私たち一人ひとりを取り巻く無限ともいうべき情報から、自らの志向性と波長の合う信号をキャッチするためには、心の中に「パーソナル・カミオカンデ」を用意し、微弱な信号でも捕まえてやろうと待ち構えていなければならない。私の場合はそれが、若い頃からの読書の唯一の意味だったと思う。
(梅田望夫『ウェブ時代をゆく ー いかに働き、いかに学ぶか』ちくま新書、2007)
こんにちは。以前、都会にある小学校で6年生の担任をしていたときに、ブックトークの学習で星野道夫さんの『旅をする木』を紹介したところ、翌朝、クラスの子の何人かが、星野さんの別の本を手に「先生!これ!」と登校してきて、「素直な6年生だなぁ。旅に出たらさらに成長するだろうなぁ」と思ったことがあります。
可愛い子には旅をさせよ。
昨日のブログに「可愛い子には旅をさせよ」と書きました。可愛い子( ≒ 素直な子)には、やはりいろいろなことを伝えたくなります。伝えれば伝えるほど、伝えられたことを起点にどんどん学んでいくからです。
学生時代に学習塾で教えていたときにも「素直な子は教え甲斐がある」と思いました。学力の高いクラスの生徒(中高生)は、例えば「これ読んでみるといいよ」と本を勧めると、翌週には必ずといっていいほどその本を読んでいたり、持っていたりしたからです。社会学者の上野千鶴子さんが『サヨナラ、学校化社会』に《東大生に接して何より驚いたのは、彼らが全然ひねくれていないということ。素直、おそろしく素直です》と書いていますが、完全に同意で、ホント「おそろしく」そうだよなぁ、と思います。
可愛い子には旅をさせよ。
可愛い子には本を与えよ。
知識がないことと興味がないことはしばしば同義です。カミオカンデという言葉の存在すら知らなければ、カミオカンデに興味がわくことはありません。シェイクスピアを引用すれば、《Nothing will come of nothing!》(無から生じるものは無だけだ!)です。だから「無を有にする」という意味で、若い頃からの読書が子どもの未来に与える影響は、大人が想像している以上にでっかい。
例えば星野道夫さんの本を芋づる式に読んでいけば、もしかしたらアラスカに行きたい、とか、写真家になりたい、とか、そういった夢を語り出すかもしれません。
星野さんは、10代のときに神田の古本屋でたまたま手にした一冊のアラスカの写真集がきっかけとなって、後に渡米し、そこで暮らすことになります。学校へ行くときも、どこへ出かけるときも、いつもカバンの中に入っていたという写真集。《手垢にまみれるほど本を読むとはああいうことをいうのだろう》。星野さんはそのときの読書体験を、著書『旅をする木』の中で、そのように表現しています。
手垢にまみれるほど本を読み、人生を変えてしまうような誤配に邂逅する体験。そういった体験を未来に準備するためにも、子どもたちには水を飲むのと同じくらいの感覚で、本を読むようになってほしいものです。
そうそう、読解力もつきます。
読書習慣と読解力には相関がない、という主張も聞きます(新井紀子さんの『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』など)が、カミオカンデってどうやらすごらしい、とか、アラスカってこんなところらしい、とか、本を読むことによって新しい知識が得られるのは間違いありません。そしてそれは背景知識となって、読み手の理解を助けます。庭園に例えれば、借景という高度な技術がいかんなく発揮されている銀閣寺の美しさみたいなもの。
借景があることで、美しさを増す銀閣寺。背景知識があることで、確かさを増す読解力と同じです。
立冬は過ぎましたが、
教科書の読めない全ての可愛い子どもたちに!
若い頃からの読書の意味を伝える、読書の秋!

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