田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

水野敬也 著『夢をかなえるゾウ1』より。「偉人のエピソード」と「ガネーシャの課題」のハッピーセット。小学生の子どもたちにも、ぜひ。

「これからはな、毎日寝る前に、自分がその日頑張れたことを思い出して『ようやったわ』てホメや。一日のうち、絶対一つは頑張れてることあるから、それを見つけてホメるんや。一日の最後はな、頑張れんかったこと思い出して自分を責めるんやなくて、自分をホメて終わるんやで。そうやってな、頑張ったり成長したりすることが『楽しい』ことなんや、て自分に教えたるんや」
(水野敬也『夢をかなえるゾウ1』文響社、2020)

 

 こんにちは。先週、給食の片付けのときに「先生、これ残してもいいですか?」と小声で訊ねてきた子がいました。ごちそうさまも終わっていたので、ごく普通に「いいよ」と答えたところ、その子が席に戻り際、隣の子に、

 

 超やさしい!

 

 嬉しそうにそう話しかけているではありませんか。本年度は4年生。食わず嫌いはダメですが、「超」という強調表現にちょっと思うところがありました。1~3年生までは「超」スパルタだったのでしょうか。ゾウの神様 “ガネーシャ” の「お前なぁ、このままやと2000%成功でけへんで」という声が聞こえてきます。超スパルタでは、2000%子どもの自主性は育ちません。

 

 

 水野敬也さんの『夢をかなえるゾウ1』を読みました。シリーズ累計420万部。売れているからこそ読まないという読まず嫌いでスルーしてきたこと、反省しきりです。4月の忙しさで疲れきっていましたが、村上春樹もびっくりするくらいの読みやすさで、あっという間に最後までページをめくることができました。さすがは《日本一読まれている自己啓発小説》です。4年生の子どもたちに伝えたい「課題」もいっぱい。

 

 ガネーシャの課題。

 

 夢をなくした会社員の「僕」のもとに、ゾウの姿をしたガネーシャという神様が現れ、平凡な「僕」を成功に導いていくというのがあらすじです。成功への階段をのぼっていくにあたって、次々と提示されるのが「ガネーシャの課題」。読者である私たちも課題を実行に移すことで、夢を取り戻すことができるかもしれません。

 

 例えば、

 

 ・靴をみがく
 ・人が欲しがっているものを先取りする
 ・会った人を笑わせる
 ・トイレを掃除する
 ・その日頑張れた自分をホメる
 ・一日何かをやめてみる
 ・決めたことを続けるための環境を作る
 ・自分が一番得意なことを人に聞く
 ・自分の苦手なことを人に聞く
 ・夢を楽しく想像する
 ・運が良いと口に出して言う
 ・明日の準備をする
 ・身近にいる一番大事な人を喜ばせる
 ・誰か一人のいいところを見つけてホメる
 ・人の長所を盗む
 ・プレゼントをして驚かせる
 ・やらずに後悔していることを今日から始める
 ・人の成功をサポートする
 ・応募する
 ・毎日、感謝する

 小学4年生にも伝えたい「ガネーシャの課題」をピックアップしてみました。漢字とか計算とか、そういった宿題よりよほどいい。上から5番目にある「その日頑張れた自分をホメる」は、冒頭の引用につながる課題です。この課題の価値を「僕」に説明するにあたって、ガネーシャはこう切り出します。

自分、手塚治虫くん知ってるやろ

 

 ガネーシャは、漫画家の故・手塚治虫が《頑張ったり成長したりすることが『楽しい』ことなんや》と思っていたことを「僕」に伝えることによって「その日頑張れた自分をホメる」という課題にリアリティをもたせます。

 

 伝記+自己啓発。

 

 偉人のエピソードと課題をセットにして提示することで「僕」のやる気を引き出すというわけです。他の課題も全てそう。パラフレーズすれば、動機付け。ある程度の経験年数がある担任にはピンとくる話なのではないでしょうか。

 

 どうしてこんなに書けるんですか?

 

 先日、子どもたちの書いた振り返りの短作文を同じ学年の先生(若手)に見せたところ、そう聞かれました。ただ「書きましょう」というだけでは、子どもたちは「ちゃんと」書いたりしません。ガネーシャが「僕」にそうしたような、価値付けが必要になります。

 例えば、子どもたちに『夢をかなえるゾウ』の話をしてから、ガネーシャ風に「これからはな、毎日帰る前に、自分がその日頑張れたことや友達のよさ、授業で学んだことを思い出して『今日も楽しかった』てホメや。一日のうち、絶対一つはプラスに思えることあるから、それを見つけてホメるんや。一日の最後はな、マイナスのこと思い出して自分を責めるんやなくて、自分をホメて終わるんやで。そうやってな、頑張ったり成長したりすることが『楽しい』ことなんや、て自分に教えたるんや」なんて話せば、子どもたちは「僕」と同じように「ちゃんと」課題に取り組むようになります。他の課題、例えば、

 

「人の成功をサポートする」もそう。

 

「ライト兄弟はな、飛行機の発明で特許取った後『飛行機を発明したのは自分らや』言うて、他に飛行機作ろうとしたやつらをどんどん訴えたんや。~中略~。それと対照的だったのが、グレン・カーチスくんという子なんやけど。彼も飛行機作りには興味あったんやけど、どちらかというと、気のええやつで『頼まれたら引き受ける』タイプでな。そもそも飛行機もグラハム・ベルくんから頼まれて作りはじめたんや。あ、グラハム・ベルくんいうのは電話機作ったやつな。リンリン鳴る、あのベルの名前の由来や」

 

 成功としあわせを手に入れたのはもちろんグレン・カーチスくんです。こういった話をしてから、人の成功をサポートする(友達を助ける)ことのよさを説く。ちょっと、道徳の授業っぽいかもしれません。ちなみにゾウの神様ことガネーシャは、上記の台詞からも何となく想像できるように、モーツァルトやピカソやナポレオン、最近でいうとビル・ゲイツの成功も助けたという設定になっています。そういった設定を含め、何もかもがおもしろすぎて、続編の『夢をかなえるゾウ2』も読んでしまいました。

 

 読んだら、実行にうつすのみ。 

 

 夢をかなえるぞう。