田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

岩田健太郎 著『医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法』より。是非はともかく、カルロス・ゴーンは怠惰ではない。

 日本人は怠惰である。勤勉ではない。
 効率の悪い仕事だとわかっていても、意味のない書類だとわかっていても、意味のない会議だとわかっていても、怠惰だから改善しようという努力をしない。流れに任せて、ダラダラと仕事をし、ダラダラと書類を書き、会議でぼーっとしている。
~中略~
 日本では、努力は報われない。もともと日本人は勤勉である、という幻想が前提になっているからだ。だからブラック企業は横行し、その対策もうまくいかない。努力しても報われないということが偏在的なので、アメリカ人ならぶち切れてしまうような事態でもおとなしく納得してしまう。これも怠惰のなせる業である。
(岩田健太郎『医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法』中外医学社、2017)

 

 おはようございます。昨日書いたブログを岩田健太郎さんにリツイートしていただきました。嬉しすぎます。天にものぼる気持ちってやつです。その前までちょっと凹んでいたのですが、ダークサイドからライトサイドへと一気に気分が変わりました。

 

 世界観なんてリツイートひとつで変わる。

 

 そういった処方箋なのだと思います。さすがお医者さんです。岩田健太郎さんと同じように「書くこと」と「診ること」を両立させていたロシアの文豪チューホフも、同じようなことを言っています。世界観なんて風邪を引いただけで変わる。だからうろたえるな。お医者さんって、やはり頭がよい。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 繰り返します。お医者さんって、やはり頭がよい。世間一般のこのイメージに対して、いやいや、そうでもないですよ、というのが、これから紹介する岩田健太郎さんの『医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法』という長いタイトルの本です。

 

 

 同僚によく勧めている『主体性は教えられるか』に対して、この『医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法』は、保護者や卒業した教え子によく勧めています。長女(中3)にも勧めました。世界観が思春期によって変えられているためか、実にイヤそうな顔をされましたが、医学部を目指していなくても、医学生でなくても、まだ親になっていない人でも、得るところのたくさんある「読むべき」本だと思います。

 

 読書は快楽だ。

 

 苦痛を伴う快楽で、マゾな快楽だ。著者は、読書のところを「勉強」と置き換えて、そう書きます。そして《でも、多くの日本人は、勉強は快楽の存在しない、手段のための必要悪であり、通過点、ただの苦痛と考えている》と続けます。だから大人になると本を読まなくなるし、勉強もしなくなる。努力だってしなくなる。教師も然り、そして著者曰く「医師も然り」です。

 頭がよいというのは、努力を積み重ねて自分を変えていく勇気や、知的な好奇心をもち続けるような態度のことを指します。しかし著者は《高校時代よりも大学時代、大学時代よりも医者になってからのほうが努力量は増えた、という医者は稀有》であり、世間が思っているほどには医師は勉強をしていない、と指摘します。頭がよいと見なされている医師がそうなのだから、ほとんどの日本人は勤勉などではなく、逆に、怠惰である。確かに、そう考えることができます。

 

 日本の教育制度は、快楽のための勉強ではなく、手段のための勉強を子どもたちに強いている。

 

『学問のすすめ』が例として取り上げられています。1万円札の福沢諭吉でさえも、学問や勉強を立身出世のための「手段」として奨励してしまっている。学問や勉強が快楽としてではなく、手段として行われるようになったのは、今に始まったことではないということです。長い歴史が、怠惰な国民をつくりあげているというわけです。

 

 医学部に入るために勉強しよう。

 

 そうなると、もっぱらの関心事は他者との優劣になってしまいます。他者に勝たなければ医学部に入れないからです。疑問などもたず、受験に特化して、効率よく勉強すればいい。だから医学部に入ってしまえば、もうこれまでのような熱量をもって勉強する必要はなくなります。もともと勉強それ自体に欲望していたわけではないし、効率を追求する過程で学問や勉強に最も必要な「問う習慣」を切り捨ててしまっているため、あとは惰性で飛ぶだけです。

 怠惰は、そこにつけこみます。他の職種でも同じです。検事になってしまえば、或いは教師になってしまえば、怠惰がデフォルトになる。そうなるともう、ブラックな司法制度も、どブラックな教育制度も、改善されることはありません。改善のために必要な、何かおかしくない(?)と疑問に思う力がついていませんから。アメリカ人ではないものの、カルロス・ゴーンがぶち切れるのも当然です。

 

 是非はともかく、カルロス・ゴーンは、怠惰ではない。

 

 世の中を改善していくのは、問いと、主体性をもった個人です。福沢諭吉に取って代わることになる渋沢栄一もそうなのかもしれません。もちろん、1秒もムダに生きない岩田健太郎さんだってそうです。主体性をもち、問い続ける個人は、怠惰ではない。怠惰ではないから、思考停止することなく理のないことにはちゃんとぶち切れて、制度を改善していくことができる。

  

 サヨナライツカ。
 サヨナラタイダ。

 

 よし、仕事始めだ!

  

 

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