「私はA社の社員で、鋳造工をしています」という日本の自己紹介と、「私は鋳造工で、いまはA社に勤務しています」というイギリスの自己紹介の違いは、社会の「しくみ」の違いを反映しているのだ。
(小熊英二『日本社会のしくみ』講談社現代新書、2019)
おはようございます。昨夜、学生時代の友人Nと久し振りに会って、一杯飲んできました。NはIT関係のエンジニアで、いまは外資系の企業で働いています。
N曰く「ジョブ型だからさ、どんどん辞めていくんだよね」
(お~、何てタイムリーな発言なんだ、N。さっきまで読んでいた小熊英二さんの本に書いてあったよ、それ。)
日本の雇用形態を「メンバーシップ型」、欧米その他の雇用形態を「ジョブ型」と名づけたのは、労働研究者の濱口桂一郎さんです。メンバーシップ型の特徴は、社内での「タテの移動」(昇進や栄転)よりも、他の企業に移る「ヨコの移動」の方が難しいというところにあり、ジョブ型の特徴は「ヨコの移動」よりも「タテの移動」の方が難しいというところにあります。
- 私は〇〇県の教員で、小学校の学級担任をしています。
- 私は小学校の学級担任で、今は〇〇県で働いています。
1はメンバーシップ型(日本)、2はジョブ型(欧米その他)です。2の自己紹介を聞いていると、「じゃあ、次はどこで働くの?」と訊ねたくなります。
「次は△△県かな」みたいな。
「えっ、何で?」
「だって△△県の方が働きやすそうだから」
残念なことに、現状、このようなジョブ型の自己紹介をする先生はほとんどいません。小学校の働き方改革が進まない、構造的な理由のひとつがここにあります。
田舎教師ときどき都会教師。
そういったタイプの教員が増え、ジョブ型による「ヨコの移動」が増えれば、ブラックな自治体は敬遠され、働き方改革を進めざるを得なくなります。しかし、メンバーシップ型の「タテの移動」が主流であり続ければ、堪え忍ぶことが合理的な振る舞いとされ、働き方改革は進まず、ブラックさがそのまま残ることになります。
ちなみにNの会社はブラックではありません。どんどん辞めるのは、スキルアップのためだそうです。N曰く「ジョブ型の会社は、ホワイトが前提。過労死レベルで働くなんてありえない」とのこと。
「メンバーシップ型だからさ、ぎりぎりまでがんばって、体を壊したり、心を病んだりした人から、じわじわ辞めていくんだよね、学校は」
さぁ、どうするか。