田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、旅行、映画」

小林紀晴 著『ASIAN JAPANESE 3』より。「ワレ到着セズ」と「ワレ到着セリ」のあいだで。

 旅は終わり、人は必ずどこかへ帰る。
 帰る場所とはいったいどこだろうか。そのことについて彼と何度か話した。彼は以前言った。
「生まれ育った福岡にずっと住んでいて一歩も出ることがなかったら、福岡を自分の故郷と思えないような気がする」
 そして同じことを彼に問われた。僕は彼とは逆に、もし諏訪にずっと住んでいても、そこを「故郷」という認識をもつことができると思うと答えた。

(小林紀晴『ASIAN JAPANESE 3』新潮文庫、2000)

 

 おはようございます。昨夜、疲れを抱えての帰路、近所の2歳くらいの男の子に「パパ!」って声をかけられてちょっとなごみました。そうか、きみのパパもこんなに疲れているのかぁ、もしや同業(?)なんて思いながら帰宅したところ、中一の次女の歌声が聞こえてきて、またちょっとなごみました。パプリカの英語バージョン。パパのかかとが弾みます。

 

 ただいま。

 

ASIAN JAPANESE〈3〉 (新潮文庫)
 

 

 小林紀晴さんの『ASIAN JAPANESE 3』を再読しました。カトマンズやパリなどの国外を舞台としたこれまでの『1』や『2』とは異なり、沖縄や諏訪などの国内を舞台にした作品です。『ASIAN JAPANESE 1』 は旅の始まり、『ASIAN JAPANESE 2』は旅の途中、そして『ASIAN JAPANESE 3』は旅の終わり。沢木耕太郎さんの『深夜特急』でいえば、ラストの《ワレ到着セズ》のその後を描いた作品といえるでしょうか。

 

 ワレ到着セズ。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 ワレ到着セリ。

 

 その昔、次女の「パパ、おうちかって。○○ちゃんのななひゃくえんつかってもいいよ」に抗えず、妻の実家の近くに家を建てたときに「ワレ到着セリ」って少しそう思いましたが、生まれもってのバックパッカー気質はやっかいで、心は依然として「ワレ到着セズ」という状態にあります。「ただいま」っていうと「お帰り」って言う。「疲れた」っていうと「疲れてるのパパだけじゃないから」って言う。思春期まっただ中の娘ふたりと毎日のようにそんなやりとりをしても、そして年齢を重ねても、なかなか「ワレ到着セリ」の心境には至りません。

 

 病気でしょうか、いいえ、誰でも。

 

 この『ASIAN JAPANESE 3』を読むと、そう思えます。日常と旅が混ざり合っているような、さまざまなひとの「居場所」に出会えるからです。定住漂泊、すなわち「ワレ到着セズ」と「ワレ到着セリ」のあいだを生きている人たちの何と輝かしいことか。ちなみにプロローグには《日常を生きることと旅の中に身を置き生きることが、島では時に同時に存在した》と書かれています。沖縄って、そういうところ。著者の故郷である諏訪も、きっとそういうところ。

 

「きっと僕は、沖縄や諏訪のように土地が持っている独特なものに憧れがあるのだと思う。僕が生まれ育った場所は本当に何の特色もない中途半端なところだから」

 

 冒頭の引用の続きです。僕というのは、この「アジアン・ジャパニーズ」シリーズの中でただひとり三部作全てに登場している福田裕治さんのこと。シリーズの色合いの変化は、福田さんの変容に自然と重なります。

『ASIAN JAPANESE 1』より。カトマンズにて、自転車での旅を続けていた23歳の福田さん曰く「苦行です。今までの自分を壊したいんだ」云々。東京にて、26歳の福田さん曰く「本当に求めていたものは日常の中にあったんだ」云々。『ASIAN JAPANESE 2』より。パリを経由した後のハノイにて、27歳の福田さん曰く「パリという街に行ったのに、熱くなっていかない自分が悲しかった」云々。『ASIAN JAPANESE 3』より。著者と二人で沖縄に向かう前日、東京にて、29歳の福田さん曰く「自分の居場所がやっと見つかった気がする。どこにいて、どこで生きていけばいいのかがやっとわかってきた気がする」云々。

 

 まだ20代か。
 これからだよ。

 

 そんなお節介な感想はさておき、福田さんが沖縄や諏訪のような独特な土地に憧れるのはよくわかります。私が生まれ育った場所も中途半端なところだったからです。東京を離れ、教員生活のファースト・ステージに田舎教師を志したのも、そういった憧れゆえのこと。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 生まれ育った中途半端な土地から出て、別の土地で生活してみると、その中途半端に思えた「故郷」がだんだんと懐かしく思えるようになってくるから不思議です。可能であれば、いつかやってくる教員生活のファイナル・ステージには「故郷」を選びたい、そう思ったりもします。『深夜特急』にも《老いて旅するは賢明ではない》とありますから。とはいえ、まだまだ旅人気分。

 

 ワレ到着セズ。

 

 行ってきます。

 

 

深夜特急4 ーシルクロード〈旧版〉 (新潮文庫)

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