田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

岩田健太郎 著『ワインは毒か、薬か。』より。目次を見ると読みたくなり、読むとワインを飲みたくなる一冊。

 ぼく自身はこの「たばことアルコールはどっちがより悪いか」という問題についてはたぶん、どっこいどっこいだと思っている。微細な差はあるのかもしれないけれど、そんな「比較」は不毛な議論だとすら思う。健康への悪影響がある点、社会的に問題がある点においてはどちらも変わりがないか、大きな違いはない。ただ、喫煙と喫煙者にはものすごく辛辣で厳しく非難するくせに、自分の飲酒には恐ろしく甘い医療者はわりと多い。そういうのはおかしい、とぼくはいつも思っている。それって二重規範、ダブルスタンダードではなかろうかと。
(岩田健太郎 著、石川雅之 絵『ワインは毒か、薬か。』朝日新聞出版、2017)

 

 おはようございます。今日は父の誕生日です。午後に年休を取り、実家に帰る予定です。父は敗戦の1年前の1944年生まれで、もう76歳。あと何回「1月24日」を家族水入らずで祝うことができるのだろうと考えると、切なくなります。誕生日に限らず、昔は当たり前のように家族でご飯を食べていたのに、今ではそれが年に数えるほどしかありません。そう考えると、今の「当たり前」の風景が、かけがえのないものに思えてきます。私と妻と長女と次女。毎晩、ワインでも飲んで乾杯したいところです。

 そんなわけで、今夜は誕生日プレゼントにワインでも買って帰りたいのですが、残念ながら父は体質的に飲むことができません。たばこはよく吸っていたものの、飲んでいる姿は一度も見たことがありません。おそらくは「アルデヒド脱水素酵素」の活性が平均的な日本人よりもさらに弱いというか「無」に近いのでしょう。《シニアワインエキスパートというすごい資格を持ち、ワインへの造詣は鬼激深》という岩田健太郎さんの書いた『ワインは毒か、薬か。』に、アルコールへの耐性を決定づける「アルデヒド脱水素酵素」のことが書かれています。アルデヒド脱水素酵素をプレゼントできたらいいのに。

 

 蘊蓄は毒か、薬か。

 

 

 ワインについての蘊蓄も満載の『ワインは毒か、薬か。』は、感染症医のプリンスと呼ばれる岩田健太郎さんが、医師&ワインラバーの立場からワインの快楽を縦横無尽に語り尽くした一冊です。目次を見ると、例えば次のようなものが並んでいて、ヘミングウェイや永井荷風を始めとする「ワインを愛した文豪たち」がかつてしたためたワイン本とはひと味もふた味も違う語り口であることがわかります。

 

 川島なお美さんのがん死とワインの本当の関係
  「君の名は。」にも出てきた口噛み酒の風習
 ヘミングウェイも!?「お酒」と「うつ病」の因果関係
 マリー・アントワネットのバストをかたどったグラス
 薬であり、心に潤いを与え、疲労を回復させるワイン

 

 どうですか。読みたくなりますよね。しかも読むと飲みたくなるんです、ワイン。単に知識が増えるだけでなく、ワインがもたらす健康効果のことがよくわかるし、毒にならない飲み方や、薬になる飲み方もよくわかるからです。それに蘊蓄が増えると、どうしたって興味がわきます。興味がないことと知らないことはほとんど同義ですから。

 

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ワインと女と歌を愛さぬ者は、生涯の愚者であろう

 

 写真のキャプションは、宗教改革で有名なマルティン・ルターの言葉と言われています。これが知識なのか蘊蓄なのかという話はさておき、岩田健太郎さんは《厳格なプロテスタントの創始者にしてはずいぶん享楽的な箴言を残したものだ》と書いています。きっと、享楽的な箴言を残したくなるくらい、ステレオタイプなイメージに対する不満があったのではないかと想像します。

 

 正義から享楽へ。

 

 社会学者の宮台真司さんの著書にそんなタイトルの本がありますが、プロテスタントたる者かくあるべし、とか、医師たる者かくあるべし、とか教師たる者かくあるべしとか、ほんと、余計なお世話ですよね。過労死レベルの労働に加えて、聖職的なイメージまで押しつけられたら、こんなふうに叫びたくなります。

 

 

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ブロガーのインクさんに見初められた画像です(https://taishiowawa.hatenablog.com/about

 

 冒頭に戻って、たばことアルコールはどっちがより悪いか。

 

 岩田健太郎さんは「どっこいどっこい」と書いていますが、どっこいどっこいの理由に頷きつつも、私には「たばこ=悪」というイメージがぬぐえません。家族の健康を気にかけていた母が、ヘビースモーカーだった父によく小言を言っていたからでしょうか。

 悪という固定観念が染みついているため、私はたばこを一本も吸ったことがありません。父の亡くなる日に、父が愛していたたばこを一本だけ吸う。以前からそう決めています。それなら健康被害もほとんどないと思います。ちなみに岩田健太郎さんの父親もたばこを吸う人だったようで、そのことが影響して《ぼくは子どものとき、たばこのにおいがすごく苦手だった》と書いています。大人になった今は、数年に1本くらいのペースで葉巻を嗜んでいるそうです。普通のたばこは吸わない、とのこと。曰く《将来、キューバにも行って本場で葉巻を楽しんでみたいとも思っている》云々。カッコいいなぁ。

 

「カッコいい」とは何か。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 以前、銀座にある「ワインショップ・エノテカ   銀座ミレ店」で、『「カッコいい」とは何か』の著者である平野啓一郎さんにサインをしていただいたことがあります。書籍や色紙ではなく、2本のワインボトルに「平野啓一郎」とカッコよく書いていただきました。2本とも宝物です。だから机に飾ってあります。

 

 飲みたいなぁ。
 でも、このまま飾っていたいなぁ

 

 

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ワインの保管は温度と光に注意

 

『ワインは毒か、薬か。』によれば「ワインの保管は温度と光に注意」とあります。平野啓一郎さんのサインがカッコいいので「適切な保管」は二の次になってしまっていますが、岩田健太郎さんも《健康は人生にとって大きな価値だが、価値の全てではないのだから》と書いています。価値は自分で決めること。

 

 仕事は毒か、薬か。

 

 仕事よりも家族優先で。
 

 

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