田舎教師ときどき都会教師

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映画『プリズン・サークル』(坂上香 監督作品)より。他者の本音に耳を傾けることからしか出発できない。

(中略)たしかに言論を超えた真理も存在しよう。そしてそれらの真理は、単数者として存在する人、いいかえると、他の点はともかく少なくとも政治的存在ではない人にとっては、大いに重要であろう。しかし、この世界に住み、活動する多数者としての人間が、経験を有意味なものにすることができるのは、ただ彼らが相互に語り合い、相互に意味づけているからにほかならないのである。
(ハンナ・アレント『人間の条件』ちくま学芸文庫、1994)

 

 おはようございます。昨日は日直でした。自治体や学校によって違うかもしれませんが、私のところでは夏休みや冬休みと同じように、臨時休校中は職員室に日直を置くことになっています。日直のつらいところは、電話番としてずっと職員室で過ごさなければいけないことですよね。だから校庭の桜がおいでおいでと誘ってきても、教室で仕事がしたくなってきても、堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び続けなければいけません。いうなれば、

 

 東京プリズン。

 

 ではなく、日直プリズン。

 

 そう表現したくなるのは、一昨日の夜に観たドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』(坂上香 監督作品)があまりにもよかったからです。大当たりです。おいでおいでです。デッドマン・ウォーキング以来の衝撃です。危うく全米よりも先に泣いてしまうところでした。いやぁ、危なかった。

 

prison-circle.com

 

 坂上香さんの『プリズン・サークル』は、島根あさひ社会復帰促進センターと呼ばれる、官民協働の新しい男子刑務所を舞台にしたドキュメンタリー映画です。詐欺や窃盗、住居侵入、傷害致死などの罪を犯した4人の受刑者(拓也、真人、翔、健太郎)を中心に、それぞれの過去や現在、未来をつなぎ合わせるように、受刑者の間で言葉が交わされます。

 

 言葉を交わす?

 

 そうなんです。この刑務所のユニークなところは、受刑者同士の対話を重視しているところにあるんです。対話ベースのこのプログラムは「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」と呼ばれていて、米国やヨーロッパですでにその効果が確認されています。効果というのは、刑務所への再入所率が低いということ。学校現場の言葉でいえば行動変容に成功しているということです。ちなみに日本でこのプログラムを採用しているのは、この島根あさひ社会復帰促進センターだけだそうです。その特別な刑務所に「取材許可まで6年、撮影2年」もかけてつくられたのが、坂上香さんの『プリズン・サークル』です。対話です、サークルです、行動変容です、そして8年です、これはもう観ないわけにはいきません。

 

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『プリズン・サークル』劇場用プログラム

 

 劇場用プログラムの表紙(上記)にサークルで対話するときのレイアウトが載っています。椅子だけですが、何となくイメージできるのではないでしょうか。この大きなサークルに加えて、4人で小さなサークルをつくって対話するシーンもたくさん出てきます。グループサイズを変えることによってコミュニケーションの量をコントロールするんですよね。

 TCで話し合われていることは「虐待のこと」や「いじめのこと」、「犯してしまった罪のこと」、それから「退所後のこと」など、要するに刑務所らしい内容です。学校らしい内容ではありません。しかし手法については、主体的・対話的で深い学びを標榜する学校の授業とあまり変わりません。最近、増えていますよね、サークルをつくって話し合ったり、4人グループで語り合ったりする教室。てつがく対話然り、クラス会議然り、サークル対話然りです。

 

 では、なぜ増えているのでしょうか。

 

 冒頭のハンナ・アレントの言葉が参考になります。経験を有意味にする回路がないのはヤバイということに、相互に語り合ったり相互に意味づけたりする機会がないのは「人間の条件」としてヤバイということに、教育界隈の人たちが気づきはじめたからです。そしてそれを教えてくれたのは、この映画に登場するようなぎりぎりの世界で生きてきた受刑者たちであり、教室でいえばこれまでの「先生が話し、子どもが聞く」みたいな授業では手の届かなかったところに沈んでいた子どもたちです。

 

 話を聞いてもらえる。
 本音で話せる。

 

 こういった教育の場を、家庭でも、そしておそらく学校でも、受刑者は過去にもち得ていません。虐待されたり、いじめられたり、施設に預けられたり。想像していたことですが、受刑者の過去のエピソードがかなりキツイ。話を聞いてもらえるとか、本音で話せるとか、そういった子ども時代を過ごしている受刑者は一人もいません。家族の記憶と向き合うことすらできないという受刑者もいます。過去と向き合ってそれを言葉にしなければ、人は変われない。それは赤坂真理さんの『東京プリズン』でも謳われていた主題です。

 

 誰もがもと被害者であるということ。

 

 そのもと被害者である加害者たちがTCで対話している様子を観ていると、いたって普通なんですよね。普通どころか、それこそ主体的・対話的で深い学びをしている。研究授業として観れば、もう拍手喝采です。受刑者の一人「拓也」なんて、私のクラスにほしいくらいです。

 真剣に聞いてくれる人がいるから、真剣に話す。真剣に話すから、周りも真剣に聞いてくれる。対話を通した人間性の回復。心理や福祉などの専門性をもつ「支援員」さんたちのサポートを受けて、そんなことが自然にできている。では、どうすればそんな場がつくれるのか。いたってシンプルです。

 

 出発点は「きく」ことから。

 

(中略)他者の本音に耳を傾けることで、言葉を、感情を、人生を取り戻していく。彼らも、私たちも、そこからしか出発できない。犯罪をめぐる、四半世紀あまりの取材を通して実感してきたことです。彼らの言葉に、じっと耳を傾けてください。今まで見えなかった何かが、見えてくるはずです。

 

 劇場用プログラムに書かれていた、坂上香さんのメッセージです。四半世紀あまりの取材というところに重みを感じます。他者の本音に耳を傾けるということ。一人の人間として尊重すること。

 

日本では、40000人の受刑者に40人程度しかTCを受けられないので、今後、こういったアプローチを中心に推し進めていくのか、それとも例外的なプログラムのままにするのか。

 

 教育に、もっと予算を。
 教育に、もっと時間を。

 

 映画『プリズン・サークル』。もと文部科学省の寺脇研さんと前川喜平さんが企画を務めた映画『子どもたちをよろしく』(隅田靖 監督作品)と合わせて、この春休みに、ぜひ。

  

 

 

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