田舎教師ときどき都会教師

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岩瀬直樹 著『クラスづくりの極意』より。教育書以外の本を読もう。たぶん、読書は力なのだ。

 先生が主役のクラス。いつのまにかボクはそんな道を歩んでいることに気づき、ガクゼンとしました。もしかしたらどこかで、「おもしろいことをしなければ子どもたちは勉強しない」「教師がひきつけなければ子どもたちは生き生きと活動しない」と思い込んでいたみたいです。しかし、それは大きな間違いでした。
 学級の中心は教師ではなく子どもたち。その原点に立ち返って一からやり直すことにしました。
(岩瀬直樹『クラスづくりの極意』農文協、2011)

 

 こんばんは。岩瀬直樹さんのことは『効果10倍の〈学び〉の技法 シンプルな方法で学校が変わる!』 を読んだときに知りました。今から14年前、2007年のことです。吉田新一郎さんとの共著とはいえ、現職教員なのにすごいなぁと思ったことを覚えています。すごいなぁはその後も続き、現在は自らが起ち上げた軽井沢風越学園の校長および軽井沢風越幼稚園の園長を兼任しているというのだからレジェンドです。ちなみに『効果10倍の~』は、冒頭に引用している『クラスづくりの極意』に負けず劣らずのお勧め本で、一読すると、これは沢木耕太郎さんの言葉ですが、《たぶん、方法は力なのだ》って、そう思えます。

 

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 たぶん、読書は力なのだ。

 

 岩瀬さんは読書家です。かなりの読書家です。そこが信頼&私淑するに足るところ。おそらくは沢木耕太郎さんの本も読んでいるでしょう。中川綾さんとの共著『みんなのきょうしつ』に、岩瀬さんは「教育書以外の本を読むことの大切さ」と題して、次のように書いています。

 

 ボクの場合、教育書以外の本を読むことで、今の教育を一歩引いた立場で見ることができ、そこから今の教育の問題点に気づくことも少なくありません。
 分野としては、専門書、新書、ビジネス、エッセイ、ノンフィクション、漫画など、さまざまな分野の本を乱読しています。教育以外の思考や思想の中には、教育において大事なヒントがたくさんあります。

 

 メンターづくりの極意。

 

 そういった極意があるとすれば、私は「教育書以外の本もたくさん読んでいる先輩を見つけること」を推します。私の師匠は一人残らず読書家でした。大量採用時代の教員たちが、メンターづくりの極意とクラスづくりの極意を極めれば、学校も変わるかもしれません。

 

 

 イワセンこと岩瀬直樹さんの『クラスづくりの極意』を再読しました。教室リフォームプロジェクトやお掃除プロ制度、サークル対話やホワイトボード・ミーティングなど、岩瀬さんの代名詞とも呼べる「効果10倍の〈クラスづくり〉の技法」が子どもたちの写真とともわかりやすく紹介されている一冊です。バックパッカーのバイブルが沢木耕太郎さんの『深夜特急』だとすれば、この『クラスづくりの極意』は学級担任のバイブルといってもいいでしょう。章立ては、以下。

 

 第1章 サイコーのクラスのつくり方
 第2章 子どもが主役の授業づくり
 第3章 がんばらなくてもいい、仕事の仕方
 第4章 子どもが変わる一番の方法は、ボクが変わること

 

 どの章にも共通している考えは「子どもが主役」ということです。子どもを主役にしてクラスづくりをする(第1章)。子どもを主役にして授業づくりをする(第2章)。子どもが主役だから担任はがんばらなくてもいい(第3章)。冒頭の引用にあるように、担任が変われば、すなわち主役の座から降りれば、子どもたちは変わる(第4章)。昔の言葉でいうと、児童中心主義となるでしょうか。

 

 たぶん、児童は力なのだ。

 

 デユーイが予言し、イワセンが固めたと噂される教育観です。この教育観の対義語は教師中心主義、あるいは黒板中心主義と呼ばれるもので、これがなかなか手強いというか、しぶとい。コロナ禍におけるオンライン配信を考えればわかります。曰く「肖像権の関係から教室にいる他の児童を映すことはできない。だから担任と黒板を映せばいい」云々。そんな意見がナチュラルに通ってしまうくらいに、令和の今も学校は「トーク&チョーク」というわけです。

 

 たぶん、黒板は力なのだ。

 

 子どもが主役の岩瀬さんのクラスでは、子どもたちがサークルをつくって床に座っていたり、机の配置がアイランド型になっていたりするので、黒板は脇役であり、「前」ですらありません。子どもたちの視線の先には、黒板でもなく、担任でもなく、教材あるいはクラスの友達の姿があります。それは『クラスづくりの極意』に載っている写真を見れば一目瞭然です。もしも岩瀬さんのクラスで「黒板」にカメラを固定し、オンライン配信をしたとしたら、

 

 たぶん、クレームの嵐なのだ。

 

 保護者の意識も「トーク&チョーク」のままというわけです。

 学校はなぜ変わらないのか。なぜ教師中心主義から児童中心主義へと変化することができないのか。岩瀬さんが自らの実践をもとに『クラスづくりの極意』を教えてくれているのに、吉田新一郎さんとの共著『効果10倍の〈学び〉の技法 シンプルな方法で学校が変わる!』 の増補改訂版である『シンプルな方法で学校は変わる』を2019年に出して、改めてそのシンプルな方法を教えてくれているのに、いったいなぜなのか。その増補改訂版の「はじめに」には、岩瀬さんが《当時のまえがきは、まだ少し続きますが、10年以上も前の文章にかかわらず、学校の状況が、今もなおあまり変わっていないことに愕然とします》と書いていて、それこそガクゼンとします。

 

 たぶん、10年後も同じなのだ。

 

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 岩瀬さんの『クラスづくりの極意』を再読しているときに、蛇口の話を思い出しました。以下、増田弥生さんと金井壽宏さんの共著『リーダーは自然体』より。

 

幕末に日本の武士の使節団がヨーロッパを旅しました。ホテルに泊まった一行が何より驚いたのは、洗面所の蛇口をひねると、きれいな水が出てくることでした。「国元では井戸から水をくみあげているのに、さすがにヨーロッパは違う」と武士たちは一様に感心しました。そしてそのうちの一人が「蛇口」を山ほど買い集めて帰国したというのです。

 

 岩瀬さんの『クラスづくりの極意』や、吉田新一郎さんとの共著『効果10倍の〈学び〉の技法 シンプルな方法で学校が変わる!』などを「蛇口」にしてしまわないためにはどうすればいいのか。答えはすでに書いています。方法を力にするために、蛇口を本物にするために、

 

 教育書以外の本を読もう。

 

 たぶん、読書は力なのだ。