田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、旅行、映画」

映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』(エメラルド・フェネル監督作品)より。プロミシング・ヤング・ティーチャーは観た方がいい。

 フェネルは言う。「復讐スリラーやロマンティックコメディの主人公は ―― この映画はほぼ間違いなくロマンティックコメディでもあるので――お決まりの人物像になりがちです。そこで、キャシーを私の知っている身近な人物に近づけようと思いました。クールで、ガードが固く、でも、ものすごくおかしくて、皮肉屋で自己中心的だけど、魅力がある。多くの女性がそうであるように、必要なときに普通っぽさやかわいらしさを演出する方法を知っている・・・・・・ある種の食虫植物のような感じを狙いました」 
(劇場用パンフレット『プロミシング・ヤング・ウーマン』東宝ステラ、2021)

 

 こんばんは。今日は午前中から今に至るまで近々廃止されると噂されている教員免許更新講習を受けていました。オンライン(動画配信)です。

 

 

 ドイツの小学校では移民の子がいるクラスの定数を少なくして担任の目が行き届くようにしているとか、三浦綾子さんの『銃口』を読むと戦時中の教師の葛藤がよくわかるとか、メモをとるに値する情報を得ることもできましたが、全体としては、真面目な内容をお決まりの講義形式で一方的に説明されると「つらい」ということを改めて教えてもらった数時間だったように思います。やはり、シリアスな内容を一方的に伝えるのであれば、そして考えるきっかけとなる「もやもや」をお持ち帰りしてもらおうと意図するのであれば、演出が必要です。

 

 例えば、これ。

 

「見ろよ  あの酔った女」
「まるで誘ってるみたいだ」

 

 キャシーは夜ごと、バーで酔った振りをして、お持ち帰り男に裁きを下す。

 

pyw-movie.com

 

 いやらしい予告が報じられると、人はいやらしく知りたくなる。映画館で予告を観たときから「うまいなぁ」&「観たいなぁ」と思っていた映画を観ました。米・アカデミー賞、英・アカデミー賞、それから全米脚本家組合賞でも「脚本賞」を受賞している、エメラルド・フェネル監督の『プロミシング・ヤング・ウーマン』です。学級づくりや授業づくりにも「脚本」(に類するもの)は欠かせません。だから映画は、特に脚本に優れた映画は、へたな講習を受けるよりよほど勉強になります。プロミシング・ヤング・ティーチャーは、すなわち「前途有望な若い教員」は、映画を観た方がいい。

 

 書を捨てよ、映画を観よう。

 

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劇場用パンフレット『プロミシング・ヤング・ウーマン』より

 

 なぜキャシーは、酔った振りまでしてお持ち帰り男に裁きを下しているのか。なぜキャシーは、前途有望な医学生だったのにコーヒーショップでアルバイトをしているのか。クールで、ガードが固く、でも、ものすごくおかしくて、皮肉屋で自己中心的だけど、魅力的なキャシーが、なぜ深刻なメンタルヘルスの問題を抱えているのか。

 

 映画の元ネタになった事件があります。

 

 2015年にアメリカの名門スタンフォード大学で起きた事件です。以下にHUFFPOSTの記事(https://www.huffingtonpost.jp/2016/06/08/brock-turner_n_10349650.html)の一部を引きます。

 

 アメリカの名門スタンフォード大学の水泳チームに所属し、在学当時酒に酔って意識を失っていた女性を性的暴行した罪などで有罪判決を受けたブロック・ターナー被告(20)の量刑を決める裁判で、被告に「深刻な影響を与える」という理由で禁錮6カ月の軽い判決を言い渡された。判決を下した判事や、「刑務所に送られるほどの罪は犯していない」と法廷で証言した被告の父親に非難が相次いでいる。

 

 もしも意識を失っていた女性が、精神を病んで命を落としてしまったとしたら。もしもその女性に、食虫植物のような親友がいたとしたら。もしも加害者の男性が「前途有望な青年(プロミシング・ヤング・マン)」として無罪放免された挙句、誰もが羨むような輝かしい人生を送っているとしたら。

 被害者の女性だって、親友のキャシーだって、加害者の男性と同様に前途有望だったのに。

 

 この性差はいったい?

 

 同じような事件がたくさん繰り返されていますが、おかしくないですか(?)と。エメラルド・フェネル監督は、実際の事件にいくつかの「もしも」を付け加えるかたちで復讐スリラーを企てます。ただしシリアスな内容を一方的に伝えても、考えるきっかけとなる「もやもや」を持ち帰ってもらうことができないので、そこにラブコメの要素やらポップな音楽やらあっと驚く展開やらを加えて「傍観者として映画を楽しむことができるように」演出します。そしてその「観客 ≒ 傍観者」という演出自体がメッセージになっているという、観れば一目瞭然の、さすがのアカデミー「脚本賞」なんです。姫野カオルコさんもびっくり。

  

www.countryteacher.tokyo

 

 アメリカでも日本でも、同じような事件があって、同じように女性の表現者が立ち上がって、同じようにわたしたちに「銃口」を向けて思考することを促しています。ボーっと生きてんじゃねーよ(!)ってやつです。

 

 やはり教員免許更新講習よりも勉強になるなぁ。

 

 プロミシング・ヤング・ティーチャーが、増えすぎたから捨てようかなって思うくらいたくさん本を読むことができますように。映画もたくさん観て、本や映画で学んだことを人権教育につなげることができますように。さらに、教員免許更新制度を廃止する代わりにオンラインでの研修を増やしましょう(!)などと愚かなことを言い出す人がいませんように。

 

 教員免許更新講習の復習をします。 

 

 明日、テストです(泣)。