田舎教師ときどき都会教師

テーマは「小学校教員の働き方と生き方」&「本、旅、人」

神戸の女帝(教師いじめ)の話よりも、世の中に伝えたい夏みかんの話

 だから《平林》なんてのは、もう即国語の勉強になる。ひとつ字でも、いろんな読み方が、音訓の読みわけもあるし、そうじゃないのもありますんでね。面白い。そして、読み方を間違えてもがっかりすることはないんです。総理大臣になれる可能性は残されているんですから。
三遊亭圓窓『日本人が忘れちゃいけないこの落語』ベスト新書、2009)

 

 落語に《平林》という噺があります。ストーリーは、小学生に人気の《寿限無》と同様、名前をめぐるもので、手紙を預かったものの宛名の読み方を忘れてしまった小僧が「あなたはタイラバヤシかヒラリンか? それともヘイリン、ベイリンか?」と泣きながら平林さんを捜すというもの。

 

「あたしはひらばやしだ!」

 

 捜し当てた挙句、「ひらばやし? ああまた一つ増えちゃった」となるのが、落語家である三遊亭圓窓さんの考えたオチです。

 

 ひとつの字でも、音訓の読み分けがあるのはなぜか。
 握ると摑むなど、似た意味の言葉があるのはなぜか。

 

 国語の授業(小単元『にた意味の言葉』)で類義語を学習するに当たって、上記の問いを4年生の子どもたちに投げかけたところ、「複雑な方がおもしろいから」や「想像力がつくから」、「考える力がつくから」など、感度のよい答えが返ってきました。音訓の読み分けがあったり、類義語があったり、あべこべことばがあったり、そういったある意味「コミュニケーションをわざとややこしくする言葉」の存在理由について、作家の内田樹さんは次のように述べています。

 

 わたしたちは「あべこべことば」を適切に聞き分けることで、ほとんど出来上がった半製品に最後の包丁を入れて、「カオス(混沌)」から「コスモス(秩序)」が立ち上がる瞬間に立ち会う。両価的・対立的な語義のあわいにことばが揺れ動いているのは、そのあいまいさの霧が晴れて、表象が送り手と受け手のあいだで、二分割されて共有されるその瞬間の感動をおそらくは甦らせるためなのだ。ことばが成立した瞬間の原初の感動を経験し、その出来事を再演することがわたしたちをコミュニケーションに誘う根源的な動機づけであるとしたら、たしかにコミュニケーションは過度に一義的でクリアカットなものであるべきではない。
内田樹『死と身体 コミュニケーションの磁場』医学書院、2004)

 

 カオスからコスモスではなく「オチ」が立ち上がる落語にも、ある種の「瞬間の感動」を甦らせる力があるような気がします。2009年の秋、学年の先生たちと一緒に三遊亭圓窓さんのステージを生で体験したときに、そう思いました。あれからもう10年も経つのか~。

「同じ感動を、感度のよいあの子たちにも!」と思って、その年に実現したのが、下の写真にある、圓窓さんを招いて行った落語の授業です。学年主任のK先生(♀)が引き寄せてくれた「圓」、ならぬ「縁」。楽しかったな~。

 

 

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図書室につくった高座(09)

 

 図書室につくった高座の上で、お気に入りの落語を披露した子どもたちの生き生きとした表情といったらそれはもう、10年前のことですが、今でもはっきりと覚えています。還暦以降のライフワークを落語の授業に当てているという、三遊亭圓窓さんの指導も、素晴らしかった!

 

 今年の5月、そのK先生から贈物が届きました。

 

 夏みかんです。

 

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K先生から贈られてきた、夏みかん(19)

 

 ちょうど国語の授業で、夏みかんの登場する『白いぼうし』を扱っていたタイミングでの贈り物です。教員採用試験を受け直し、またまたまた自治体を変わった「変わり者の私」を気遣ってのサプライズ。学校宛に送られてきた「箱」を、「あっ、K先生からだ、何だろう」って教室で開けたら夏みかんが出てきて、もう、泣きそうになりました。手紙に「間に合いましたか?」って、ドンピシャですよ~、嬉しすぎます。瞬間の感動😭

 

「女帝」がどうのこうの。

 

 神戸の小学校の「教師いじめ」の続報が続いています。教員のイメージがどんどん悪くなっていって、本当に残念です。

 田舎と都会を行ったり来たりしている「田舎教師ときどき都会教師」の私ですが、その後「校長先生」になったK先生をはじめ、ほんと~に、よい出会いに恵まれ続けてきました。だからこそ、教師いじめを牽引していたという「女帝」のことよりも、各都道府県で活躍している「素敵な先生」たちのことを、もっともっと世の中の人たちに知ってほしい。そう思います。魅力的な先生が、たくさんいますから。

 

 教室には、まだかすかに、夏みかんのにおいが残っています。

 

 そんなわけない。

 

 

死と身体―コミュニケーションの磁場 (シリーズ ケアをひらく)

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車のいろは空のいろ 白いぼうし (新装版 車のいろは空のいろ)

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