田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

神保哲生、宮台真司、他『教育をめぐる虚構と真実』より。ペスト → 文芸復興(ルネサンス)。コロナ → 教育復興。

 経済界は教育に「新しい産業構造に合った人材をくれ」と言いだします。利害関係者として当然の要求です。問題は、それにどの程度応じるべきなのか。あるいは、どの程度拒絶すべきなのか。経済が回らないと、社会は回りません。でも経済を回すために社会を犠牲にすれば、社会が回らなくなって、やがて経済も回らなくなります。
(中略)
 ところが日本では、経済界が「経済を回すこと」しか考えていないのに加え、教育界が「人間教育」しか考えていない。教育を思考するとき、社会システムに準拠する仕方と人格システムに準拠する仕方があります。社会のあるべき姿との関係で教育を問題にするか、生徒の幸せとの関係で教育を問題にするかです。社会学者として言えば、前者でなければなりません。
(神保哲生、宮台真司、他『教育をめぐる虚構と真実』春秋社、2008)

 

 こんにちは。昨日、神成淳司さんと宮台真司さんの共著『計算不可能性を設計する』をブログで取り上げたところ、なんと、宮台真司さんに Twitter でリツイートしていただきました。ファン冥利に尽きます。トーク・イベントに足を運んだり、神保哲生さんと宮台真司さんのビデオニュース・ドットコム(マル激・トーク・オンディマンド)を視聴したり、追いかけはじめてからかれこれもう20年近く。終わりなき日常を生きるのも、なかなか悪くないかもしれません。

 

 終わりなき日常を生きろ。

 

 コロナ完全克服マニュアルと読みかえて、また読んでみようかなぁと思います。

 

 

 昨日のマル激・トーク・オンディマンドのゲストは、著書『感染症と文明』で知られる山本太郎さん(長崎大学熱帯医学研究所教授)でした。テーマは「人類は新型コロナウイルスといかに共生すべきかを考える」です。

 

www.videonews.com

 

 緊急事態宣言が出されているということもあって、昨日は神保さんも宮台さんもゲストである山本さんも別々の場所にいるという、「マル激」史上初の Zoom による三元中継でした。994回目にして「初」です。ウイルスとの共生を社会が選択せざるを得ないのであれば、社会システムに準拠する「教育」も、マル劇と同じように、かたちをかえていくべきではないでしょうか。山本太郎さんの『感染症と文明』にも書かれているように、あの「ルネサンス」だって、ペストの流行によって従来のレジームが崩壊した後に出てきたものですから。

 

 変わらないために変わり続ける。

 

 変わらない教育を変えるために、今は絶好のチャンスです。9月入学なんていう話でお茶を濁している場合ではありません。

 

 

 マル激の内容を活字化した 『教育をめぐる虚構と真実』を再読しました。タイトルからわかるように、教育をテーマとした放送回を集めたものです。藤原和博さんをはじめ、各回ともそうそうたる顔ぶれです。初版は2008年。10年以上経ってもその内容が古びれないところがこの本のよさであり、教育の難しいところでもあります。教育はゆっくりとしか変わらないからです。

 

 ペスト → 文芸復興
 コロナ → 教育復興

 

 ペストがあってもなくても、文芸復興、すなわちルネサンスは起こっていたであろう。山本太郎さんはそのように見立てます。ただしそれはもっとゆっくりとした変化だっただろう、とのこと。その変化を早めたのが、トリガーとしてのペストだったというわけです。コロナにも同じ役割が期待されます。宮台真司さん曰く、私たちは「10年後にくることを1年後に目撃する」かもしれません。

 

 変化の促進と同時に、ペストやコロナは議論も加速させます。

 

 リモート教育はいいけれど、子どもたちの仲間意識はどうやって育てるの(?)とか、先生と子どもたちとの関係はどうなるの(?)とか、音楽は(?)運動会は(?)卒業式は(?)とか。そういった「教育の形態や機能」に関することを喫緊な課題として議論できるのは、コロナのお陰というわけです。だからその是非はともかく、9月入学にして全て「温存」という流れにはしないでほしい。

 

 経済を回すのでも生徒を幸いにするのでもなく、それらとは別に、社会を回すという観点から教育を考えるべきです。

 

 冒頭の引用もそうですが、ここでいう社会というのは、宮台真司さん曰く《経済を含めたコミュニケーションの全体性》のことです。社会の方が経済よりも、そして教育よりも、でっかい。担任のイメージでいえば、子どもたちの小社会である学級を回すという観点から指導や支援の在り方を考えるべき、となるでしょうか。コロナによって社会が急変している以上、教育も急スピードでの変化が求められているというわけです。だから社会を削って教育に盛ろうしてはいけません。夏休みゼロや土曜授業増なんて、まさに社会を削る振る舞いです。家庭や地域を何だと思っているのでしょうか。

 

 10年後にくることを1年後に目撃する。

 

 最後に「1年後を考えるための補助線」として、未来学者のアルビン・トフラーの「予想」を引きます。西川純さんが『2030年  教育の仕事はこう変わる!』の中で言及している内容です。アルビン・トフラーは、現在は工業化社会から情報化社会への移行期であり、そのため社会にはさまざまな混乱が生じるであろう、と予想しています。次のような移行(変化)です。

 

 規格化 → 個性化
 分業化 → 総合化
 同時化 → 非同時化
 集中化 → 分散化
 極大化 → 適正規模化
 中央集権化 → 地方分権化

 

 左側が工業化社会の特徴、右側が情報化社会の特徴です。これらの変化が一気に起こり得るのが「今」です。例えば、教室に子どもたちを集めて教科書を見ながら一斉指導するなんていうのは「規格化」「同時化」の表れです。これを「個性化」「非同時化」にもっていくとしたらどうすればいいのか。そういった議論があちこちで巻き起こっていることを想像すると、ちょっとワクワクします。どのようにコロナと共生していくのか、仲間意識をどう育てていくのか、そういった社会の在り方や教育の在り方を議論しつつ、うまく変わることができれば、いじめや不登校も減るかもしれません。だから繰り返しますが、9月入学という「時期をずらす」というだけの話でこの機会を不意にしないでほしい。そう思います。

 

 何が禍で何が吉なのか。

 

 禍だけではなかったねって、コロナのことをそんなふうに振り返るときが、1年後は無理だとしても、数年後にはやってきますように。

 

 今日もいい天気です。

 

 散歩に行ってきます。

 

 

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