田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

坂本龍一 著『音楽は自由にする』より。音楽は自由にする。変形労働時間制は不自由にする。

 若いころはいろいろうまくいかなかったけれど、年を取ったからこそ、また二人と一緒に音楽ができるようになった、ということかも知れない。だとしたら、年を取ってよかったと思います。ポール・ニザンじゃないですが、若さなんて、全然いいものじゃないんですよ。声を大にして言いたい。
(坂本龍一『音楽は自由にする』新潮社、2009)

 

 こんばんは。ちょっと酔っぱらっています。さっきまで教育実習のときに苦楽を共にした友人と酒を酌み交わしていました。20年ぶりの再会&さし飲み。いわゆる「久闊を叙する」ってやつです。

 当時はロン毛にピアスで、5年生の理科の単元『流れる水のはたらき』でいうところの「上流」のような勢いにあふれていた彼も、今では「中流」の流れのようにすっかり落ち着いて、小学校の副校長に。昔話に花を咲かせつつ、これからは「下流」に向けてどういうふうに幅を広げていくのか。話のネタの尽きない夜になりました。

 

 僕は二十歳だった。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない。

 

 ポール・ニザンの『アデン、アラビア』より。あまりにも有名な冒頭の一節。ポール・ニザンじゃないですが、中流には中流の、下流には下流の美しさを重ねていきたいものです。

 

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バグマティ川の川岸、パシュパティナートの火葬場にて(00)

 

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パシュパティナートはネパール最大のヒンドゥー教寺院

 

 死はそこにある。

 

 ネパールはカトマンズにあるパシュパティナートの火葬場にて、隣にいたヒンドゥー教徒の老人から「メメント・モリ」的なメッセージを受け取ってから早20年。下流に向けて、或いは「死」に向けて、これからどういうふうに幅を広げていけばよいのか。

 20年ぶりに再会した友人と、そんなことを語り合っていたときに飛び込んできたのが「1年単位で労働時間を調整する変形労働時間制の導入を可能にする法律の改正案が、閣議決定されました」というニュースです。やれやれ。酔いが覚めます。

 

 人生はどんどん伸びていて、社会はどんどん変化しているのに。

 

「大人の学びを科学する」をテーマに、人材開発や組織開発を研究している中原淳さんに「長時間労働から長期間労働へ」という言葉があります。

 

 

 医学による予想では、現在の小学生の寿命は105歳前後。だから、先行き不透明な社会保障のことなども含め、仕事人生の長期化は避けられそうにありません。そういったことを踏まえた上で、中原さんはこれからの働き方のことを「長時間労働から長期間労働へ」と表現します。

 

 ① 長時間労働から長期間労働へ。
 ② 長時間労働も、長期間労働も。

 

 変形労働時間制の導入は、中原さんのいう①の流れを、②の流れに変えてしまう「毒饅頭」みたいなものです。主語が異なるだけで、実態は、神戸でいうところの「教員いじめ」と何ら変わりません。根底にあるのは、権力をもった側の想像力の欠如です。年齢を重ね、我が子も大きくなり、これからは下流に向けて幅を広げていきたいと思ったとしても、長時間労働+長期間労働では、しっかりと眠ることも、まともに本を読むことも、旧友と会って話をすることもままならず、

 

 自分を大切にできない。

 

 教員の「自分を大切にできない」という在り方は、自覚の有無にかかわらず、じわじわと教室に反映され、子どもたちの自己肯定感を奪っていきます。そういった「問題を生み出す構造」の放置が、ストレスフルな職場を生み、神戸の「教員いじめ」ような事件や、教室での子どもたちの「いじめ」を誘発しています。哲学者の苫野一徳さんの言葉を引けば《学校教育は、すべての子どもたちに自由の相互承認の感度を育むことを土台に、この社会で自由に生きられる力を育むためにある》のに。大人にも子どもにも、自由の「自」の字もない現状。坂本龍一じゃないですが、

 

 音楽はわたしたちを自由にする。
 変形労働時間制は不自由にする。

 

 声を大にして言いたい。

 

 

音楽は自由にする

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学校は、何をするところか?

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