僕は医者なので、自然科学側の人間としていつも思うんですけど、一般的に自然科学のエキスパートは、あまり即答、断言はしないものなんです。「どうすればいいんですか」と聞かれて、「それはこうすればいいんんですよ」って即答できる人は、あまり自然科学者っぽくないんですよ。「この薬だったら大丈夫です」とか、「この治療法だったらいいです」というのではなくて、「この治療法がだいたいいけるんですけど、ときどき副作用も出るし」といったような感じなんです。そうすると口ごもってしまうし、ためらいも生じる。
(岩田健太郎、鷲田清一、内田樹、上杉隆、藏元一也『有事対応コミュニケーション力』技術評論社、2011)
こんばんは。中国は武漢発のコロナウイルスの感染拡大を受け、感染症医の岩田健太郎さんが八面六臂の活躍を見せています。Twitter でも YouTube でも大活躍。リツイートの勢いは日本で5位とのこと。10年近く前のことになりますが、鷲田清一さんや内田樹さんらとともに『有事対応コミュニケーション力』というタイトルの本を出しているだけのことはあります。
現状ズバリのタイトルの本なので、思わず本棚から取り出してパラパラと読み返してしまいました。『有事対応コミュニケーション力』に描かれている「有事」は東日本大震災ですが、現在の「有事(?)」である新型コロナウイルスの感染拡大についても、同著に書かれている知見は役立ちます。
例えば「有事」のときのリスクについて、岩田健太郎さんはそれが地震であれ津波であれ放射能であれ、そしておそらくはコロナウイルスのような感染症であれ、リスクを語るときに大切にしたいこととして、以下の2つをあげています。
1.問いの立て方
2.口調
問いの立て方を間違えたり、怒鳴ったりわめいたり、或いは魂のこもっていない口調で語ったりすると、そこに生産性のある対話は生まれないというのが理由です。
例えばマスクは必要か(?)という問いは文脈依存的に過ぎるし、マスクをつけろ(!)と怒鳴るのはちょっとあれです。怒鳴ったときに唾が飛ぶのを避けるためのマスクですか(?)みたいなことを言ってしまってケンカになるかもしれません。ちなみに教育現場におけるマスクといえば「給食」が思い出されるでしょうか。
給食のときに全員がマスクをつける学校。
給食当番だけがマスクをつける学校。
誰もマスクをつけない学校。
これまでに3つのパターンを経験しています。指導の面でラクなのは「誰もマスクをつけない」学校ですが、実際のところ、どのパターンが「理」にかなっているのか、よくわかりません。児童数や学校の落ち着き具合など、おそらくこれも文脈依存的なものなのでしょう。可能であれば、岩田健太郎さんに訊いてみたいものです。
話が逸れました。
問いの立て方と口調が大切であるという話は、『有事対応コミュニケーション力』だけでなく、岩田健太郎さんの他の著書にもたびたび登場します。どんな口調なのかといえば、聞いてください見てください。こんな口調です。
アップしました。ぜひご覧ください。 岩田塾 新型コロナ データーを読み解こう https://t.co/gVbSobsJ36 @YouTubeさんから
— 岩田健太郎 (@georgebest1969) February 4, 2020
YouTubeで情報発信したのはいいけど「次の動画」がヤバいやつばかりで泣きました。 新型コロナ 一般の方編 https://t.co/7Rw3MzRYfz @YouTubeさんから
— 岩田健太郎 (@georgebest1969) January 29, 2020
カッコいい。著書などを通して常日頃から「自然科学のエキスパートは、あまり即答、断言はしない。口ごもってしまうし、ためらいも生じる」と発信している岩田健太郎さんが言うのだから、説得力があります。高須クリニックの高須克弥さんが、コロナウイルスについて岩田健太郎さんの見解とは異なる主旨のツイートをしていますが、内容云々の前に、その口調にひいてしまいます。まぁ、キャラなのかもしれませんが。
きみは馬鹿じゃないか❗
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) February 5, 2020
子宮頸癌はコンドームを一瞬つければ防げるが新型コロナウイルスはマスクをつけっぱなしにしても感染する可能性があるんだよ。同時に何人にもうつせるのだ。
危険性は比べものにならん。 https://t.co/GlYbKmArGn
神戸大教授というのは岩田健太郎さんのこと。つまり「きみ」。前段の「子宮頸癌はコンドームを一瞬つければ防げる」という発言については、しばらくしてから訂正のツイートをしてました。防ぐのに有効性が認められます、とのこと。とはいえ、教師もそうですが、やはり口調って大切です。教室だろうとSNSだろうと「きみは馬鹿じゃないか!」はNGではないでしょうか。だから「ためらい」の岩田健太郎さんのフォロワーが現時点で2.3万人なのに対して、「思い切り」の高須克弥さんが59.8万人というところに日本の闇を感じます。医療と教育から「ためらい」を除いたら、医療倫理も教育倫理もめちゃくちゃになってしまいますから。
ためらいのリアル医療倫理。
縁は育むもの。今回のコロナウイルスの有事(?)ではじめて岩田健太郎さんのことを知った人には、『有事対応コミュニケーション』や『ためらいのリアル医療倫理』など、岩田健太郎さんの著書を一冊でも多く読んでみてほしいなと思います。医療だけでなく、教育や食、生き方など、勉強になる本ばかりです。こればかりは、ためらうことなく断言できます。
ぜひ。
※ この blog は2月5日のもの。翌朝の2月6日に岩田健太郎さんが次のようなツイートをしていました。なんとも思わないって、やはり、カッコいい。
昨日、ある方に「高須クリニック院長のHPVとコンドーム発言」をどう思うかと訊かれました。報道によるとご本人も間違いを認めて謝罪したそうなのでなんとも思わないと申し上げました。https://t.co/3RJocFBwOG
— 岩田健太郎 (@georgebest1969) February 5, 2020
以下の blog は以前に岩田健太郎さんにリツイートしていただいた記事です(感謝&感激)。参考にしていただけたら幸いです。