しかし、他国という鏡に映してこの国の「学校」を振り返ってみれば、そこには特殊で「異様」な面がたくさん含まれています。慣れ切ってあきらめてしまえば、そのツケやしわよせは、これからの新しい世代にいつまでも直接に降りかかり続け、それはひいては社会全体から活力を奪ってゆきます。国全体を覆う巨大なシステムである「学校」を変えることはとても難しいのは事実ですが、だからこそ、当事者である児童生徒や教員、保護者を含め、多くの人たちに、変えるべきことは変えてゆくという決意や行動が必要とされていると思います。
(本田由紀『「日本」ってどんな国?』ちくまプリマー新書、2021)
こんにちは。土曜日を休日として過ごすことのできるありがたさをこんなにも感じるのは、隔週でやってくる土曜授業(振替休日なし)のおかげです。ありがとう土曜授業。でも、
もう十分だから消滅してください。
そう願っているのですが、次年度もまた当たり前のように年度計画に組み込まれているのだから、萎えます。振替休日なしの土曜授業なんて実施している国は他にあるのでしょうか。
本田由紀さんの『「日本」ってどんな国?』を読みました。20年前にTBS系列で放送されていた討論バラエティ番組「ここがヘンだよ日本人」が日本に住む外国人のエピソードを根拠にしていたのに対して、本田さんの『「日本」ってどんな国?」は国際比較データをもとに日本社会の「ヘン」を明らかにしていきます。
目次は、以下。
はじめに
第1章 家族
第2章 ジェンダー
第3章 学校
第4章 友だち
第5章 経済・仕事
第6章 政治・社会運動
第7章 「日本」と「自分」
おわりに
授業で取り上げたくなるようなテーマがずらりと並んでいて、職業的な関心がいやが上にも高まります。早速、来週の道徳の授業で取り上げたい。クラスの子どもたち(小学6年生)が卒業する3月24日までに全テーマ取り上げたい。高学年の子どもたちには、エピソードではなく、データで「考え、議論する」道徳が必要だと思うからです。
低学年はエピソードで、高学年はエピソード+データで。
哲学者の苫野一徳さんが『ほんとうの道徳』に《実は原理的に言って、「道徳教育」は本来学校がやるべきことではないんです。代わりにやるべきは「市民教育」なんです。》と書いています。この考えに、
データは応えることできる。
例えば、第1章の「家族」には「在学者の生活時間の各国比較(総平均時間、週全体)」のデータが出ています。そのデータからわかることは、日本の子どもは、大人と同様にあまりにも忙しいということ。
日本の小中高生の生活時間の特徴は、「学業」の時間がきわめて長く、代わりに「自由時間」と「家事」の時間が少ないことにあります。
つまり、子どもの側も、学校や塾で忙しく、のんびりと家族と時間を過ごしたり、家庭生活を維持するための家事に参加したりする度合いが少ないのです。
エピソードと一緒にデータを提示して「家族愛、家庭生活の充実」という価値について考え、議論する。道徳の教科書に載っているお話(エピソード)を読めば、それらの価値の大切さはわかります。むしろ読まなくてもわかる。でも実際は、という展開です。振替休日なしの土曜授業が「家族をないがしろにするろくでもない政策」ということに気づく子もいるのではないでしょうか。リアルな社会と陸続きという意味で、
まさに市民教育(+道徳教育)。
追記。宮台真司さん曰く《家族をないがしろにするような政策をとるなというのが欧米の基本路線。だから欧米では家族や地域がしあわせになるかどうかで政策を決めている。》
— CountryTeacher (@HereticsStar) February 5, 2022
振休なしの土曜授業は「家族をないがしろにするような政策」ではないか(?)という視点の大切さ。https://t.co/Duv7YLLRsH
例えば、第2章の「ジェンダー」には、興味深いデータとして「家事分担比率と不公平感の分布図」が出ています。興味深いというのは、家事分担比率が女性に偏っているのにもかかわらず、当の女性が不公平感をあまりもっていないという結果が示されているからです。つまり、教員の「残業麻痺」や「定額働かせ放題」と同様に、おかしな「当たり前」が長く続いた結果、何が普通で何が「ヘン」なのかもわからなくなっているということです。
なぜ日本ではこのような、世界的に見ても異様なほどの、男女間の偏りが見られるのでしょうか。重要な要因として、「働き方」の問題があるのは確かです。会社が長時間労働や会社への献身を、働く人にいまなお要請しているということが、仕事以外の場で男性を「ケアレスマン」にしてしまっており、女性がその穴を埋めざるをえなくなっている、ということは、いくら強調してもしすぎることはない問題です。長時間労働の是正に関して、企業の責任は重い、ということです。
学校の責任も重い。
本田さんは「学校の中のジェンダー:隠れたカリキュラムの事例」もデータとして挙げています。道徳の授業で「公正、公平、社会正義」という価値について考え、議論するのであれば、やはりタテマエに終始してしまう可能性が高いエピソードよりも、リアルなデータを示すべきではないでしょうか。ちなみに反響の多かった以下のツイートも、結局のところは「働き方」の問題に帰着します。
これも市民教育(+道徳教育)。
勤務中だからすぐには迎えに行けないという保護者に対して、養護教諭が「お子さんが熱を出しているんです。状況からコロナの可能性が高いんです。そうするとお父さんも濃厚接触者の可能性が高いんです。だからそこで働いている場合ではないんです。すぐに来てください」と話していてなるほどと思った。
— CountryTeacher (@HereticsStar) February 3, 2022
長時間労働というボトルネックが「家族」や「ジェンダー」、「学校」等における日本の「ヘン」を大量に派生させている。冒頭の引用は、第3章の「学校」からとったものですが、当事者として、振替休日なしの土曜授業をはじめとする学校の「ヘン」をなくしていくにはどうすればいいのか。本田さんは、第7章の最後にこう書いています。
あきらめたらすべては終わりです。
御意。