単純なことだが、私は今でも、バスや列車、そしてローカル線の飛行機などで隣の席に座っている人に必ず話しかけるようにしている。航空機などの座席で誰と隣り合うかは自分で決められない。言い換えれば、自分の人脈を越えた未知の人がそこにいるのである。話しかけない手はない。
(大前研一『旅の極意、人生の極意』講談社、2006)
おはようございます。連日、猛暑が続きますね。今から一ヶ月ほど前に、成田山新勝寺の近くで個展を開いていた旅仲間のTさんに会ってきました。SNS経由で「ジョージアはトビリシの友人のところに居候中です」という連絡をもらって、相変わらずだなぁと思ったのが1年前。前回の個展は3年前だったので、久し振りの再会です。
話しかけない手はない。
インドのカルカッタで画家のTさんと知り合ったのは20年前。当時、私はマザー・テレサの施設でボランティア活動をしていました。そのときに常宿にしていたのが、サダルストリートと呼ばれる安宿街にあるゲストハウスのドミトリーです。1泊300円くらいだったでしょうか。8つの2段ベッドが置かれている16人部屋で、Tさんもそこに泊まっていました。
話しかけてくれたのはTさんです。
Tさん「飯、もう食べた?」
わたし「あっ、まだです!」
夕飯を一緒に食べた後に、ゲストハウスの吹きさらしの屋上でおもしろい話をたっぷりと聞かせてもらいました。旅行の話、人生の話、結婚の話、仕事の話、子供の話、そして未来の話。その後、ほろ酔い加減で就寝。翌朝、Tさんは「帰国は半年後くらいかな。個展には女の子を誘って来るように。会場が華やぐから」と言って、2段ベッドの上から旅立っていきました。若い頃は北欧で皿洗いをしたり、パリのモンマルトルで似顔絵を描いたりして日銭を稼いでいたというTさん。人生の節目を迎えるたびに、そして今なお、外国を転々としながら絵を描き続けているTさん。就職祝いにガンジス川の絵を贈ってくれたり、世田谷のアトリエ兼ゲストハウスに招待してくれたり。あれから20年。
わたしはパパに。
Tさんはジジに。
今回、個展の会場に着くなり、Tさんに「〇〇〇〇くん、オレ80になっちゃったよ」と笑顔で言われました。年齢のことは知らなかったので、本当にびっくりしました。それと同時に、何だか胸がいっぱいに。おそらくそれはTさんの笑顔があの頃とほとんど変わらなかったからでしょう。聞けば、個展を開く直前まで鰻屋でアルバイトをしていたとのこと。80歳になっても、旅人のように生きるTさん。20年前からずっと、Tさんは「旅の極意、人生の極意」を私に伝授するかのように「自分らしく生きる」姿を見せ続けてくれています。
自分らしく生きる。
不審者云々の問題があって、(特に都会の)子どもたちにはなかなか伝えにくいことですが、たった一度の人生、ほんと、話しかけない手はありません。自分の未来によい影響を与えてくれるような「未知の人」に出会えるかもしれないからです。結局、人。やっぱり、生き方です。
旅の極意、人生の極意。
話しかけない手はない。