田舎教師ときどき都会教師

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妹尾昌俊 著『学校をおもしろくする思考法 卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』より。マグロにはなりたくない。

 しかし、これからの学校の働き方改革では、教育効果があるもの、子どものためになることのなかからも、一定の優先順位を付けて、選択していくことが必要となってくると思います。具体的には、採点・添削の効率化、行事準備や清掃指導の見直し・短縮、部活動数の精選と活動時間の短縮(大会等の見直しを含めて)などです。そうしたことは、児童・生徒や保護者はもちろん、教職員からも反対の声があがるでしょうが、関係者で対話を重ねて、動き出さないといけません。
 なぜなら、データで確認したとおり、小さな改善や小手先では、とても過労死ラインを解消できず、教師の過労死等を防ぐことはできないし、採用面でも、教師不足を加速させてしまうからです。
(妹尾昌俊『学校をおもしろくする思考法 卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』学事出版、2019)

 

 おはようございます。時間がなくて、卓越した企業の失敗と成功に学ぶことも、関係者で対話を重ねることもできません。本当は「逆」で、卓越した企業の失敗と成功に学ばないから、或いは関係者で対話を重ねないから時間がないんだって、わかってはいるものの、自転車操業は止まりません。10年前くらいでしょうか、連日、遅くまで残って仕事をしていたところ、年配の先生に「~さんもマグロみたいになってきたね」と言われました。マグロですよ、マグロ。生まれたその日から死ぬまで泳ぎ続けるというマグロです。その先生は、残業仲間が増えたという意味で「ウェルカム」な感じで話していましたが、はっきり言って、嬉しくない。

 

 おもしろくもない。

 

 

 妹尾昌俊さんの『学校をおもしろくする思考法 卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』を再読しました。ちょうどいま、勤務校は「PDSサイクル」(Plan/計画、Do/実行、See/評価・見直し)の「S」の時期にさしかかっていて、このタイミングで卓越した企業の失敗と成功に学んでおかないと、次年度の「P」がビフォアー・コロナへの回帰路線に進んでしまうと思ったからです。何もしないでいると、教師崩壊に拍車がかかってしまいます。

 

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 1年間、ずっと短縮時程で6時間目の終了が14時45分。
 15時以降、フリー。
 掃除カット。
 時差出勤、可。
 時差退勤、可。
 出張、減。
 会議、減。
 学芸会、なし。
 宿泊体験行事、なし。
 運動会は徒競走と表現のみで午後カット。
 入学式、縮小。
 卒業式、縮小。
 授業参観、減。
 クラブ活動、減。
 委員会活動、減。
 通知表のスリム化。
 校内研究のスリム化。

 

 新たに加わった仕事(消毒作業など)があるとはいえ、本年度はコロナ禍という外圧によって、働き方改革がずいぶんと進んだなぁと思います。特に、勤務校についていえば、行事の削減と縮小は本当に大きい。短縮時程と掃除カットも本当に大きい。妹尾さんは《働き方改革に先進的な企業では、「働き方改革は経営戦略である」という言葉をよく聞きます》と書いていますが、まさにその通りで、働き方改革によってずいぶんと授業に集中できるようになったなぁと思います。経営戦略上、学校が(過度な行事を除く)授業に重点を置くべきであるということは、論を待ちませんから。

 

 多くの企業でも働き方改革や業務改善はなかなか進んでいないようです。数値で結果が比較的見えやすく、かつ生き残りをかけた競争環境が厳しい企業でさえそうなのです。学校は企業以上の難しさがいくつもありますから、一層熱意をもって妥当な方法で取り組まないと、うまくいかないと思います。

 

 学校、複雑なんですよね。行事が少なくなったことによって、相対的に授業に集中しやすい環境が生まれたとはいえ、依然として勤務時間内に授業準備ができるわけではありません。授業の後片付けが勤務時間内にやや可能になったという程度です。月に45時間以上の残業を強いられている状況に変わりはなく、まだまだ大鉈を振るって削減すべきことがたくさんあります。勤務時間内に職員同士でゆったりとコミュニケーションをとる時間も「ほぼゼロ」で、残業しないと学校事情に疎くなっていくという弊害も相変わらず。そんな状態だからこそ、卓越した企業に学ぼうというわけです。

 

 ひとつは、社員の健康増進とリフレッシュのためです。コーラや甘いものばかりで気を紛らわせるより、有機栽培の果物のほうがよいでしょう。
 もうひとつは、コミュニケーションを活性化し、イノベーティブなアイデアを生むコミュニティーにする意図があります。

 

 卓越した企業のひとつというか「雄」である Google の話です。なぜ、Google では食事や果物、菓子がただなのか。羨ましい限りです。2つの教室に分散させたクラスの子どもたちをトイレ前の廊下から草食動物のような目で同時に見守りながら5分で給食を食べるという、リフレッシュどころかストレスフルなランチタイムを月から金まで送っている身としては、同じ惑星の出来事とは思えません。学校は、気を紛らわせる余裕もない。

 

 ぼくが一番驚いたのは、Google では、採用試験で不合格だった応募者の一部を採用し、彼らの仕事ぶりを観察することによって、採用慣行の妥当性をテストしていることです。
 通常は不採用の人をわざと採用する、こんなこと、考えられますか?

 

 不採用の人を藁をもつかむ思いで採用している学校ならたくさん知っていますが。かつて働いていた小学校で、同じ学年(5クラス)を組んでいる先生たちの組み合わせが、学年主任(私)、新規採用1名、講師3名ということがありました。こんなこと、考えられますか?

 

 教師不足が加速するのも当然です。

 

 Google 以外にも、ミシュランやセブンーイレブン、スターバックスやアマゾン、それから教員と同じ公務員も登場する妹尾さんの『学校をおもしろくする思考法』。学ぶとは真似ること。本年度の「S」と次年度の「P」を考えるこの時期に、学びのプロである全国の先生たちがこの本を一斉に読んでくれれば、ビフォアー・コロナの状態に戻ろうとする流れをストップできる可能性が少しは増えるのではないでしょうか。戻るのではなく、現在の縮小の流れを加速させないといけない。この流れをトレンドにしなければいけない。そうしないと、教師不足の加速は止まらず、マグロも思考停止したまま泳ぎ続けることになりますから。

 最後に、妹尾さんが『県庁そろそろクビですか?―「はみだし公務員」の挑戦』という本から引用している佐賀県庁の職員(公務員)、円城寺雄介さんの言葉を孫引きします。

 

 多くの人が公務員の魅力は安定していることだと思っているかもしれないが、私は「社会のために挑戦できること」が公務員の魅力だと思っている。

 

 今日も挑戦です。 

 

 行ってきます。