田舎教師ときどき都会教師

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坂口恭平 著『自分の薬をつくる』より。自分の日課をつくってみよう。自分の時間割をつくってみよう。

 そう私が感じるのは、いのっちの電話をこれまでずっとやってきて、それこそ二万人近くの声を聞いてきて、感じてきたことがそれだからです。すべての人が同じ悩みなら、もうそれは悩みではなく、人間たるものみんなそんな状態にあるということですので、自然そのものの姿です。むしろ健康の証です。健康になるために人の話を聞きたくなってる、そして自分の悩みというよりも、あ、それ私も感じます感じますと言いたくなってしまっているのではないでしょうか。
(坂口恭平『自分の薬をつくる』晶文社、2020)

 

 こんばんは。昨夜、研究者(教育)の知人と話をしました。3月から5月の臨時休校を振り返って、学校現場はどうだったのかという、知人からのリクエストを受けての Zoom 対話です。二万人とまではいかないものの、知人も多くの先生たちから「感じます感じます」ではなく「大変だ大変だ」という声を聞いていたようで、そういった意味では悩み相談という意味合いもあったのかもしれません。大事なことは、平時にいかに保護者との人間関係をつくっておくか、平時にいかに子どもの自律的な学習能力を育てておくか。そんなことを話したつもりはないのに、うまくまとめてもらえて、さすがはみんなの「声」に耳を傾けているだけのことはあるなぁと思いました。東大卒の博士だし。

 

 みんなが「声」にするって、大事。

 

 

 坂口恭平さんの新刊『自分の薬をつくる』を読みました。医者となった坂口さんが、ホールに集まったワークショップの参加者24名を患者に見立てて「診察」を行うという、坂口医院における「診察」✕24をメインコンテンツとした一冊です。名付けて「自分の薬をつくる」ワークショップ。読みながら「これはあれだ」って思いました。あれというのは、1年前の夏に青山ブックセンターで体験した、坂口さんによる「いのっちのワークショップ」のことです。

 

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 いのっちのワークショップでも、「自分の薬をつくる」ワークショップでも、会場となっているホールは仮想病院です。劇団坂口病院。そこには仮想待合室と仮想診察室があり、待合室と診察室は大きなホワイトボードで仕切られています。だから待合室から診察室は見えません。

 

 でも、診察室で交わされる「声」は全員に聞こえている。

 

 声を通して、患者の話す悩みをみんなで共有できるというところがポイントです。なぜって、冒頭の引用にあるように、隣の人もその隣の人も、みんな同じようなことで悩んでいることがわかるから。すべての人が同じ悩みなら、もうそれは悩みではなくなり、ただの「健康の証」になります。

 

「え~、久保田さ~ん」

 

 あっ、呼ばれました。待合室にいる久保田さんは、ホワイトボードの内側にある診察室に入り、坂口医師と対面します。

 

 坂口「どうされましたか?」
久保田「んー、最近は、……えっと、なんというか、……」

 

 24人の悩みに対して、坂口医師は、ああしよう、こうしようって、彼ら彼女らの日課につながるような薬を提案していきます。坂口さんが今まさに自称「医者」になっているように、将来の夢は今すぐ叶えてみるという薬。やりたいことを探すのではなく、やりたくないことをしないという薬。適当で乱雑なインプットと同じように、適当なアウトプットをさっさとやるという薬。 

 

 薬=「毎日」飲む=風呂や歯磨きや睡眠=日課

 

 自分の日課ができれば、すなわちそれが自分の薬になる。坂口さんは自身の経験を踏まえて、そのことを患者さんに伝えていきます。そして、患者さんの話を聞きながら、薬の代わりとなる新しい日課を処方していきます。患者さんの症状や調子に合わせた新しい日課をつくることができれば、自身もそうだったように、患者さんの体も変わっていくに違いない。そう考えたというわけです。

 

 これは自分の日課をつくるということだと言いましたが、自分の日課をつくり出して、毎日実行すること、これ自体が、あなたにとってのアウトプットということです。普段呼吸をするように、排泄をするように、日課をやっていく。そういうことをこれから一人一人、話を聞かせてもらいながら、見つけていきたいと思います。

 

 小学校の時間割みたいなものです。それを一律強制ではなく、診察を通して坂口医師と二人でつくっていく。自分の症状や調子に合った、オリジナルの時間割です。オリジナルの時間割といえば、オランダのイエナプランですね。イエナプランでは、入学したての頃から時間割を一人ひとりの子どもが自分でつくるといいます。坂口さんのこのワークショップと合わせて考えると、その効能って、体と心への効能って、かなり大きいのではないでしょうか。薬をつくっているわけですからね、自分の。子ども=天才と考えると、天才たちの日課です。

 

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 時間割って、もしかしたらかなり暴力的なものなのかもしれません。「自分の薬をつくる」につながる「自分の時間割をつくる」ワークショップ、2学期にやってみようかな。自律的な学習能力の育成にもつながること間違いなし。

 

 もうすぐ4連休。

 

 おやすみなさい。

 

 

まとまらない人 坂口恭平が語る坂口恭平

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坂口恭平 躁鬱日記 (シリーズ ケアをひらく)

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