田舎教師ときどき都会教師

テーマは「小学校教員の働き方」&「読書、旅行、映画」

鴻上尚史さんの『不死身の特攻兵 』より。「空気」を読んでも従わない。

 けれど、このあとも練習機を含む「全機特攻化」は続いたのです。
 それでも、美濃部少佐の存在と勇気ある発言は、海軍におけるひとつの希望だったと僕は思っています。あの時代に、「精神力」だけを主張する軍人しかいなかったわけではない、心の中で反論するだけではなく、ちゃんと声を挙げた軍人がいたんだと知るだけで、僕は日本人の可能性を感じるのです。
(鴻上尚史『不死身の特攻兵  軍神はなぜ上官に反抗したか』講談社現代新書、2017)

 

 こんばんは。今日は職場の若者たちに「定時退勤」に付き合ってもらって、ちょっとだけ飲んできました。教員採用試験の倍率が下がって「教員の質」がどうのこうのといわれていますが、勤務校の若者たちにその「どうのこうの」はまったく当てはまりません。わたしの駄目さ加減が浮かび上がってくるくらい、ひとり残らずステキな先生です。でも、みんな働きすぎ。若者たちは上官に反抗することなく月100時間以上の残業を当たり前のようにこなしています。

 

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職場の若者たちと(2020.2.13)

 

 若者たちと一緒に入ったお店で「羽根つき餃子」なるものを食べました。料理長さんの故郷である東京は蒲田の郷土料理とのことですが、そのありえない(when pigs have wings !! )かたちにびっくり。今にも空に舞い上がりそうな餃子にすっかり目を奪われてしまいました。で、いただきます。

 

 飛べない餃子はただの餃子だ。

 

 料理長さんの口癖らしいです。嘘です。とはいえ、宇都宮の餃子に負けず劣らず美味しかったので、いつか現地に行って食べてみようと思いました。サヨナライツカ。羽根のついた餃子を口にしながら、そして若者たちの教室での感動話に耳を傾けながら、鴻上尚史さんの『不死身の特攻兵』に書かれていた《空に舞い上がれば、ただ、それだけで感動した》という文章を思い出しました。軍神・佐々木友次(ともじ)さんの「こころ」を表わした言葉です。

 

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)

  • 作者:鴻上 尚史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/11/15
  • メディア: 新書
 

 

 鴻上尚史さんの『不死身の特攻兵  軍神はなぜ上官に反抗したか』は、元特攻隊員の佐々木友次さんの「存在」に迫った一冊です。人間は考える葦であるという言葉を援用すれば、軍神の「思考」に迫った一冊といえます。

 

「9回出撃して、9回生還した」不死身の特攻兵。 

 

 数多くの飛行機乗りが特攻兵として命を落としていった、あの戦争の最中、「9回出撃して、9回生きて帰ってきた」元特攻隊員は、何を思い、何と戦い、何に苦しみ、何を拒否し、何を選び、そして今は何を考えているのか。一人でも多くの日本人にそのことを知ってほしい。鴻上さんはそのことだけを思って、92歳になっていた佐々木友次さんに会いに行き、この本を書きます。ここでいう「日本人」とは、おそらくわたしや同僚の若者たちを含む「『世間』や『空気』に抗えない日本人」のことです。「空気」を読んで従ってしまう日本人に、「空気」を読んでも従わなかった「不死身の特攻兵」のことを知ってほしい。佐々木友次さんだけでなく、冒頭の引用にある美濃部少佐のような人がいたことも知ってほしい。「世間」や「空気」に強い関心をもつ著者ならではの思い。

 

「空気」を読んでも従わないために。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 元特攻隊員の佐々木友次さんは、当時21歳。わたしの勤務校で不死身のごとく働き続けている若者たちよりもさらに純度の高い若者です。パイロットとして、軍神と呼ばれるほどの、そして天皇に報告されるほどの腕前をもっていたという佐々木友次さん。そのステキさゆえに、失敗の許されない第一陣の特攻隊に選ばれてしまいます。

 

が、佐々木伍長は、命令を拒否して爆弾を落としました。

 

 体当たりなんてしなくても、爆弾を落とせば戦艦を撃沈することはできる。むしろ体当たりなんてしたら、卵をコンクリートにたたきつけるようなもので、戦艦を撃沈することはできない。佐々木友次さんはそのことを「結果を出す」ことで証明します。

 教育の世界でいえば、高校教師の斉藤ひでみこと西村祐二さんみたいな感じでしょうか。授業で全国レベルの結果を出しつつ、冗談としか思えない給特法の維持や変形労働時間制の導入に、国会で異を唱える。部活動なんてしなくても、子どもたちの力を引き出すことはできる。むしろ給特法をこのまま残していたら、教員は「高くて、固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵」みたいな存在になってしまう。

 

 (前略)フィリピンに着いて以来、冨永司令官は、航空戦に無知ゆえに不合理な命令を繰り出していく。冗談としか思えない指令で、多くの兵隊が死んでいった。上層部の派閥争いの割を食うのは常に末端の人間なのだ。

 

 しかし、いくら「結果」を出しても、リアリズムよりも精神に重きを置く「空気」に支配されている組織の中では「理」が通りません。佐々木友次さんの上官に当たる冨永司令官とやらは、空戦の経験がなく「体当たりは爆弾を落とすより簡単だろう」という間違った憶測で命令を出し続けていたといいます。授業の準備をする時間は十分にあるだろう、という間違った憶測で動いている学校現場と同じです。授業を準備する時間はおろか、法律で定められているはずの休憩時間すら働かざるを得ません。

 

「軍神はなぜ上官に反抗したか」

 

 副題の「なぜ」に対する答えとしては、「なんで死ななきゃならないのかという思い」と「飛行機に乗るのが大好きだったという思い」が、はっきりとはしないものの、佐々木友次さんへのインタビューの中で挙げられています。

 

 なんで毎月100時間も残業しなきゃならないのかという思い。
 授業をするのが大好きだという思い。

 

 これって「不死身の特攻兵」が答えた内容と基本的には同じだと思うのですが、どうでしょうか。無賃残業は命(時間)を奪われているのと同じです。構造としてはほとんど同じなのに、そのことがほとんど意識されていません。そこにもやもやとしたものを感じます。職場の若者たちとそんな話をしたかったのですが、酔いと疲れと羽根つき餃子の圧倒的な存在感に惑わされてなかなかうまく伝えられませんでした。また別の機会に、と思います。

 

「空気」を読んでも従わない。

 

 おやすみなさい。

 

 

「空気」を読んでも従わない: 生き苦しさからラクになる (岩波ジュニア新書)

「空気」を読んでも従わない: 生き苦しさからラクになる (岩波ジュニア新書)

  • 作者:鴻上 尚史
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2019/04/20
  • メディア: 新書