学生から普通の女子高生へ。

 ちなみに普通って何でしょうか。辞書には「特に変わっていないこと」「ごくありふれたものであること」と出ています。ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんの父親は、娘の育て方の秘訣を訊かれたときに《私の答えは、私が何かしてあげたのではなく、あることをしなかったお陰でしょう。彼女の『翼』を切り取らなかった(Idid not clip her wings.)。それだけです》と答えたそうですが、普通の父親はマララさんのことを知らないし、子育ての方針をパッと説明することもできません。TEDの内容を引用するなんて、まず無理でしょう。

 

 教員は、そう捉えます。

 

 だからこれから紹介する本は、サブタイトルにあるような「普通の女子高生の話」ではありません。だってのっけから《両親ともに旅行好きなこともあり、時々ですが家族で海外旅行をすることもありました。シンガポール、ハワイ、カナダ、中国、カンボジア・・・・・・、幼い頃にいくつかの国に連れて行ってもらった記憶がありますが、1週間以上の滞在をしたことはありません》なんて出てくるんです。1週間以上の滞在をしたことはありませんって、そう書いたところで読者が「普通だぁ」「私たちと同じだぁ」と思うわけもなく。育ちのよさが滲み出ている、家庭環境のよい女子高生の話。

 

 教員は、そう読みます。

 

 とはいえ、だからといってこの本の魅力や著者である山本つぼみさんの魅力が損なわれるわけでは全くありません。むしろ魅力アップです。なぜなら、家庭環境の大切さがよくわかるから。そして、それだけではないということもよくわかるからです。 

 

 

 国立教育政策研究所の千々布敏弥先生が Facebook で勧めていたことからこの本のことを知り、購入しました。サブタイトルにあるように、海外のトップ大学に合格した日本の(自称)普通の女子高生の話です。

 

 家庭環境のよい女子高生。

 

 そこにこだわるのは、やはり現場で子どもやその保護者と接していてると、子どもの成長にはどうしたって家庭環境が関係していると考えざるを得ないからです。経済的な話ではありません。家庭でどんな話をしているのかとか、両親はどのように振る舞っているのかとか、そういった文化的な話です。

 家庭の教育方針について、山本さんは《「やりたくないことは強制しない、本気でやりたいことは全力で応援する」そんな両親でした》と書いています。親が子どもをコントロールしようとしていません。塾も行きたくないと言ったら辞めさせてもらえたそうです。ちなみに海外の大学への挑戦も、塾には行かず、お金をかけずに成し遂げています。曰く《私はずっとリビングで勉強していました》とのこと。きっと母親が近くにいてくれたんですよね。やはり家庭環境に恵まれた女子高生です。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 家庭環境に恵まれている人は、山本さん以外にもいます。ではなぜ、山本さんだけが海外のトップ大学に合格することができたのか。昨日のブログで紹介した、ステキな大人に共通している子ども時代の体験という視点で見ていきます。子ども時代探検家の高濱正伸さんが見つけたポイントです。

 

 ① しっかり遊び切ること
 ② アイデアを出すのが好きなこと
 ③ これぞと思う出会いを逃さずにつかみ取ること

 

 ①について。山本さんは、中学生のときにダンスにのめり込み、自宅に近いというただそれだけの理由で選んだ大阪府立箕面高校に進学した後も、朝から晩までダンスに打ち込んだそうです。高2の8月にある全国大会まではダンスをやる。そしてその後は部活を辞めて、海外の大学に合格するための受験勉強に舵を切る。部活にせよ受験にせよ、努力というよりも夢中になって「しっかり遊び切る」という感覚で取り組む。本を読むと、そういった様子が伝わってきます。

 ②について。アメリカの大学受験に必要な「エッセイ」を仕上げるために《高3の8月から翌年1月まで、毎日このような対話をしては、エッセイを書き直す日々を過ごしました》と書いています。毎日です、しかも最終的に17校のアメリカの大学に出願したとのことで、20本以上のエッセイを書かなければいけない状況にあったとのこと。書き直しは1本のエッセイにつき10回程度で、多いものは40回を超えたそうです。「アイデアを出すのが好き」でなければ、続かないでしょう。

 ③について。山本さんは高校時代に2人の師匠と出会っています。帰国子女の日野田直彦校長先生と、海外で育ち、オーストラリアの大学を卒業している英語の高木草太先生です。海外の大学を目指すに当たって、山本さんは「ちょっとエッセイを見てください」とか「将棋、指しましょう」などと口実を作っては二人のもとを訪れていたそうです。高3のときにはほぼ毎日校長室に通っていたというから驚きです。「これぞと思う出会いを逃さずにつかみ取ること」。わかってはいても、なかなかできることではありません。

 

 家庭環境のよさ + 本人の意志 = 海外のトップ大学合格

 

  山本さんに「君ならできる」と言ったときのことは、今でも覚えています。たしか彼女が高校1年生の冬だったと思います。
 長年現場で教員をしてきた経験から、だいたい目を見れば分かるものです。そういう生徒の目には力がある。意志の灯った目です。

 

 日野田直彦さん(現・武蔵野大学中学校・高等学校 校長)の言葉です。『あたらしい高校生』の最後に、高木草太さんの言葉と合わせて収録されています。これがまた素晴らしくて、全文をここに引用したいくらいです。日野田さんのことは寡聞にして知りませんでしたが、著書もあるようなので、今度読んで紹介したいと思います。

 

 

 家庭環境のよさと、自身の意志(がんばり)によってアメリカの名門ウェズリアン大学へと進学した山本つぼみさん。処女作の『あたらしい高校生』には、大学生活のことや奨学金のこと、SATやTOEFLなど、受験に関する実際的なこともたくさん書かれています。興味がある方は、ぜひ。

 

 あたらしい高校生。

 

 〇〇ちゃん(長女)、こんな生き方もあるってよ!