田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

外山滋比古 著『少年記』より。クリエイティブとは、勇気のこと。アン王女には勇気があった。

 あるとき、人にだまされるのは、だまされる側がだまされやすいからで、それをさけるには、幼いときに、だまされて口惜しい思いをするのがいちばんである。危険をさけるには、危険を経験するよりほかに手はない。こどもには適度の危険教育は必要ではないのか、と考えた。そして五銭のレントゲンのことを思い出した。

(外山滋比古『少年記』中公文庫、2011)

 
 こんばんは。今日は『思考の整理学』で知られる、外山滋比古さんの『少年記』より。外山さんの少年時代のエピソードをまとめたエッセイ集です。

 冒頭に引用したのは「五銭のレントゲン」というタイトルの作品で、少年の頃、お祭りの出店で買ったレントゲンが「まがいもの」だったことがあり、「子ども心にあの出店のじいさんが許せないと思った。でも~」という話です。でも、そのおかげで、オレオレ詐欺にはひっかからないようなタフで優しい老人になることができた、云々。タフでなければ生きていけないし、優しくなければ生きている資格がありませんからね、世の中は。

 

 若いときの「適度な危険」は買ってでも経験せよ。

 

f:id:CountryTeacher:20190822161131j:plain

若いときに、ゴアのビーチにて

 

 若いときに、インドにて。ボンベイから夜行バスに乗ってひとりでゴアに向かっていたときのことです。バスの中には大勢のインド人と私(♂)。それから日本人(♀)がもう一人。前後の文脈は忘れましたが、途中、そのもう一人の日本人の女性に「えっ? 何しに行くの?」と言われ、ちょっとというかかなり引かれる、ということがありました。「ドラッグが目的でもないのに、わざわざ何しにゴアまで行くの?  いったい何なのキミは?  えっ、もしかしたら真面目くん?」といった感じです。後で知ったことですが、当時、ゴアのビーチの一部は「そういうところ」だったらしく、世界各国の「そういう」若者たちであふれていたとのこと。そういうところというのは、要するにドラッグです。ヒッピー風の、いかにもという外見ではなく、どちらかというと図書館にでもいそうなタイプのきれいなお姉さんだったので、逆にこちらが引いてしまいました。

 

 お姉様「一緒に行かない?」
 わたし「いえ、結構です。」

 

 真面目で何が悪い、ではなく、正義感が強かったわけでもなく、ただ単に勇気がなかっただけです。せっかく「きれいなお姉さん」に誘ってもらったのに。もしもあのとき一緒に行っていたら、逡巡しつつも首を縦に振っていたら、かつて「東洋のローマ」と呼ばれたゴアで、「ローマの休日」に匹敵するようなアバンチュールを体験できていたかもしれません。まぁ、後の祭りですが。

 外山さんが『少年記』の「同じ釜の飯」というエッセイの中に《同窓の友人への思いは、あとから思い入れによって育てられるものであるように思われる》と書いています。まさにその通りで、バスの同窓(?)であるきれいなお姉さんとの記憶は都合よく書き換えられ、わたしの頭の中ではもうすっかりアン王女(オードリー・ヘップバーン)になっています。

 

 いや、でもドラッグはダメだろ。

 

 絶対、ダメ。

 

 しかしです。ドラッグの話はさておき、わたしも含め、小学校や中学校の先生たちの働き方や生き方につなげると、こんなふうに思います。小中学校の働き方改革だけでなく、世の中の多くの改革がなかなか進まないのは、わたしもそうですが、若いころに「適度な危険」を経験したことのない大人が組織のマジョリティを占めているからなのだろうなぁ、と。学校現場には、一緒にいかない(?)と誘われたときに首を横に振ってしまうような、真面目な、否、勇気のない無難な大人ばかり(のような気がします)。

 たった一日とはいえ、王室の、ひどく過酷でストレスフルな境遇から抜け出したアン王女には、間違いなく「適度な危険」を経験してみようという勇気がありました。 勇気がなければ、今までとは違う新しい生き方も、クリエティブな働き方もできません。だからこそ、外山さんが書いているように《こどもには適度の危険教育は必要ではないのか》と。

 昔、誰かがこんなふうに言っていました。クリエイティブっていうのは要するに人と違うことをやるっていうことだから、それはつまり「勇気」のことだ。日本からスティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグみたいな天才が出てこないのは、日本人にクリエイティビティーが欠けているわけではなく、単に勇気がないだけだ。別の言い方をすれば、勇気を育むような教育が足りないってこと。

 

 クリエイティブとは、勇気のこと。

 

 だから危険教育が必要。

 

 なるほど。

 

 

少年記 (中公文庫)
ローマの休日(字幕版)

ローマの休日(字幕版)

  • オードリー・ヘプバーン
Amazon