田舎教師ときどき都会教師

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岩田健太郎 著『予防接種は「効く」のか?』より。キャリア・パスポートは「効く」のか?

 医学の世界では、森鴎外といえば、高木兼寛との「脚気の論争」で有名です。陸軍医師であった森鴎外は、脚気を感染症が原因だと「理論的に」推論し、海軍医師の高木は、栄養説、つまり栄養の欠如がその原因ではないか、という説を取りました。
(岩田健太郎『予防接種は「効く」のか?』光文社新書、2010)

 

 おはようございます。一昨日の夜に、通算7回目となる Official髭男dism のライブに行ってきました。この歳(アラフォー)にして我ながらびっくりするくらいはまっています。同じ島根出身の岩田健太郎さんに「ど」はまりして読みまくっていたときと同じ感覚。ちなみに会場となったパシフィコ横浜のある横浜市の市歌を作詞したのはかの有名な森鴎外で、こちらも島根出身です。おそるべし、島根マジック。

 

 Official髭男dismと岩田健太郎さんと森鴎外と、関係ないけど錦織圭も生んだ島根県。

 

 その島根から来ているファンはいなかったようですが、連休の中日ということもあって、北は北海道から南は台湾まで、私と同じように遠方から来ているファンも多かったようです。台湾にまで浸透している島根発のヒゲダン人気。バンド名の名付けの親である Bass の「ならちゃん」こと楢﨑誠さんが、MCのときに「島根県に行ったことがある人?」と訊いていました。会場の4分の1くらいの人たちが手を挙げていたでしょうか。すごくいいところらしいです。行ってみたいなぁ。

 

 トラベラーズ。さあ、そろそろ行こうか。

 

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ヒゲダンのライブ、パシフィコ横浜にて(2020)

  

 ライブ会場って、誰かがインフルエンザに感染していたとしたら、一気に広まりそうですよね。みんな歌ったり叫んだりしているし、ウィルスもトラベラーズですから。ちなみにみなさんはもう予防接種を受けましたか。私はもともとワクチンが嫌いでしたが、岩田健太郎さんの『予防接種は「効く」のか?』を読んで以来、受けるようになりました。職業的にもそのほうが望ましいだろうし。「効く」とは、何かを変える力があること。予防接種やヒゲダンの歌と同じように、岩田健太郎さんの本はよく効きます。

 

 

 インフルエンザワクチンは集団に接種することで「群れの免疫」を獲得する。だから、効く。ライブ会場に来るヒゲダンのファンがみんな予防接種を受けていれば、例えインフルエンザにかかったイベントスタッフが紛れ込んでいたとしても、インフルエンザは広がりにくい。岩田健太郎さんの『予防接種は「効く」のか?』にはそういったことが書かれています。

 では、4月から小中高に導入されるという、キャリア・パスポートは「効く」のか。脚気の論争をもとに、その効果を予想してみたいと思います。

 ちなみにキャリア・パスポートというのは、文部科学省によると「児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのこと」だそうです。

 

 キャリア・パスポートは「効く」のか?

 

 冒頭に引用した「脚気の論争」は、ご存じの通り、脚気の原因は栄養の欠如であるという、高木兼寛(かねひろ)の説をとった海軍の勝利に終わります。高木の指示通りに提供された「麦飯」に含まれているビタミンB1が、海軍兵士から脚気を遠ざけたのです。

 一方、脚気の原因は感染症であるという、森鴎外の説をとった陸軍は、日清・日露の戦争を合わせておよそ3万2000人もの脚気による死者を出すことになります。昨日、横浜市の成人式が大荒れだったそうですが、もしかしたら森鴎外が歌詞を書いた横浜市歌の祟りかもしれません。否。きっと暴れた新成人にはカルシウムが足りていなかったのでしょう。

 岩田健太郎さんは、この「脚気の論争」をもとに、演繹法と帰納法という言葉を使って、次のように書きます。ここでいう演繹法とは、簡単にいうと「理論→現場」というトップダウンみたいな考え方。帰納法とは、簡単にいうと「現場→理論」というボトムアップみたいな考え方です。

 

(前略)「一般的に」医学の世界では、演繹法よりも帰納法のほうがうまくいく可能性が高いと経験的に僕は思います。

 

 医学の世界と教育の世界はよく似ています。「一般的に」教育の世界でも、演繹法よりも帰納法のほうがうまくいく可能性が高いと経験的に私は思います。

 

 だから「キャリア・パスポート」は効きにくい。

 

 かつて道徳の副教材として配布された「心のノート」と同じように、演繹法によってトップダウンで決められたものだからです。しかもキャリア・パスポートを「効く」ものにするためには、教師が児童・生徒の一人ひとりと「対話的に関わること」が必要とのこと。もはやファンタジーです。通知表を渡すときだって一人1分くらいしか関わることができないのに。自治体によっては通知表以外にも、カルテや学力テストの結果などもあるのに。それに加えてキャリア・パスポートですか?  対話ですか? 現場との対話はどうなっていますか? ビルドするなら、せめて何かをスクラップしましょうよ。

 理論的には、演繹的には、このご時世、キャリアのことを早い段階で考えなければいけないのはわかります。でも、帰納的には全く必要とされていません。必要とされていないというか、現場はもうパンクしていて、あらゆることが適当になっています。

 

 脚気による死者、およそ3万2000人。

 

 賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶといいます。教員は愚者でいいので、賢者である官僚さんたちには歴史に学んでほしいものです。

 

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ライブ終了後、パシフィコ横浜から海を望む

 

 もしもヒゲダンのメンバーが小学生や中学生、高校生だったときに「キャリア・パスポート」を手にしていたとしたら。いったい、何を書くのでしょうか。やはり《髭の似合う歳になっても、誰もがワクワクするような音楽をこのメンバーでずっと続けていきたい》(Official髭男dism 公式サイトより)かな?

 

 夢があって、よい。

 

 

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