田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

村上龍、村上春樹 著『ウォーク・ドント・ラン』より。自分をくっきりとさせる出会い。

 ある作家の出現で、自分の仕事が楽になる、ということがある。
 他者が、自分をくっきりとさせるのである。
 ただし、そのためには、他者に相応の力がなくてはならない。
(村上龍、村上春樹『ウォーク・ドント・ラン』講談社、1981)

 

 おはようございます。いざ、新天地へ。そんな去年の立場から一転、今年は「ようこそ!」と両手を広げる立場として4月1日を迎えました。ページをめくるようにはっきりと変化する教職の区切り感って、いいものです。以前、長く同じ場所で働いている歯科衛生士の友人に指摘されて、その価値に気付きました。花に嵐のたとえもあるさ、さよなら「さえも」人生だ。ページをめくると、そこに出会いが待っています。みなさんの学校に、自分をくっきりとさせてくれるような他者、いうなれば「象徴」としてのジョニー・デップはやってきたでしょうか。
 

taishiowawa.hatenablog.com

 

 昨日、インクさんのブログ「ツイートの3行目」とともに満員電車のお供に選んだのは、幻の絶版本、村上龍さんと村上春樹さんの対話集『ウォーク・ドント・ラン』です。走るな歩け。急がば回れ。逃げれば恥だが役に立つ。プレミア価格4000円。新年度のスタートにうってつけのレア本です。

 

 

 当時29歳でデビュー5年目だった村上龍さんと、当時32歳でデビュー2年目だった村上春樹さんの対話集。タイミングとしては、村上龍さんがホップ・ステップ・ジャンプの「ジャンプ」にあたる『コインロッカー・ベイビーズ』を世に送り出す前(80年7月)と送り出した後(80年11月)、村上春樹さんが同じく「ジャンプ」にあたる『羊をめぐる冒険』を構想していた頃のダイアローグです。絶版になっているのはおそらく「ふたりの村上」の意向でしょう。80年代と90年代の文学はふたりの村上によって牽引されたといわれるほどの大御所です。イメージを崩さないためにも、若気の至りで口にしちゃったことを隠したくなるのも無理ないことかもしれません。

 

 或いはただたんに仲が悪くなったのか。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 村上龍さんは「村上春樹」という同姓の同業他者に出会ったことで、次のようなことを自分に言い聞かせたといいます。冒頭の引用(村上龍さんによるあとがき「村上春樹のこと」より)でいうところの、自分をくっきりとさせてくれる他者です。

 

 相応の力をもった、他者。

 

 長いものを書く。
 登場人物の出会いと反応を克明に書く。「会話」を軽視しよう、そして登場人物の行動で物語を進めよう。
 熱狂を書く。
 そのためには、イメージは最初から全開でなければならない。

 

 会話を重視し、会話で物語が進んでいく村上春樹さんの初期作品(『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』)と真逆の道に進むことを決心しています。それが自分をくっきりさせることになるとわかったのでしょう。その決心の先に名作『コインロッカー・ベイビーズ』が生まれます。

 

 自分の仕事が楽になる。

 

 カッコいいですよね。宿題を出すかどうか、学級だよりを出すかどうか、授業の最初と最後に号令をかけるかどうか、そういったところまで同僚他者とそろえなければいけない風潮のある学校とはわけが違います。比べること自体が間違っているのかもしれませんが、自分にあった酒や自分にあった音楽があるように、自分にあった他者ももちろん存在します。自分にあった他者というのは、自分のユニークさを引き出してくれるような他者です。自分の価値に気付かせてくれる他者。歯科衛生士の友人が、教職のもつ魅力に気づかせてくれたのと同じです。

 

 対話って、そういうもの。

 

 僕は本質的に冷たいのかな(?)という村上春樹さんに、村上龍さんが《これは別に皮肉でも何でもないんだけど、インテリジェンスがあるからでしょうね、やっぱり。そう思うよ》と返すくだり。さらに村上龍さんが《ぼくね、冷たいっていうことはね、どういったらいいのだろうなあ、何も求めないことじゃないかと思うのですよ》と続けるくだり。主体的・対話的で深い学びって、こういうことをいうのではないでしょうか。

 

 対話による出会いの価値づけ。

 

 ジョニー・デップをよろしく。

 

 

コインロッカー・ベイビーズ(上) (講談社文庫)

コインロッカー・ベイビーズ(上) (講談社文庫)

  • 作者:村上 龍
  • 発売日: 1984/01/09
  • メディア: 文庫
 
コインロッカー・ベイビーズ(下) (講談社文庫)

コインロッカー・ベイビーズ(下) (講談社文庫)

  • 作者:村上 龍
  • 発売日: 1984/01/09
  • メディア: 文庫
 
羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)

羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2004/11/15
  • メディア: 文庫
 
羊をめぐる冒険(下) (講談社文庫)

羊をめぐる冒険(下) (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2004/11/16
  • メディア: 文庫
 
風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: 文庫
 
1973年のピンボール (講談社文庫)

1973年のピンボール (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2004/11/16
  • メディア: 文庫