颯太がどことなく不安定なのは、この二週間ほどのことだった。公文の宿題をやらないと香織が叱りつけるので、元々、過熱気味の幼児教育に否定的な城戸は、「足し算なんて、どうせそのうち出来るようになるんだから、今そこまでしてやる必要はない。」と息子を庇い、口論になった。子どもの教育問題が、意外に根深い夫婦の不仲の原因であることは、離婚相談でよく知っていたが、それにしても、この程度の話し合いさえ静かに出来ないというのは真面ではなかった。
(平野啓一郎『ある男』文藝春秋、2018)
こんばんは。昨夜の文学ワイン会「本の音 夜話(ほんのね やわ)」の興奮を抑えきれないまま、今朝、学校に行って「平野啓一郎さんって知っていますか?」と若手からベテランまで合計7人の先生に訊ねたところ、誰一人として知らず、ちょっと決壊しかけました。
私「平野啓一郎さんって、知ってる?」
若手「えっと、野球選手でしたっけ?」
誰だよ。気になって調べちゃったよ。平野恵一。オールスターゲーム新人賞、ベストナイン2回、ゴールデングラブ賞2回、等々。ドーン。意外と名プレーヤーだよ。
結局「本の音 夜話」の終わりに撮った平野さんとのツーショット写真は誰にも自慢することができず、文学ワイン会での私の質問(お子さんの教育について & 思い出に残っている小学校の先生について)に対する平野さんの回答についても誰とも共有することができず、透明な迷宮にでも入り込んだ気分でした。
お子さんの教育について。
アジアを代表する小説家であると同時に、8歳と6歳のお子さんのパパでもある平野さん。郷里の北九州で「田んぼに入ってただ遊んでいただけ」の子ども時代を送っていたという平野さんが、都会での子育てについてどのように考えているのか。田舎教師ときどき都会教師としては、とても興味がありました。
平野さんの回答をざっくり書くと、次のような感じです。
田んぼでただ遊んでいただけの幼少期を、ノスタルジーに浸って「よし」とするわけではないものの、東京で子育てをしていると「そこまでする必要があるのか」と思うことがよくある。未来がどうなっていくのかがこれまで以上にわからない時代に、受験適応のようなテクニカルなことをやっていて、本当に「生きていく力」がつくのかどうか。そういったことを考えてしまう。今はただ、子どもには興味のあることをさせているという段階。どうすればいいかという確信はない。
そこまでする必要があるのか。
『ある男』でいうところの《過熱気味の幼児教育に否定的な城戸》といったところでしょうか。空白は満たさなくていい。子どもには、田んぼに入ったり、森で虫をつかまえたりといった、遊び浸るための「空白」が大切だから。そんなメッセージかなと、勝手に解釈していたところ、教育の話題だったためか、思い出したように平野さん曰く「最近、学校の先生からの友達申請が多くて、ちょっと微妙です」云々。
笑い。
ちょっと微妙なのは、平野さんが小学生だったときの先生たちが、微妙だったからかもしれません。平野さんが言うには「よく叩いていた」そうで、パパになり、我が子の友達とも接するようになって、「7歳や8歳の赤の他人の子を、よくもまぁ平気で叩いたりできたものだ」と思うようになった、とのこと。そんなわけで、思い出に残っている小学校の先生については、言葉を濁していました。
ワインショップ・エノテカ 銀座ミレ店が提供してくれた「マチネの終わりに」をイメージしてセレクトしたというワイン。明日から三連休だし、夜も更けてきたし、また飲みたくなってきました。でも、平野さんが目の前でサインをしてくれた「宝物」なので、もったいなくて開けられません。まだまだ書きたいことがいっぱい。明日のブログも平野ワールドを続けます。
三連休だ🎵
台風だぁ🌀