田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

関良則 著『奇跡の軌跡』より。臨時休校の軌跡を5月の頭まで描き続けてほしい。

 大事なのは、こうした情報を地域で共有することである。特定の旅館だけが情報を独占していても意味がない。自分だけ良ければいいという発想は、結局、四万温泉全体の利益をそこない、結局、自分もつぶれていってしまうことにつながるからである。むしろ、積極的に情報を開示して、それを四万温泉全体の活性化のためのマーケティング資料として活用することが大切だ。
(関良則『奇跡の軌跡』文芸社、2006)

 

 おはようございます。明日から4月だというのに、新年度の準備がほとんどできていません。なぜできていないのかといえば、どう考えても4月の学校再開は無理だろうと高をくくっていたからです。新型コロナウイルス、侮ることなかれ。昨日の志村けんさんの訃報に、誰もがそう思ったのではないでしょうか。感染者は増え続け、プロ野球選手やJリーガーの陽性反応も報じられています。昨日までの感染者数は1988人、死亡者数は59人。あれ、思っていたほど多くない。合計しても2047人にしかならない。そうだとすると、おかしい。その少ない人数の中に、有名人が何人も混ざっているなんて。同様の指摘を多くの人がしています。国は、正しい情報を積極的に開示しているのでしょうか。小学校の再開は、いったいどんな情報をもとに決められたのでしょうか。大学のときに所属していた研究室(工学部)の看板は「計測」でした。計測なくして正しい情報なし。情報なくして正しい行動なし。温泉にでも入ってそういったことをゆっくりと考えたいものです。

 

奇跡の軌跡―1964~2006

奇跡の軌跡―1964~2006

 

 

 例年だったら3月末に温泉にでも行って1年の疲れを癒しているのに、今年はコロナのために「外出自粛」を余儀なくされてしまいました。そこで手にしたのが、四万温泉にある「鶴屋」代表取締役・関良則さんの『奇跡の軌跡』です。温泉本でも読んで「いい湯だな、あははん」と、志村けんさんの追悼をかねて空想に浸ってやろうというわけです。

 この本には、祖父母から引き継いだ倒産寸前の旅館を立て直し、年商3億円を超える「奇跡の宿」として再生させた、関さんの成功譚が描かれています。関さんは、四万温泉にある「鶴屋」の宿主として知られる有名人です。

 

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四万温泉街(2009.12.31)

 

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関良則さんの本が置いてあった、文豪の宿(2010.1.1)

 

 鶴屋を「奇跡の宿」として再生させた関さんの経営改革のポイントは、3つ。おそらくは「奇跡の国」や「奇跡の学校」や「奇跡のクラス」をつくるポイントとほとんど同じです。

 

 ① 既存の見直し
 ② 連携をつくる
 ③ 未来ビジョンを立てる

 

 ①は「計測」と同じです。何が足りていて何が足りていないのか、何がOKで何がNGなのか、何が使えて何が使えないのか、正しくはかる。例えば、名前のなかった露天風呂に「鹿覗きの湯」としてスポットを当て、その魅力を引き出す。関さんは《既存を見直して、別の角度から光を当てることによって、今まであったものが魅力的に生まれ変わる》と書いています。新型コロナウイルスへの対応でいえば、五輪選手村を隔離施設(病床)として使用するというアイデアも、既存の見直しのひとつといえます。

 

 冒頭の引用は②にあたります。関さんだけが「経営改革」に成功しても、四万温泉全体がダメになってしまえば、その成功は失敗に転じてしまう。《秘密主義で、自分のところだけ儲かればいいという発想は、今の時代にはふさわしくない。地域全体で盛り上げていく中で、それぞれの旅館が個性を発揮するという形に持っていきたいのだ》というわけです。学校でいえば、自分の学級だけが落ち着いていればそれでいいという発想はNGという話と同じです。

 

 ③について、関さんは次のように書いています。

 

 私の場合、つきつめていくと、いちばん守りたいものは家族と過ごす時間である。それを犠牲にしてまで事業はしたくない。
 自分にとって、一番守るべきものは何か。そのことを念頭に置いて、未来のビジョンを立てることが重要である。

 

 関さんのいちばん守りたいものと、私のそれは同じです。いちばん守りたいものは家族と過ごす時間である。教員や、子どもたちの家族を含め、多くの人が頷くのではないでしょうか。学校の働き方改革や、国及び自治体の新型コロナウイルスへの対応も、そういったことを念頭に置いてビジョンを立ててほしい。4月から学校を再開することが、子どもたちやその家族、教員やその家族の命を奪うことにつながってしまうのではないかと、もう一度、考えてほしい。

 

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湯河原にて(2019.3.30)

 

 1年前は露天風呂で疲れを癒していたのに。今日はこれから、吉本隆明さんの『ふたりの村上』と沢木耕太郎さんの『凍』を持って、学校に行きます。満員電車を避けるための時差通勤です。コロナに怯えつつも、座って、ゆっくりと本を読めるかもしれません。報道によれば、昨日、日本医師会が「緊急事態宣言を出してもよい状況」という見解を示したそうです。5月の頭まで臨時休校が続きますように。

 

 切に、そう願います。

 

 行ってきます。

 

 

ふたりの村上

ふたりの村上

  • 作者:吉本隆明
  • 発売日: 2019/07/06
  • メディア: 単行本
 
凍 (新潮文庫)

凍 (新潮文庫)