田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

幡野広志 作『気仙沼漁師カレンダー  2021』より。気仙沼のいちばんの魅力とは?

 一昔前は借金返済のためにマグロ漁船にのる人が実際にいたそうだ。現在は日本で働く東南アジアの外国人漁師の存在によって人件費を抑えることができるうえに、彼らは漁業に必要な技術まで有している。
 そういった背景があるので新人の若い日本人が高給ということはない。外国人漁師で人手不足を解消することができても、彼らはいつか帰国をする。漁師になってくれる日本人の後継者が不足しているのが厳しい現実だ。
(幡野広志『気仙沼漁師カレンダー  2021』気仙沼つばき会、2020)

 

 こんばんは。初心忘れるべからずとはよくいったものです。今日、授業を観に来てくれた教育実習生の女の子が「遠慮のない子どもたちの質問がおもしろくて」と話しているのを聞いて、あっ、おもしろがる余裕を失っていたな、と気づいたというか気づかされたというか。朝昼晩、そしてまた朝昼晩と、文字通り、心を亡くすほどの忙しさです。あまりのブラックさに、教師になってくれる人が不足しているくらいの厳しい現実。だから定時に、ではなく、ときどき初心にかえって心を整える必要があります。

 

 初心にかえろう。

 

 そう思って注文していたカレンダーが届きました。これです。

 

f:id:CountryTeacher:20201012195403j:plain

気仙沼漁師カレンダー2021

 

 

 先週、幡野広志さんの「気仙沼漁師カレンダー  2021」が届きました。私にとっては、アーモンドグリコのキャッチコピーみたいなカレンダーです。いや、もっとかな。一粒で三度おいしい。アーモンドの歯ごたえではなく、幡野さんの写真の見ごたえと文の読みごたえ。それからキャラメルの旨さならぬ気仙沼の人の良さ。そして社会の水産業の授業に間に合ったぞ~、というタイミングの絶妙さ。
 

 クラスの子「日本人じゃない人が乗ってる」。

 

 カレンダーが届いた翌日に、子どもたちに「気仙沼漁師カレンダー  2021」を見せたところ、すぐにそんなつぶやきが聞こえてきました。その子(♀)が見ていたのは、冒頭に引用した文章が添えられている「4月」の写真です。前日に頭を丸刈りにしたという新人の若い日本人と、インドネシア人の船員たちが出船式に臨んでいる写真。なんで日本のマグロ漁船なのに、この人はインドネシア人に囲まれているんだろう。つぶやきは「問い」に変わり、教科書や資料集だけでは得られない深い学びにつながっていきます。

 

 水産業の抱える課題のひとつは漁師の高齢化が進んでいること。

 

 教科書や資料集に載っている統計ではそこまでしかわかりませんが、写真ひとつで別のリアルに触れることができます。いわゆるフォトランゲージという手法です。高齢化が進み、働き手も減っていることから、日本人の代わりに外国人漁師で人手不足を解消しているという現実がある。写真をみると、そんなことが想像できます。子ども(♂)曰く「農家の人たちも同じような課題を抱えていたから、もしかしたら外国人に助けてもらっているのかもしれない」云々。なるほど。おもしろいなぁ。その日は子どもの反応をおもしろがる余裕があったようです。気仙沼の写真を見て初心にかえることができたからでしょうか。

 

f:id:CountryTeacher:20201013211614j:plain

安波山から望む気仙沼市街(2004)

 

f:id:CountryTeacher:20201013211818j:plain

飛魚。漁師さんの船に乗って(2004)

 

f:id:CountryTeacher:20201013213055j:plain

牡蠣小屋(2014) 

 

 我ながら、なんの変哲もない写真です。同じ気仙沼なのに、同じヒト亜属に属しているオスなのに、私が撮ったものと幡野さんが撮ったものとでは、どうしてこんなにも差があるのでしょうか。そんな当たり前のことをナイーブに考えてしまうくらい「気仙沼漁師カレンダー  2021」は彼の地の魅力をあますところなく伝えています。何といっても、写真家である幡野さんをして《カメラがじゃまになる瞬間がある》とまで言わしめていますからね。漁師が「船がじゃまになる瞬間がある」と口にするようなものです。

 

 気仙沼のいちばんの魅力とは?

 

 気仙沼の魅力を地元の人に聞けば四季によってかわる魚や、豊かな自然などをあげるのかもしれない。
 ぼくが気仙沼に通って感じた魅力は人の良さだ。これがいちばんの魅力であって、財産なんだとぼくはおもう。

 

 教え子やお世話になった人たちのことをほめられているような気持ちになり、嬉しい。気仙沼は、私にとっての初心、私にとっての第二の故郷です。

 猪瀬直樹さんの『救出』に《陸地である日本列島をポジにして、海洋をネガにしてみると、三陸地方はきわめて孤立した僻地に見えるが、海洋をポジにして日本列島をネガにしてみると、別の見え方になってくる》とあります。気仙沼は早くから海を通して外の世界とつながっていたんですよね。おそらくはそれ故に、外からやってくる人にやさしい。外からやってきた「先生」にも、そして「写真家」にもやさしい。外の世界たる遠洋漁業の旅先で、現地の人々にやさしくされた経験が街の記憶として「大漁」に存在しているのでしょう。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 来年は、この「気仙沼漁師カレンダー 2021」を見ながら、折に触れ初心にかえることができそうです。そうすれば、船上の漁師が魚の反応をおもしろがるように、子どもの反応をおもしろがり続けることができるかもしれません。

 

 また行きたいな。

 

 おやすみなさい。

 

 

気仙沼漁師カレンダー 2021 幡野広志
 

 

救出: 3・11気仙沼 公民館に取り残された446人

救出: 3・11気仙沼 公民館に取り残された446人

  • 作者:猪瀬 直樹
  • 発売日: 2015/01/26
  • メディア: 単行本