著者というものは、分厚い著書をたったの一文で要約するように、ジャーナリストから求められる。本書についていえば、つぎのような要約となる――「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人々の生物学的な差異によるものではない」
(ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄(上)』倉骨彰 訳、草思社文庫、2012)
こんばんは。引用したジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』は、現在の世界に広がる「地域格差」の原因を1万3000年前のスタートライン(地域格差のなかった頃)にまで遡って丹念に紐解いた約800頁の大著です。2チャンネルで知られるひろゆきさんこと西村博之さんイチオシの名著でもあります。
なぜアフリカは貧しいのか?
南北方向に伸びているアフリカ大陸やアメリカ大陸よりも、東西方向に伸びているユーラシア大陸の方が、緯度(≒気候)を同じくする場所が多いため、農作物や食糧生産技術の伝搬速度が速かった。食糧を生産する地域の拡大は、銃器や鉄を製造する技術や各種疫病への免疫の広まりにも影響を及ぼし、ユーラシア大陸有利の状況が年々決定的になっていった。だから現代の世界はユーラシア大陸系の民族や北アメリカ大陸への移民の子孫たちによって牛耳られている。
先んずれば人を制す。
だから初等教育って大事です、という話はさておき、以上が、なぜアフリカは貧しいのか?(なぜ地域格差が生じているのか?)という問いに対するジャレド・ダイアモンドの答え、ただしかなりザックリとした要約です。ユニセフ募金の活動のときなどにもう少しかみ砕いて子どもたちに話すと、10人にひとりくらいは興味をもちます。先生が小学生だったときからずっとアフリカにお金を送っているのに、まだこの活動が続いているのはなぜだろう、云々。
えっ、何の話かって?
ここまでは、地理的な要因が現在のアフリカの貧しさを生んだという話です。 ここからは、地理的な要因が現在の都会教師の忙しさを生んでいるという話です。
あっ、結論を言ってしまいました。
都会の小学校(自治体や校内でのポジションによって異なりますが)って、出張や研修のために平日の放課後を使えなくなることがホントに多いんです。私が勤務したことのある2つの都会のうちのひとつは本当にひどくて、共働きの子育て世代はゲームオーバー。
その日の授業の振り返りよりも、出張。
次の日の授業の準備よりも、出張。
構造的に残業を強いる、出張。
おかしい。しかも出張や研修の内容がワクワクするものではないため、出張先でウトウトし、そしてまた学校に戻って残業する、みたいな先生がいっぱいいます。最前列に座っていた先生のいびきがあまりにもうるさくて、登壇者の話が遮られるなんてこともありました。ちなみに、ベネッセ総合研究所の調査(平成16年)によれば、小学校教員の平均睡眠時間は5時間47分で、日本人有職者のそれよりも1時間以上短いことがわかっています。
小学校教員の平日の平均睡眠時間 5時間53分(平成7年)
小学校教員の平日の平均睡眠時間 5時間51分(平成10年)
小学校教員の平日の平均睡眠時間 5時間47分(平成16年)
もっとちゃんと寝ようよ。
田舎教師の状況は異なります。平日の放課後に出張や研修が入ることはほとんどありません。なぜなら、公共の交通機関が未発達だから。そう、地理的な要因です。 都会のように簡単に集まったりはできないんですよね、田舎は。学校と学校が離れているし、山手線も環状線もないし、そもそも近くに駅がないし。全員が車で出張となると、受け入れ先も大変だし、子どもを下校させて慌てて車に乗ったりしたら、事故を起こすかもしれないし。
そんなわけで、田舎の出張や研修は、基本的に子どもたちが夏休み中の7月下旬や8月上旬、或いは8月下旬に行われることになります。ただしそれほど数が多いわけではありません。適度な回数です。逆に都会は、自治体にお金があるためか、夏も出張や研修がやたらと多い・・・・・・。
以下、参考までに、たまたま田舎でも都会でも研修のタイトルが同じだった、それぞれ大昔の「洋上研修」の様子です。
僻地研究会という、都会には絶対にないであろう研究会に入っていたときの研修先(海の上)での様子です。メンバーは5人。私以外は全員校長でした。漁師さんにご馳走になったとれたてのホヤ、美味しかったなぁ。
さすが都会だぁ、と思える研修(夏)でした。ダイヤモンド・プリンセスにて。ウトウトではなく、ワクワクする研修。都会でも、夏に行われる研修は、受講者であるわれわれにゆとりがあって、愉しく学べます。豪華客船の見学がどんな学びにつながるのかは、よくわかりませんが。
さぁ、今日はプログラミング研修だ!