我々、日本人の多くは小学校、いや幼稚園、保育園の頃から「お友だちとは仲良く」「仲良しチームは良いチーム」ということを植え付けられてきています。当然ながら、チームメンバー同士が「仲良くすること」は決して悪いことではありません。ではなぜ、行き過ぎた「仲良し信奉」が相互フィードバックを妨げてしまうのでしょうか。
それは「仲良し信奉」には、「人間関係の悪化」を恐れるあまり、「仲良くすること」が目的化するという副作用があるからです。
(中原淳、田中聡『チームワーキング』日本能率協会マネジメントセンター、2021)
こんにちは。2期制の学校は通知表の作成に追われている時期でしょうか。前任校も前々任校も2期制だったので、懐かしく思います。祝日の今日も出勤している先生がたくさんいるのだろうな。
プライベートを削ってまで働いているのにもかかわらず、行き過ぎた「仲良し信奉」のためか、「保護者の怒りを買わないこと」が目的化するという副作用に悩まされているのが学校です。通知表の所見なんて最たるもの。フィードバックの肝である「耳の痛いこと」なんてとても書けません。優先すべきはフィードバックではなくサンドバッグにならないこと。子どもの成長という共通の目標を掲げているのに、そしてとんでもない時間を費やしているのに、ホント、
阿呆らしい。
通知表の在り方は今のままでいいのか。いつの間にか当初の目的とズレた方向へ進んでいってしまっているのではないのか。副作用を防ぐためには、そういった問いを表明し続けていく必要があります。言い換えると、チーム学校を「チームワーキング」の状態に導いていく必要があるということ。人材開発・組織開発が趣味であり特技でもあるという中原淳さんと、経営学習論・人的資源開発論を専門とする田中聡さんだったら、頷いてくれるのではないでしょうか。
中原淳さんと田中聡さんの『チームワーキング』を読みました。Team+Working で Teamworking。中原さんと田中さんの《「チームを前に進め、成果を創出する風景」を日本全国に生み出していきたい》という思いを紐解く「キーワード」です。このチームワーキングというキーワードが表しているのは、
チームがダイナミックに動いている様。
分子生物学者である福岡伸一さんいうところの「動的平衡」の視点をもった言葉だと考えれば理解しやすいかもしれません。生命と同じように、チームというものも「動的平衡にある流れ」である。いわんや成果の出るチームをや。以下、目次です。
序 章 ニッポンの「チーム」をアップデートせよ!
第1章 なぜ、日本の職場がうまく回らなくなってきたのか
第2章 チームワーキングとは何か?
第3章 ケースとデータで学ぶ Goal Holding
第4章 ケースとデータで学ぶ Task Working
第5章 ケースとデータで学ぶ Feedbacking
第6章 すべてのひとびとに、チームを動かすスキルを!
副題は「ケースとデータで学ぶ『最強チーム』のつくり方」です。対象となっているのは会社ですが、例によって学校に置き換えれば「ケースとデータで学ぶ『最強クラス』のつくり方」あるいは「ケースとデータで学ぶ『最強スクール』のつくり方」となります。もと教員の岩瀬直樹さんの『クラスづくりの極意』がナラティブ・ベースの一冊だとすれば、この『チームワーキング』はエビデンス・ベースの一冊といえるでしょうか。
最近読んだ本がことごとくデータ(エビデンス)を強調しているのは、「これまで」を考えれば日本社会がデータよりも空気に従ってきたからであり、「これから」を考えれば序章にも書かれているように《私たちが仕事をしている環境が、日々変化している》からです。毎日のように何かが起きている教室も然り。学校も会社も、データに基づかない「凡庸な思いつき」ではもはや立ち行かなくなっているというわけです。
ちなみにこの日々変化する不確実な時代のことを、ビジネスの現場では「VUCAの時代」と呼ぶそうです。
Vは変動(Volatility)
Uは不確実性(Uncertainty)
Cは複雑性(Complexity)
Aは曖昧性(Ambiguity)
第1章の「なぜ、日本の職場がうまく回らなくなってきたのか」には、日本の職場に「うちの会社って何の会社だったっけ?」症候群(目標が不透明になっている)や「あの人、何の仕事をしてるんだっけ」症候群(コミュニケーションや相互の関心が希薄化している)、ひーこらひーこら働いているのに気が枯れている症候群(やりがい、エンゲージメントが低下している)などに代表される「VUCA病」が流行っていること、そのために「うまく回らなくなっている」ということがエビデンス・ベースで記述されています。学校の職場にも当てはまるのではないでしょうか。では、うまく回すためにはどうすればいいのか。そこで登場するのが「チームワーキング」というコンセプトです。
チームワーキングとは何か?
チームワーキングの要諦は第2章と第6章に「チームを見つめる3つの視点」&「チームワークを生み出す3つの行動原理」としてまとめられています。第3章~第5章はそれらを裏付けるための「データに基づくケース」スタディです。この「ケースとデータで学ぶ」3つの章が、中原さんと田中さんならではの貴重極まりないコンテンツなのですが、それは読んでみてのお楽しみ。いずれにせよ、読めば読むほど「チームワーキング ≒ クラスワーキング」に思えてくるのは、おそらくというか間違いなく、長時間労働による職業病のためでしょう。以下は3つの視点と3つの行動原理です。
【チームを見つめる3つの視点】
①チーム視点:チームの全体像を常に捉える視点
②全員リーダー視点:自らもリーダーたるべく当事者意識を持ってチームの活動に貢献する視点
③動的視点:チームを「動き続けるもの、変わり続けるもの」として捉える視点
【チームワークを生み出す3つの行動原理】
①Goal Holding:目標を握り続ける
②Task Working:動きながら課題を探し続ける
③Feedbacking:相互にフィードバックし続ける
3つの視点はクラスの子どもたちによく伝えている内容です。小学生にはなかなか難しい視点ですが、まともな担任はクラスを「動き続けるもの、変わり続けるもの」として捉え、子どもたちがチーム視点や全員リーダー視点を獲得できるよう、クラスづくりにも授業づくりにも絶えず工夫を加えています。
ポイントは「絶えず」というところ。
それが3つの行動原理に書かれている「続ける」につながります。換言すると「動的」ということです。まともな担任は学級目標を立てたままにしないし、クラスをファジーかつ固定的に見たりしないし、教室におけるコミュニケーションの量と質に鈍感だったりしません。目標を立てることよりもそれを握り続けること、解像度を上げて課題を探し続けること、毎日毎週のようにフィードバックを続けて教室の事象を価値付けていくこと。それらを怠った担任が、ちょうど今の時期くらいから苦しくなっていくのではないでしょうか。苦しくなってきた担任には『チームワーキング』と合わせて以下の中原さんの著作も、是非。世界が「チーム」に満ちているように、中原さんの本は「ヒント」に満ちています。
秋分の日に相応しい秋晴れです。太陽の光を浴びていると、ひーこらひーこら働いているのに気が枯れている症候群に罹患しかけていることを忘れられます。今、本の帯に《すべてのひとびとに、チームを動かすスキルを!》と書かれていることに気が付きました。そうすると締めはこうなります。
すべての担任に、クラスを動かすスキルを!
クラスワーキング!