田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

映画『Marry Me』(カット・コイロ監督作品)より。変わるためには、違うことをしなければいけない。

私自身はずっと変わらず同じ人間ですが、生きていくなかで色々なことをやってきて、それがだんだんと広がって大きくなっただけなのです。そこにいるのは、ひとりの人間だけです。
(劇場用パンフレット『Marry Me』東宝、2022)

 

 こんにちは。昨夜、かつての教え子宅に招かれ、昔話に花を咲かせました。元担任を自宅に呼んで歓迎してくれる教え子&保護者の存在は嬉しいものです。星空の下での屋上バーベキュー。私の「推し」も覚えていてくれて、BGMは最初から最後まで髭ダンでした。

 

 NO MUSIC,NO LIFE ♬

 

 音楽があれば、そこには人の息吹きがある。3月、4月と運気がだだ下がりで、雪崩のごとく押し寄せてくる「厄」にメンタルをかなりやられていたので、ちょっと救われました。映画『Marry Me』に続く「倖」だったように思います。

 

www.universalpictures.jp

 

劇場版パンフレット「Marry Me」より

 

 先日、映画『Marry Me』を観ました。制作のエレイン・ゴールドスミス=トーマスが、この映画のアイデアを聞いたときに《21世紀版の『ローマの休日』と『ノッティングヒルの恋人』になる》と予言したそうですが、いろいろな意味で大当たりです。観に行って、よかった。もう一度観に行きたいくらい、大当たりだった。内容はといえば、

 

 セレブと一般男性のラブストーリー。

 

 ウィリアム・ワイラー監督の『ローマの休日』は王女と新聞記者の恋愛を、ロジャー・ミッシェル監督の『ノッティングヒルの恋人』はハリウッド女優と冴えない書店主の恋愛を、そしてカット・コイロ監督の『Marry Me』は世界的ポップスターと平凡な数学教師の恋愛を描きます。世界的ポップスターを演じたのが、

 

 ジェニファー・ロペス、本人。

 

 この映画のためにつくったという、主題歌「Marry Me」がこれまた大当たりで、髭ダンの「ブラザーズ」に出会ったときと同じくらいの高揚感を覚えました。どちらも記念碑的にライブ映えする曲です。

 

www.youtube.com

 

 映画とライブの相性のよさは、近年でいえばマイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』や、フレディ・マーキュリーの『ボヘミアン・ラプソディ』が証明済みです。ジェニファー・ロペスのライブシーンが何度も登場する『Marry Me』にも、その相性のよさが全編にわたって詰め込まれています。

 

 格差恋愛のはじまりも、ライブシーンから。

 

 ジェニファー・ロペス演ずる世界的歌姫キャット・バルディスが、結婚式を兼ねたライブの直前、まさにステージに上がろうとするそのときに、婚約者でありこちらも世界的に有名なミュージシャンであるバスティアンの浮気を知ります。で、どうしたのか。キャットは観客の中からひとりの男性を指名して「Yes」と答えるんですよね。何に対する「Yes」なのかといえば、それは、男性が手にしていたボードに書かれた「MARRY ME」という呼びかけに対する「Yes」です。男性の名前はチャーリー。バツイチ子もちの平凡な数学教師です。

 この話を教育に置き換えると、内田樹さんが『複雑化の教育論』に書いている《「生きていてくれるだけでいい」というのは、僕の育児方針ですけれども、どうしてそれじゃいけないんですか。ある学期の成績なんかどうだっていいじゃないですか。生きていれば、そのうち「バイ・アクシデント」で「呼びかけ」を聴き取って、進むべき道を自分でみつけてくれるんですから》につながります。キャットは「バイ・アクシデント」で「呼びかけ」を聴き取って、進むべき道を自分で見つけたというわけです。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 見るまえに跳べ。

 

 大江健三郎に同タイトルの小説があります。キャットは跳んだんですよね。何のために(?)。当然、変わるためです。ダメンズばかり選んでしまい、離婚を繰り返していた自分の生き方を変えるために。観客の中から結婚相手を選ぶなんて、ちょっと跳びすぎですが、いずれにせよ、跳びます。跳んだ上で、そこから始まる格差恋愛をチャーリーと二人でかたちにしていきます。チャーリーが教員ということもあって、そのプロセスがまたおもしろいというかあたたかいというかこんな経験をしてみたいというか、好き。

 

 変わるためには、違うことをしなければいけない。

 

 うろ覚えで正確ではないかもしれませんが、映画の終盤に、キャットがチャーリーにそう呼びかけるシーンがあります。映画『山猫』(ルキノ・ヴィスコンティ監督作品)に登場する「永遠に変わらないためには、変わり続けなければならない」を彷彿とさせる台詞です。つまり、永遠に変わらないためには変わり続けなければいけないし、変わるためには違うことをしなければいけないし、違うことをするためには見るまえに跳ばなければいけないということです。チャーリーも、キャットが最初にそうしたように、跳びます。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 40代になってから2回転職したという話を星空の下で聞きました。跳んだことのある保護者が魅力的に映るのは、冒頭の引用(ジェニファー・ロペスの言葉)にあるように、生きていくなかで色々なことをやってきて、それがだんだんと広がって大きくなったからでしょう。色々なこと=違うことです。

 

 変わるためには、違うことをしなければいけない。

 

 さて、どうするか。